森の襲撃者
女性に背後から襲い掛かります。
ゆっくりと静かに女魔術師を一撃で殺せる場所へ移動した。駆け寄っても五歩は掛かるが女魔術師の真後ろである。見張りには気づかれても、女魔術師が立ち上がる前に大鉈、毒手、コメディの三連撃で確実に殺せる。
蛇骨兵達の位置を確認した。焚火の明かりが届かない闇の中、二つの青い人影が人間達を挟んで反対側に移動している。
まだ襲撃位置についていないが、その代わり彼らはより人間達に近づけそうだ。
やがて蛇骨兵達から準備が整ったことを伝える精気が放たれる。
【着いた】【殺る】
【了解、合図、一緒】
【了解】【早く】
私は、精気を放つことで返事とともに同時に襲うことも伝えた。
いつでも跳び出せるように両足に力を込めて、人間達を襲う機会を窺う。握り締める大鉈の柄が鳴り、手刀の形に伸ばした左手から毒が滴る。
【コメディもいいな?】
【・・・分かった】
・・・人間達の会話も止み、夜の森に焚火と虫の音が満ちる。
パヂッ
焚火が大きく爆ぜる。その音に人間達の意識が・・・
【今!】
人間達の動きを最後まで確認せずに襲撃の合図を送る。間髪いれず私自身も飛び出す。
一歩
「シャー!」「シャー!」茂みから飛び出す蛇骨兵。
二歩
「な」「ばけ」蛇骨兵に気づく見張り二人。
三歩
「え?」「は?」蛇骨兵の方を振り向く騎士と魔術師。
四歩
「チッ」私に気づく最後の見張り。遅い!
五歩
ガッ!ドス!シャー!
刃を打ち、鎧を貫き、蛇が喉に噛みつく音が森に響く・・・
「グッガ」
・・・女魔術師を庇った双剣の男の断末魔と共に。
仕留めそこなった!
女魔術師は、やっと自分の背後で何かが起こったことに気づき振り向いた。私の毒手に胸を貫かれた男を見て状況を理解したの目を見開いていく。
「ジョージ!」
「マリエル嬢!立て!」
女魔術師の叫びに全身鎧の声が被さる。
蛇骨兵の襲撃も失敗したようだ。全身鎧の騎士は両腕で顔面と首を庇いながら、少し離れたところで立ち上がっていた。地面を転がったのか全身に土と木の葉がついている。
不意討ちの毒牙を防ぐなんて冷静な奴である。大抵、反撃しようとして武器を振り上げたところを脇の下や首に噛みつかれるのだが。・・・いま蛇骨兵に斬りかかり首と脇の下に毒牙を受ける見張り二人のように。
「ギャ!」「ウエッェェェェ!」
「ジョン!トーマス!」
「逃げるぞ!早く立てマリエル嬢!」
女魔術師と全身鎧男が暢気に叫んでいる間に、私は双剣男から毒手を引き抜く。・・・薄いとはいえ金属製の鎧を正面から貫くとは、瘴気竜の骨が凄いのか、マダム・ケルゲレンの毒が非常識なのか。
胸の穴から溶けた肉を零す死体は、竜骨毒手の危険性を私に伝える。そのうち自分の骨を溶かしそうで怖い。”骸骨洞窟”に帰ったらジフ様に何とかしていただこう。ジフ様!私を御助けください!
「よくも三人を!火矢呪文!」
私の崇高な行いを邪魔するように女魔術師が叫んだ。冷静には程遠い様子だが魔術を放ったのだ。女魔術師の杖から伸びる細長い炎を、私は双剣男の死体を盾のようにかざし凌ぐ。それでも盾越しに熱が伝わり思わず後退してしまう。
「ジャ!?」「ジャー!」
蛇骨兵にも炎は伸びていたようだ。体に纏わりつく炎に蛇骨兵は二人とも叫び狂ったようにのたうちまわる。
「ジャーシャー!シャー!?」
コメディも私が盾にした燃える男から逃れたいのか、肋骨の中で暴れまわる。蛇骨兵もコメディも尋常ではない!どうしたんだ?
「ジョージっ・・・よくも!」
目を逸らした隙に女魔術師が再び叫び杖を高く掲げる。今のはおまえがやったんだろう!こんなに燃えたらジフ様に仲間にしていただけないだろう!?
私が心の中で反論をしているうちに、女魔術師の杖の先端には、一抱えもある燃え盛る火の塊が生まれていた。
「喰らえっ・・・」
丸焼きにされても文句は言えません。