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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十二章 逃亡潜伏編
220/223

世界占拠対策本部

支配とは暴力や利害などにより強制的に他者を意のままにすることです。

統治との違いは強制的で一方的更に責任を負わないところでしょうか。

支配は易く統治は難し、されど支配は永遠に続くことない……

 世界占拠対策本部――通称”蛇の巣”。


 世界の占拠に対策しているのか、それとも世界に占拠で対策しているのか……判断しづらい部屋だ。

 なお誰も世界占拠対策本部と呼ばず通称のほうで呼ばれる。


 そんな”蛇の巣”の扉の左右には護衛として完全武装の骸骨兵(スケルトン)が二体控えている。

 彼らは廊下ですれ違った王族の”副葬品”として納められていた者達だ。

 殉死したのかさせられたのかは知らないが、現在は”蛇の巣”の主の命に従い働いている。


 頭蓋骨だけの私としては身体を持っている彼らがとてもとても羨ましい。コメディの至近で働けるのもでかい。


 そんな羨望の存在である二体の骸骨兵は、桃色道化――アーネスト様の姿に扉を開く。

 大扉の動きは重厚な見かけに反して音も無く滑らかだった。



「本部長閣下、第三百八集団はカラハドルの森を踏破。明日にはポテムの砦へ攻撃を開始します」

「ザペン国境を越えた第七百七十七集団、反応無し。全滅した模様」

「第千九百八十二集団より報告『ワレ、キョウシュウニセイコウセリ、ホメテホメテ』」

「鳩の零零七が将都ネオヨークに集結する軍勢を確認しました。総司令の予測通りデス」

「閣下、アーネスト様が来られました。…………大鉈(ばか)も一緒です」

「第九十八集団及び第七十集団が聖都跡地にて戦闘状態に突入。敵は魔王軍の残党」

「第五百八十三集団より報告『ヤツガキタ』。以後、遠話が繋がりません」

「創造者代行、撫でていいですか?」

「大陸脱出船団を撃滅。『生存者はたぶんいない』とのことです」



 声の波が頬骨を叩いた。

 音源は骸骨兵(スケルトン)死体兵ゾンビ死体獣(ゾンビビースト)――無数の死に損ない(アンデッド)

 ここはあの世かと錯覚するほどの死者達が部屋の中で叫び駆け働いている。

 マンドラゴラが集団で断末魔の悲鳴をあげてもここまで酷くは無いと思う。


 この騒音を遮断しそれでいて滑らかに動く扉のなんと優れていることか。さぞ腕のいい職人が造ったのだろう。


「扉に感心するのは大鉈ちゃんぐらいよね~ん。それにしても忙しそうね」


 抱えた頭蓋骨(わたし)を褒めつつ部屋を見回すアーネスト様。


 そうでしょうともそうでしょうとも目のつけどころが違うでしょう――まあ、眼球はないのですけど。

 できればジフ様にも褒めていただきたいが……ジフ様は今頃酔いつぶれているだろう。

 お腹を出して寝ていないか心配だ。


「さ~てコメディちゃんとイーデスちゃんはどこかしらね~ん」


 髑髏の道化師は二人――一匹と一人か?――を見つけようと死者の群に入り込んだ。

 ”蛇の巣”は元々棺や埋葬品に溢れていた。しかしそれらは排除され安らかな眠りのための空間はコメディのためのコメディによるコメディの仕事部屋と化している。

 忙しそうな死に損ない(アンデッド)達、あるものは水晶球を手に各地の魂喰兵(ワイト)と遠話をし、あるものは石棺の上に広げた地図に書き込みをし、またあるものは死体獣踊り子隊ゾンビビーストダンサーズに心を癒されていた。


