マダムの秘密
死霊魔術師にもいろいろいます。
「さて~どうやら蛇骨兵の組み立ても終わったか」
骸骨兵に血を塗ると左遷。骸骨兵に血を塗ると左遷。骸骨兵に血を塗ると左遷と・・・よし覚えた。ジフ様、このことを必ず御報告します。
んっ、船長ガデム様が何か言い始めた。組み立て?いつの間にか蛇骨兵達が死体水兵によって復活している。私とコメディはまだなのに!
「よし!船内に貴重品が無いか調べに行くぞ」
貴重品?何のことだ?大切なもの・・・
【私の大鉈!】
先ほど船内の通路に置いてきてしまった!
「ド素人が!?何を考えているか何となく分かるが、貴重品ってのはこの船が運んでいるかも知れない荷物のことだ。生きた人間はもういないからな。・・・船底か船長室辺りを探すとするか」
船長ガデム様が船内に戻ろうと一歩踏み出したとき。少し躊躇しながらも止める声が聞こえた。
「あ、の。すいません・・・キャプテン・ガデム・・・少し御願いが・・・」
「なんですかな?マダム・ケルゲレン。何でも仰ってください。このワシにできることでしたら何でも致します」
船長ガデム様は、踏む出した足を軸に瞬間的に死霊魔術師ケルゲレン様に体ごと方向を変えた。喜劇の役者のような仕草である。
「ありがとうございます。少し彼を、血塗れ骸骨兵さんを御借りしたいんです」
「あれぐらいでしたらいくらでも。しかし力仕事が必要でしたら片腕の奴より他の者を。宜しければワシが今からでも・・・」
「いえ。彼でないといけないんです」
「そ、それは、理由を御聞きしても?」
「えっ?あ、はい。御恥ずかしいんですが、彼に興味があって。あの・・・」
死霊魔術師ケルゲレン様の言葉が進むにつれ船長ガデム様の手に陰の精気が集まっていく。林檎ほど大きさなのにジフ様が踊り狂うとき以上の精気が・・・。
船長ガデム様の頭蓋骨だけがキチ、キチ、と私を見る。何かヤバイ!
「・・・蛇の毒がどのようなものか知りたいんです」
「シャー?」【僕?】
船長ガデム様が手を私に向けるのと死霊魔術師ケルゲレン様の話が終わるのとコメディが鳴くのは同時だった。私の頭蓋骨のすぐ横を青い何かが飛んでいく・・・
「・・・確かマダム・ケルゲレンは、毒に造詣が深かったですな」
船長ガデム様は何もごとも無かったかのように話を進め始めた。今、飛んでったの何だ?当たっていたら私はどうなっていた!?
「はい。元々は薬師をしていたもので」
死霊魔術師ケルゲレン様も気にしていない!?そのまま話に乗っている。
「なるほどそれであの蛇を。不躾なことを聞き申し訳ない。どうぞ存分に御調べください」
「キャプテン・ガデム。ありがとうございます」
白く輝く頭蓋骨を微かに傾けながら死霊魔術師ケルゲレン様は、優しく暖かな声で丁寧に礼を言う。そしてゆっくりと私とコメディの方に向く。
「それでは血塗れ骸骨兵さん、そちらの蛇を見せていただけますか」
私は大切な相棒であるコメディをそう簡単に渡せるはずが・・・膝をつき頭蓋骨を下げ献上した。どうぞ御納めください。
「シャ・シャ・シャ!」【ス・ア・ナ!】
コメディの喜びの声が聞こえる。それにしてもスアナとは何だろう?蛇語だろうか?
「ありがとうございます。大陸東部の森に生息する毒蛇の一種ね。牙に溝がある・・・これは噛みついた獲物に迅速且つ大量の毒を・・・少しいただきます」
私の手からコメディを受け取ったら、素早くコメディの口を開け牙を観察する。どこかから出した棒と小瓶で毒まで採取している。
「毒の量まで多い・・・新種かしら?あ、ありがとう興味深いです。御返し・・・胸に直しておきましょうか」
いえどう致しまし・・・
【是非とも】
相棒と再び一つになれる喜びに素早く御返事する。なぜかジフ様の御尊顔が頭蓋骨を掠めたが、掠めただけなので放置しておく。ああマダムの指が!手が!私の肋骨の中に・・・コメディが接続される。
「それにしても二種の骨を組み合わせるなんて。どのようにしているか、お尋ねしてもいいかしら?」
はい!いくらでも・・・ジフ様はどのようにしていただろう?
えっと・・・
「あっ!御免なさい!魔術師は、術を秘密にするものでしたね。私は魔術が本業ではないので忘れていました。創造者に口止めされているのでしたらもう御聞きしません」
「御安心ください。マダム・ケルゲレン。このワシがすぐに口を割らせます。さっさと吐け!言わなければ魚の餌!言えば死霊王様への推薦状から直属騎士への口利きまで何でもしてやるぞ!出世したいんだろ!?」
船長ガデム様の声を頭蓋骨の中を通過させつつあの時のことを思い出す。確か・・・ジフ様はコメディを創造したとき・・・
【踊り!長い踊り!】
「長い踊りですか?・・・儀式かしら・・・多くの精気を扱えない魔術師の補助方法・・・時間を掛けて陰の精気を?」
「簡単に吐いたな・・・そんなに出世がしたいのか?」
「専門ではないので良く分かりませんが・・・ありがとうございます」
「・・・先ほどから魔術が専門ではないと仰っているが、マダム・ケルゲレン。死霊魔術師は死霊魔術を究めた魔術師がなるのでは?」
「死霊魔術師にもいろいろあるです。
死霊魔術師に弟子入りして死霊魔術師にしてもらった方、死霊魔術の実験台にされて元に戻るため死霊魔術を学ぶ方、・・・私は誤って一度にいくつもの薬を飲んでしまって死に損ないになってから魔術を学んだんです」
死霊魔術師ケルゲレン様はドジッ娘だった。
白い薔薇には毒がある。
・・・ドジッ娘な薬師・・・御世話になりたいような、なりたくないような。