栄転への道
一般的に幸運な出来事です。
「マダム・ケルゲレン。申し訳ないが転移の受け入れ準備を御願いしたい」
船長ガデム様がいつのまにか私達の背後に立っていた白骨の美人死霊魔術師に願う。
「はい。準備は高速輸送船と幽霊船、どちらにすればよろしいでしょうか?」
「首席殿は、面倒なことをすぐに終わらせたがる。高速輸送船で今から御願いする」
「分かりました」
死霊魔術師ケルゲレン様は、了承の言葉で答えると共にその身に纏う黒きドレスの裾を白き指先で少しだけ持ち上げる。
黒きドレスから僅かに除く足は、蒼き煌きを秘めた水晶の靴に飾られていた。蒼い光の軌跡をつくり、白と黒の踊り手が舞を始める。
円を描くように広くも無い甲板を踊り舞うその軌跡は、夜の闇の中一つのを紋様を描いていく。外から内に向かう円がいくつも重なり、中央で一つに・・・
「あら?」
トテ
・・・なりそうなところでドジッ娘がこけた。
「大丈夫ですか!?マダム・ケルゲレン」
「だ、大丈夫です。・・・これで最後・・・」
死霊魔術師ケルゲレン様は、近寄ろうとする船長ガデム様を手で制しつつ立ち上がり、足先で擦るように紋様を完成させた。
すると光で描かれた紋様は黒く甲板に焼きつく。光っていたほうが綺麗だと思うのだが・・・再び紋様が輝きだした。いや、黒い何かが溢れてきた、その何かは紋様の中心から伸びるよう立ち上がる。
「相変わらず早いですな首席殿」
船長ガデム様が言うと黒い何かが虚ろな声で答えた。
「待たせたなガデム。航海日誌を」
「これだ。しかし精神だけできたのか?」
差し出された航海日誌に何か(首席様の精神?)が棒のような腕を伸ばす。
「時間が惜しい。魚人の群れが一つ消えたことが確認できた。近隣の死に損ないに少数だが強力な敵の出現を伝えた。・・・この航海日誌には、先ほどの情報以上のことはないな。さらばだ」
首席様(の精神?)は、航海日誌を開くことなく腕で軽く撫でただけで別れの挨拶を言った。この首席様は何をしにきたのだろうか。現れてから別れの挨拶まであっと言う間だった。
「ちぃっと待った!?折角きたんだ。首席殿もう少し話を聞かせてくれ」
「忙しい。早くしろ」
「いやな?東海で人間が派手に動いているのは勇者を隠すための囮だと思うんだ」
「同意しよう」
「なら、これからは勇者の脱出を防ぐために・・・」
「不要。腐敗王と墳墓の帝そして嘆きの聖人に殲滅を命じた」
「・・・なんだその豪華な面子は!?やりすぎじゃないか首席殿」
「主力は大陸中央。彼らは暇だ。さらばだ」
再び帰ろうとする首席殿。再び止める船長ガデム様。
「待て!もう少し聞きたいことがある。あの血濡れ骸骨兵に幽霊船免状か直属騎士推薦を出したいんだがいいか?」
首席様・・・黒い何かが私を向く。骨が小刻みに震えてくるコメディも私の首に巻きつく。コメディも怯えているのだろう。
「ジフの蛇骨兵か。成果は?」
「今日この船を襲って奪った。もっとも事前に一晩・・・」
「報告は簡潔に」
「・・・六体で六十人中五十五人を倒して負けた」
「幽霊船免状は許可する。直属騎士は不許可だ。さらば」
三度別れを告げる首席殿。今度は船長ガデム様も止めず。そのまま黒い影が消えていく。影が完全に消え去ると私を襲っていた震えが止む。なあコメディ?まるで蛇に睨まれた蛙の気分だった。
「幽霊船は余ってるから妥当な判断だな。首席殿には、急いでいる時に頼むにかぎる。見習い!約束どおり出世させてやったぞ。マダム・ケルゲレン。御覧のようにワシは約束を守れる男です」
船長ガデム様が、私と死霊魔術師ケルゲレン様に向かって誇るように語る。約束?出世?何のことだ?
「キャプテン・ガデムは御優しいんですね。おめでとう血濡れ骸骨兵さん。幽霊船の船長になるんですね」
死霊魔術師ケルゲレン様にも祝福の言葉をいただく。幽霊船の船長になる?私が?混乱する私は、いつものように教えを請う。
ジフ様これは出世なのでしょうか?
これも人によって違います。