凱旋
派遣先から戻ってきました。
私はついに辿り着いた。そう辿り着いたのだ!懐かしの”骸骨洞窟”に!愛しい、いや足りない。この言葉では足りない。私のジフ様への想いは、量的にも質的にも愛しいでは足りないのだ!
「シャー」
コメディ、おまえもそうだろう?私は”骸骨洞窟”を前にして崇高にして深遠なる難問に頭蓋骨を回す。ジフ様への想いをこの世界に現す術を思いつかない。
「オイ、早クシロ」
五月蝿いぞ顎割れ死体騎士。火事の確認に来て迷子の私達を見つけてここまで連れてきたぐらいで偉そうにするな。・・・ありがとうございます。
肩に担いだ女魔術師の魔術で燃え上がった炎は延焼こそしなかったが、”骸骨洞窟”の死に損ないに見つけられ顎割れ死体騎士を筆頭に死体兵が派遣された。
結果、焼け跡付近で人間の死体を担いでグルグルと迷子をしていた私達は、無事に帰ることができたのだ。
「イイ加減ニシロ、ジフ様ニ火事ノコトヲ報告シナケレバナラナイノダ」
顎割れ死体騎士の奴、昔に比べてよく喋るな。しかし報告することなら私にだってあるのだ。女魔術師を担ぎ直し”骸骨洞窟”に向けて止めていた歩みを進める。
”骸骨洞窟”の入り口までくると懐かしさのためか随分と違って見える。人が十人は並べそうな広い通路、外敵を防ぐための岩の扉、左右に並ぶ十頭以上の死体大鼠や死体熊などの大型死体獣・・・あれ?
私は、再び周囲を確認し出発前の”骸骨洞窟”を思い出す。狭い入り口、吹きさらしの穴、ノルマに追われる戦力不足・・・ここは”骸骨洞窟”ではない!!!
【顎割れ死体騎士、ここどこだ!】
顎割れ死体騎士が驚いたように止まり周囲を見回す。
【私だ!大鉈だ!】
今度こそ顎割れ死体騎士が私を振り返りマジマジと見てくる。割れた兜の間から見える白濁した目の迫力はなかなかのもので少し引いてしまう。
「オマエガ言ッタノカ」
【そうだ。それよりここどこだ!】
「コレハ声デハナイナ。何ダ?」
【それよりここどこだ!?】
「ココハ”骸骨洞窟”ダ・・・アア、ソウカ。イマ”骸骨洞窟”ハ拡張中ナノダ」
【拡張中?】
「ソウダ。狭クナッタノデ急遽広ゲテイルノダ。歩キナガラ説明シテヤル」
顎割れ死体騎士は、そう言うと返事も待たずに広くなった通路の真ん中を堂々と歩いていく。私は、慌てておっかなびっくりその後に続いた。
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拡張された”骸骨洞窟”は随分と姿を変えていた。階段までの通路に何本も横道があり、何匹もの死体獣とすれ違った。以前は、一本道で死に損ないにも滅多に会わなかったのに。外でも感じた違和感がより大きくなっていく。
「オマエ達ガ派遣サレタ後、急激ニ死体獣ガ増エタノダ。シカシ大型ノ動物ガ多カッタノデ、スレ違ウコトサエ出来ナクナッタ」
ちょうど横を死体巨大鼠が二頭通り過ぎる。確かに昔なら一頭でも通るのに苦労していた。
「ソンナ時、アイツ等ガ鉄土竜ヤ泥熊ヲ狩ッテキタノデ、拡張スルコトニナッタノダ」
新たに掘られた横道で鉄の爪を振り回す死体鉄土竜、その後ろで岩を体毛から分泌する液で泥のように溶かしている死体泥熊。岩を掘るには最適な奴らだ。しかも死に損ないだから休むことなく作業し続ける。
階段を下りると大きな部屋があるのは同じだったが、中が違った。何十匹、何十頭といる死体獣の群だ。降りてきた瞬間、全部の頭がこちらを見たので怖かった。
「コイツラハ昨日遠征カラ戻ッタバカリダ。次ノ目標ガ決マルマデ待機シテイル」
遠征?目標?何を言っているのかよく分からない。短い間に変貌した”骸骨洞窟”に思考が追いついていないのだろう。コメディも流石に肋骨の中で首を回転させている。
「昨日ノ遠征デ近隣デ確保デキル材料ハ根コソギニシテシマッタ。次ハドコニナルコトカ・・・」
さらに階段を降りてジフ様のおられる階についた。顎割れ死体騎士の話を頭蓋骨の中に反響させながら、再び大きく変貌している通路に驚く。十字路があった場所が、円形の部屋になっており通路が何本もできているのだ。
「ジフ様ガ派手ニシロト命令サレタノダ・・・マア、ドウセ死体獣ノ待機場所ガ必要ダッタノダガナ」
通路の一つから明かりが漏れている。あの方向はジフ様の部屋だ!?
「オイ!イキナリ見ルト衝撃ガ大キイ。ヤメテオケ!?」
顎割れ死体騎士の言葉などまったく聞かずに部屋に飛び込む。ジフ様を見つけ近寄ろうとしたときあいつ等に気づいた。
ジフ様の左右に並び立つ全身に何体もの蛇体を備え、剣に盾そして鎧を身に着けた血塗れの骸骨兵に。
席が残っているとは限りません。
新型登場です。