死になる戦い
悪役の逆転劇。
「まだ五人も残っているとはな。ドジをやったのか?」
私がぶつかった何かは、船長ガデム様だった!なぜここにっ?
前門の水兵、後門の船長ガデム様・・・逃げたい。しかし逃げられない。私は両者の間でせわしなく頭蓋骨を振る。しかし絶体絶命の私を放って勝手に事態は進む。
「てめえが親玉か?」「船長の敵だ!」「二人とも殺してやる」「いい頭蓋骨だ!」「勝てるぞ!」
偉そうな軍服の船長ガデム様を襲撃の主犯と判断したのだろう、水兵達の注意が私からそれる。
逃亡の機会到来!船長ガデム様、いい仕事です。私は置物。私は壁。私は骨格標本。完璧な暗示を自分自身にかける。後はこのまま隙を見て・・・
「見習い。ワシは教えたぞ?最大の武器は恐怖だと」
船長ガデム様、声をかけないでください!御声をかけていただけるならジフ様がいいです。・・・ではなくて水兵に気づかれます。というかこちらを向くなーーー!!!
「また精気が漏れてるぞ。・・・まあいい。恐怖の使い方を実地で教えてやる。おまえ達もよく見て覚えろ」
船長ガデム様は、部屋に散らばる骸骨兵を一瞥すると、珍しくド素人と罵らずそのまま水兵たちに頭蓋骨を向ける。
「こんばんは高速輸送船コロンブスの生きた船員達。ワシは幽霊船パゾクのキャプテン・ガデム。・・・そして彼らが私の最も新しい部下達だ」
船長ガデム様が水兵達に挨拶して指を鳴らす。すると船長ガデム様の背後からぞろぞろ何者かが現れる。あれは?先ほどコメディを斬った禿頭の水兵?たしかコメディに喉をかまれていたような?
「アフロス!?」「なんで?」「生きてたのか!」「大丈夫か?」「まさか・・・神よ!」
水兵達が驚きに喜びそして絶望などさまざまな声を上げる。
「紹介は必要ないだろう?君達の戦友だったのだから。な~にすぐにまた戦友に戻れるさ」
「何を言っている?」「え、え、え?」「馬鹿なっ」「・・・っ」「神よ!神よ!神よ!」
「死が君達を待っている。安心したまえ。すぐに君達も死になるのだから」
「ああああ」「ひぃ・・・」「アフロス!俺だ!」「いやだ!いやだ!いやだ!」「神よ救いを!救いを!」
船長ガデム様は、自らの言葉が十分に水兵達に沁みこむのを待ってから新たな部下に告げた。
「殺れ」
禿頭の水兵を・・・いや禿頭の死体水兵を先頭にして何人もの死体水兵が部屋に雪崩れ込む。
恐怖、絶望、呆然、自失、逃避。ありとあらゆる負の感情に囚われていた水兵達は、抵抗する間もなく私達の新しい仲間になっていく。先ほどまでの激しい戦いは、一体なんだったのだろうか?
「これが恐怖の使い方だ」
船長ガデム様は、再び戦友になれたのを喜ぶ死体水兵達の声を聞きながら、満足そうに笑った。
生者のいない船内に死者の笑い声が木霊する。
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ
それは悲劇。