森の観察者
変態ではありません。殺戮者です。
ザッ
私は、考える前より先に地に伏せ蛇骨兵達と相談する。
【見つかったか?】
【否】【無い】
【数は?】
【・・・五人】【五?】
【観察後襲撃】
【同意】【同意】
『敵を見つけたら殺せ!敵が少なければすぐ殺せ!敵が多ければ弱い奴からを殺せ!敵がとても多ければ偉い奴から殺せ!』敬愛する船長ガデム様の声が頭蓋骨に響き、そのとおりに思考し体が動く。
私達は、地に伏せたまま静かに人間達に這い寄る。焚き火を囲むように五人の人間が休んでいる。周囲を警戒しているのか外向きに三人が立ち、二人が座っている。
これ以上近づくと弱い奴を見つける前に見つかるかもしれない。
【停止】
【了解】【観察】
【立つ三人】【座る二人】
【立つ鎧、鎧、鎧】【座る鎧、外套】
【武器?】
【立つ剣、剣、剣二つ】【座る剣、棒】
棒?外套に棒・・・老人なのか。この森の奥に?私は先行する蛇骨兵の報告に違和感を感じて直接自分で観察するため木の陰に隠れるようにして近づく。
確かに周囲を警戒する三人は軽装鎧姿で、双剣以外の二人は小型だが盾まで持っている。そして座る二人は、兜を外して瓶で何かを飲んでいる全身鎧の男と身の丈ほどの棒を持っている外套の・・・女であった。
焚火の爆ぜる音に混じり二人の声が聞こえてくる。どうやら全身鎧の男と外套の女が話しているようだ。
「・・・何故、天幕を広げて野宿をしないだい?女のあなたもそのほうが嬉しいはずだろ」
「キンケル隊長。この森の中でそんな広い場所は確保できません。それと任務中に飲酒はやめてください」
「酒ぐらいいいだろ。携帯食に合うんだよ。広い場所なら君の魔術でぱっと・・・」
「精気が持ちません。本当なら森の中で夜を過ごすのさえ避けるべきなんです。死に損ないは夜になると力を増すと言われています」
「死に損ないね~?ここらで死に損ないの群れを見たって話の確認が目的だからさっさと出てくれると楽なんだけど」
「冗談はやめてください!?」
「死に損ないと言っても魔王軍に滅ぼされたスチナ王国の人間が材料だろ。我らアンスターの騎士に掛かれば楽勝さ」
「キンケル隊長。スチナ王国は、北部王国同盟最強の国であり魔術先進国でした。その魔術を取り込んだ死霊魔術を軽視するのは危険です」
「北部王国同盟か・・・懐かしい名だね~。一時は、我ら南部王国連合に張り合ったのに、今では滅亡、降伏、裏切りの三拍子か。哀れだね~」
「・・・北部王国同盟は壊滅しましたが、ここ数十年は南部王国連合が敗戦続きだったはずです」
「そうだっけ?それよりマリエル嬢、君も飲まない?」
「飲みません!任務中です!」
全身鎧の軽い男が隊長で外套の堅い女が魔術師らしい。棒に見えたのは、魔術に使う杖だろう。
『神官と魔術師だけには気をつけろ!神官の浄化はワシ達死に損ないには致命傷だ!魔術師の魔術も火を出すものが多い!焼かれたら終わりだ!神官と魔術師は殺られる前に殺れ!最優先だ!』
了解です偉大なる船長ガデム様!頭蓋骨の中に響く呪縛が私を動かす。
【外套は、魔術師】
【殺す】【喰らう】
【私殺る】
【了解】【了解】
【座る鎧、偉い】
【殺す】【喰らう】
【頼む】
蛇骨兵達と相談を終えた私は、溶けかけた木の幹から左手を離し女魔術師の後方に向かう。
握り締めると血のように毒が滴り落ちた。
初めて(生きた)女性が登場しました。
ここまで出さないとは、ファンタジーにあるまじき所業ですね。