通過儀礼
現場教育を終えました。
「そろそろ船員の皆殺しが終わっていると思ってな。マダム・ケルゲレンに飛行呪文で運んでいただいたのだ。そしたら皆殺しどころか逆に倒されとるじゃないか?そこでワシは危険を顧みず助けにきてやったのだ」
私は、船長ガデム様の笑いが顎骨の脱落で終わるとじゃれついてくるコメディを掴み上げてから甲板に上がることになった。後ろには、元船員の死体水兵達がバラバラになった蛇骨兵の骨を抱えてついてきている。前を歩きながら得意げに喋っている船長ガデム様の命令で蛇骨兵を組み直すためである。幸いなことに蛇達の頭蓋骨は破壊されていなかったのだ。
甲板に上がるとそこは星々の瞬く夜空が広がっていた。霧が消えている?先ほどまで船を包んでいた霧が、まるで元々なかったかのように消えているのだ。
「パゾクのヤツめ。勝手に霧を消したのか・・・まあいい」
パゾクが勝手に?幽霊船が勝手に霧を消すとはどういう意味だ?
「キャプテン・ガデム、御無事ですか?」
空から心配そうな女性の声が聞こえる。振り向くと星空を背景に黒いドレスをはためかせ死霊魔術師ケルゲレン様が浮いている・・・美しい。まるで星を纏っているようだ。
「マダム・ケルゲレン!無論無事ですよ!人間の水兵など、この百戦錬磨のガデムに掛かれば一撃で倒してみせますとも」
「まあっ。この船に着いた途端、私に死体水兵創造を任せて。見習い達が苦戦していると仰りながら船内に行かれたから心配していましたのに」
「御心配を掛け申し訳ない。このとおり見習い達が全員やられていましてな」
「・・・!皆さん無事なのですか!?」
「危ないところでしたが、ワシが颯爽と現れ助けました」
「さすがキャプテン・ガデム。御強いんですね」
「それほどでもありませんよ。はっはっはっ」
・・・死霊魔術師ケルゲレン様に褒められて、嬉しそうにしている船長ガデム様を見ていると何か突っ込みたくなる。あんた指鳴らしただけだろうとか言ってやろうか。
「死体水兵は蛇骨兵を組み立てろ。そして見習いは、こっちにこい!左腕なくしてるおまえだ!」
どう暴露するか考えていると船長ガデム様に呼ばれた。まさかまた精気が漏れていたかっ!?しかたなく重い足取りで近寄る。
「派手に人間を殺したのはおまえだけのようだな。よくやったぞ!これでおまえもいっぱしの血塗れ骸骨兵だ」
罵られると思っていたが褒められるとは。血塗れ骸骨兵てなに?
「シャー」【何】
ずっと腕にじゃれついていたコメディも疑問に思ったのか船長ガデム様に聞いている。
「知らないのか?血を浴びた骸骨兵は、強いってことで箔がつくんだ。ワシもそうだろう?」
船長ガデム様が自らの赤黒い頭蓋骨を指でコツコツ叩きながら語る。赤黒いのは血だったんですか?てっきり日に焼けたのかと思っていた。
「基本的に骸骨兵は使い捨てだからな。頭蓋骨が血にまみれているのは、戦って生き残った証拠ってことで血塗れ骸骨兵と呼ぶのさ」
そんな風習があるのか。これは出世になるのだろうか?
「まあーーー目端の利く死霊魔術師なんかは、評価を上げるために創造したばかりの骸骨兵に血を塗って似非血塗れ骸骨兵を量産したりするらしい」
おお!?いいことを聞いた。後でジフ様に伝えなければ。
「もっともばれたら左遷だろうがな」
これもジフ様に伝えておこう・・・
上司へのホウレンソウは大事です。