御土産を手に
魔術師とは探求者です。
青い空、白い砂浜、静かな廃村。ジフ様、私は今、帰ってきました。・・・海岸に。
「おい!血塗れ遺骨兵、碇を下ろせ!」
【了解!】
船長ガデム様の命令に滑らかに反応する体・・・もう考えるのはやめた。考えすぎると何か恐ろしいことを思い出してしまいそうだからだ。世の中には知らないことが幸せなこともある・・・。
諦観の念で思考を止めているうちに、テキパキと停船及び下船の準備が終わる。
やっとこの愛しい幽霊船から脱出できるのだ。私は、自分の矛盾した思いに気づきもせず海岸へと続く架設階段に向かう。
「待ってください」
船内から私達を呼び止める声が届く。
「間に合ったようですね。よかった」
言葉を続けながらドジッ娘が、壷を抱えて階段を上がってくる。ああ、そんな壷を持って歩くとまた!?
カッ
「アラ?」
奇跡的に階段を上りきった死霊魔術師ケルゲレン様は、予想したように甲板の継ぎ目に躓いた。倒れこそしなかったが手にしていた壷が空を飛ぶ。その先は・・・
「ワシッ!?」
船長ガデム様は、自分に向かって飛ぶ壷に驚愕しつつも腰の蛮刀を閃かせる。
チッン
おお!?船長ガデム様が武器を振るうのをはじめて見た。偉そうにしているだっけあって見事、壷を真っ二つに切り裂いた。そう壷は。
バチャ
左右に壷の残骸が落ちる中、船長ガデム様の頭に壷の中身・・・緑?いや紫の毎朝飲むと健康に良さそうな汁が掛かる。船長ガデム様は、蛮刀を振り切った決め姿で静止してしまう。なにか葛藤しているようだが、その心を知ることはできない。
「キャプテン・ガデム!すいません!早く洗わないと!」
「・・・大丈夫ですよ。マダム・ケルゲレン。このキャプテン・ガデムこれしきのことなんとも思っておりません。謝罪には及びません」
あっ。復活した。
「ありがとうございます。・・・・・・いえっ。そうではなくて・・・溶けるんです」
おや船長ガデム様の全身から煙が・・・
「ギャーーーーーーーーー」
舷側を飛び越える船長ガデム様。あれ?今、船は海岸に・・・
バス
水を叩く音と何かがぶつかる音が重なって聞こえた。
~~~~~~~~~
「これは蛇骨兵さんを参考に、いろいろな骨を毒液に漬けた状態で精気を注ぎ創造したんです」
あの後、ドジッ娘は、切り裂かれた壷の残骸に近寄り紫色をした腕の骨を回収して説明を始めた。・・・ちなみに船長ガデム様は、海岸で体を洗っている。
「異なる種の骨を一体の死の損ないにできるなら、爪や牙そして毒も組み合わせて死の損ないにできないかと考えたんです」
【爪や牙?】
目の前にある紫色の骨は、人の腕の骨のように見えるのだが?
「ええ。人の骨は毒液に漬けると溶けてしまって・・・手持ちのいろいろな素材を削ったりしてそれらしくしたんです」
晩御飯のちょっとしたコツのように仰られても。それに人骨が溶ける毒液って・・・
【何をまぜたら?】
「え?・・・骨は、毒蜥蜴や瘴気竜を使えば溶けませんし。毒液は、毒海月と河豚毒に・・・他にもいろいろ使いましたわ。
以前から骸骨兵や死体兵の毒手を創造したいと思っていたんです。けれど人って毒に弱くて。そこに蛇骨兵さん達が・・・」
毒蜥蜴にカーズドラ・・・ドラゴンですか!?それより骸骨兵の毒手ということは、その左腕の骨はもしや・・・
「後は、血塗れ骸骨兵さんの肩につけるだけです」
やはり私の左腕ですか!?とても嬉しいのですが、ジフ様以外が創造した骨をつけるのは・・・
「血塗れ骸骨兵。まさか断らんよな?」
架設階段を上ってきたのか、背後から船長ガデム様の声がした。
ドジッ娘は竜骨毒手創造のため一週間引きこもってました。