 ”蛇の巣”の住人はばらばらに、しかし一つの目標に向かって邁進している。


 それは世界占拠。

 死に損ない(アンデッド)にで世界を埋め尽くすのだ。

 簡単に表現すると大規模で効率のよい人間、いや魔王軍さえ標的にしたそれは生きとし生けるものの駆除作業。

 だから支配ではなく占拠。

 彼らは私――世界中に拡大している魂喰兵(わたし)を操り走らせ殺させる。


 大陸は、世界は、死に埋め尽くされようとしている。


 礼拝堂で私がしていた仕事のより細かい部分をしてくれているのだ。

 ちなみに私がエタリキ様と礼拝堂にいたのは『邪魔、どこかいけ』とコメディに放り出されたわけではない。


「現実から目を背けるのはほどほどにね大鉈ちゃ~ん。また占拠範囲が広がってるわねん」


 アーネスト様が足を止め覗き込むのは部屋中央に広げられた大陸図。

 部屋の少なくない面積を占領している地図には無数の駒が配されている。


 一番多いのは数え切れない黒の駒――ジフ様と愉快な私達。

 大陸の北東から南西に掛けてスチナ・アンスター・ダブロスの三つの国を埋め尽くしている。

 これが盤上遊戯ならこの時点で圧勝確定である。


 二番目に多いのは大陸北部の青い駒――魔王軍……の残党。

 タリアから南下しようとして黒の駒ぶつかっては消えていく。


 三番目が大陸北西部にて動かない白の駒――ザペン王国。

 確か早々に魔王軍に降伏だか講和だかした未開の蛮族が住んでるはず。


 最後が赤い駒――ここダブロスと各地にぽつんぽつんと置かれる人間の生き残り。

 今も着実に黒い駒に潰され砕かれ消えている。


 もっと細かく説明されたような気がしないでもないが……思い出すのに多大な時間を必要としそうなので思い出さないでおこう。

 決して忘れた訳ではない。

 だいたい世界の半分以上はジフ様のものと分かればいいのだ。


 コメディ偉い! そして私も偉い!! ジフ様はもっと偉い!!!


「ジャーシャシャ」【煩い黙れ馬鹿】


 ジフ様を称える私を大陸地図の上から罵倒するするのは――賢蛇の誉れ高き我が相棒。


「創造者代行閣下!!」

「世界占拠対策本部長閣下!!」

「総司令閣下!!」

「偉大にして賢蛇たる閣下!!」

「休日欲しいです閣下!!」

「コメディ閣下!!」


 地図周辺にいた死者達がその骨蛇に敬礼する。

 一応主張しておくが彼らは私やアーネスト様が部屋に入ってからこれまで敬礼どころか視線さえ向けていない。

 つまりそれだけ骨蛇(コメディ)が尊崇の念をもたれているということだ。


「シャーシャ! シャシャージャッ!」【手を止めるな! 頭も足も止めるな!】


 コメディの命令に止まっていた死者たちは生き返ったかのように動きを再開する。

 更に追加で指示を出し世界中で順調に人間が殺戮される。


 冷徹に冷酷に冷静に世界を殺していく。


 コメディは優秀な部下の働きに満足し鎌首を揺らした。

 そこでやっと……敢えて、敢えて例えるなら煮ても焼いても使いものにならない部下を前にした上司みたいに私へと蛇頭を向けてくれる。


「シャシャシャ。ジャーシャ」【何しにきた馬鹿。邪魔だ消えろ】


 今日も初っ端から刺激的な相棒の挨拶がザックザクと突き刺さる。

 切れ味鋭い挨拶にしかし私は明るい返事をする。

 

 コメディ…………きちゃった。えへ!


「…………」【頭が痛い】


 できる限りの愛情を込めた挨拶にコメディは蛇体をくねらせ悶える。 


 喜んでくれているのかな? 少し直接的過ぎたか……コメディ~?


「シャーシャシャジャー」【誰かこいつをどうにかしろ】


 働きすぎは良くないよ。ちゃんと寝てる?


「ジャージャシャジャーシャアアアアアア!」【死に損ない(アンデッド)が寝るか馬鹿スアナ!!】


 いやいや、不眠不休で働ける死に損ない(アンデッド)であっても心は磨耗するらしいし。


 私が気にしているのはコメディの心労なのだ。


「コメディちゃんの精神衛生上つれてこないほうが良かったかしら? でも息抜きも必要だろうし」


 己の行いに悩むアーネスト様の腕の中で私はコメディとの会話を楽しむ。


「シャシャジャャシャッーーーーーー!!」【忙しいからどっかいけーーーーーー!!】

実際は支配さえ面倒だから皆殺しということが多々あります。

反乱の危険も減りますし支配するための武力を浮かすことができる。

戦国時代の根切り、根絶やしなどもこれ。

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