森の迷子
二度あることは三度あります。
幽霊船が離れていく。
私は、愛しい幽霊船との別離に若干の寂しさを感じつつも視線を海から逸らし背後を振り返る。
少し離れたところから木々が密集し始め、遥か遠くまで続いている。私が十日ほど前に越えてきた森だ。後は、この森の中を戻りさえすれば”骸骨洞窟”に着く。ジフ様!ついに、ついにここまで来ました。
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迷った。
元々幽霊船に乗るために森を越えたときも顎割れ死体騎士が案内してくれたから、一日であの廃村まで着けたのだ。案内も無く、”骸骨洞窟”の陰の精気も見えないのに迷わないはずがあろうか? いや無い!
私は、前後にいる蛇骨兵達に尋ねる。
【道分かる?】
「シャー?」【道?】
「シャ?」【何それ?】
蛇に聞いた私が愚かだった。道の意味や存在さえ理解できないようだ。しょせん蛇頭である。
「シャーシャー」【スアナも同じ】
ん? コメディどうしたんだ。飽きれるような顔をして?
……最近、コメディというか蛇の表情が分かるようになってきているような。しかし流石に蛇語は分からない。スアナとは何のことだろう?
深遠な謎に悩む私は、うっかり左腕で頭蓋骨を押さえてしまった。
ジュッ
慌ててその凶悪な左手を離す。危うく頭蓋骨を溶かすところだった。死霊魔術師ケルゲレン様にいただいた竜骨毒手である。結局、船長ガデム様の恐怖に負け、私の左肩につけられることになった。ジフ様!決してジフ様を蔑ろにしている訳ではないのです!?
……そういえば幽霊船を降りたとき、死霊魔術師ケルゲレン様が『……次は全身……』『……東の森のジフ……』とか死に損ないらしい陰の精気を纏いながら呟いておられた。あれはいったいどのような意味なのだろうか?
ジフ様に対する懺悔をドジッ娘への疑問に変えて精神の安定を得た私は、現実の問題に対処する。
よし。夕日に向かって進もう。何故ならば”骸骨洞窟”は、西にあるからだ!
私の冴えた判断に二人の蛇骨兵も賛成したのか共に歩き始めた。ジフ様、あなたの骸骨兵はもうすぐ戻ります。
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夜になった。”骸骨洞窟”の精気は見えない。以前同じように迷ったときは、仲間の骸骨兵に会えたりしたのだが、今回は未だ会えていない。この際、顎割れ死体騎士でいいからそこら辺を歩いていないだろうか?
死に損ないは、昼夜の関係も休憩の必要も無いのでひたすら歩き続ける。
昔は、すぐジフ様に助けを求めていたが幽霊船に乗ったせいだろうか?助けを求めても助けは無いような気がするのだ。あっ!考えるとまた頭蓋骨が痛む!なにより見つからなければ見つかるまで探せばいいのである。死に損ないにとって時間は無限なのだから・・・
迷ったことから完全に目をそらして、空虚な自信を胸に進み続ける。
しばらく進むと少し先、木々の間で何か動いている。明るくなって精気が見えない場所があるのだ。
動物か”骸骨洞窟”の死に損ないだろうか?
確認のため近づこうとすると先行していた蛇骨兵が精気を放ってきた。
【待つ】
蛇骨兵は続ける。
【人間!】
また熊に出会うとは限りません。