未知なる恐怖
この世界大陸ドーマンには、虎馬と言う魔物がいます。
【ジフ様!】
私は、突然あの世から戻ってきた。頭蓋骨を左右に振る。死に損ないは眠ることが無いのに夢を見ていたようだ。それにあの世とはどこのことだ?思わず自分自身に突っ込む。
目の前に船長ガデム様がいる。危ないところだった。居眠りなんてしてたら昨日のようにド素人と罵られ海に投げ落とされる。なあコメディ?
「シャー」
どうしたんだコメディ?どうしてそんな哀れむような濁った眼球で私を見るんだ?
おや?なぜか右手に幽霊船免状と書かれた紙を握っている。これは、先ほど死霊魔術師ケルゲレン様に教えていただいた出世の証だろうか?不思議だ。いつの間に貰ったのだろうか?
他にも全身の骨が傷だらけだし、蛇骨兵が二人に減っている。極めつけは、幽霊船の周囲の船が一隻から四隻に増えていることだ。一体全体何があったんだ?
私が理由の分からない謎の怪現象になぜか怯えていると船長ガデム様が声を掛けてくる。
「おまえ達の働きで十分な死体水兵が確保できた。一週間の教育を生き残ったおまえ達を手放すのは惜しいが。明日にでも、おまえ達を拾った海岸にでも降ろしてやる」
「シャッ!」「シャッ!」【感謝します!】
あれ?なぜ私は蛇骨兵と一緒に最敬礼しながら返事をしているんだ。
まるで私が私でないようだ・・・恐ろしい!?恐怖が、自分自身が分からないという恐怖が指を、手を、体を震わす。
「シャー」【哀れ】
コメディ!?今、今はっきりと哀れ、と発したよな?何か知っているのか?教えてくれ!
私は同情の視線を送ってくるコメディに縋りつくが、無常にも相棒はその体を肋骨の中に沈めていった。
【コメディーーー】
私の声無き絶叫が空しく響く。
恐怖に囚われ、相棒に見捨てられた私は、甲板を掃除していた。
なぜか自然と体が動き心が癒されていく。本来疲れを感じない体の、存在しないはずの疲れが抜けていくようだ。いつの間にか船底のフジツボまで取ってしまった。私はこんなに泳ぎが上手だったろうか?考えると頭蓋骨の中心に痛みが走る。
隣で同じように作業していた蛇骨兵達は、自分の行動にも、いつの間にか減った仲間のことにも疑問が無いようだ。疑問が無いどころか、鳴きもせず目すら逸らさず作業を続けるその姿は、不気味ですらある。
「掃除は終わったか玄人!」
「シャ」「シャ」【終わりました!】
まただ!船長ガデム様の問いには、最敬礼で答えてしまう。それに私達の呼び方が先ほどから見習いやド素人から玄人に変化している。
これが船長ガデム様が仰っていた正体の分からない恐怖なのか!?恐ろしい、恐ろしいです。ジフ様、この哀れな血塗れ骸骨兵を御助けください。
「キャプテン・ガデム。こんにちは」
私が、恐怖に震えジフ様に縋っていると死霊魔術師ケルゲレン様が声を掛けてきた。
「マダム・ケルゲレン。こんにちは。今日も御美しい」
「ありがとうございます。明日、血塗れ骸骨兵と蛇骨兵が船を降りられると聞いたのですが?」
「そのとおりですが。何か?」
「いえ。確認しておきたかっただけです。・・・ただ降りるとき少しだけ時間をいただけますか?」
「それぐらいでしたらいくらでも。明日一日海岸にいても大丈夫です」
「ありがとうございます」
死霊魔術師ケルゲレン様は私をチラッと見てから船内に戻られた。
ドテテテッ
階段を落ちるドジッ娘の音がする。
虎馬の攻撃を受けると記憶障害、不眠、欝、頭痛などに襲われるようになります。




