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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十二章 逃亡潜伏編
219/223

ゆらゆら揺れる腕の中

不死身のアンデッドでも無理が祟れば滅びます。

 ジフ様達が空瓶で床を埋め尽くすのころアーネスト様による頭蓋骨(わたし)の診察終了した。


「薬も塗っておいたけど気休め程度だから絶対、絶対、絶対無茶しちゃだめよ~ん」


 三回も念を押す意味は、つまりボロボロでガタガタ。

 滅びる何歩か手前ということらしい。

 そんな悪い診断結果にもありがとうございます、と念話で感謝を示した。

 我ながら礼儀正しい。


「本当に分かってる? 無茶しそうになったら殺してでも止めるわよ~ん」


 分かってますとも。

 つまりボロボロでガタガタで――――――ジフ様のために働ける時間は減っていると。


 私はより一層頑張ることを存在しない胸に誓う。

 そして頑張るためには新しい(からだ)が必要だ。

 できれば頑丈なやつ。

 太い胸骨とか熱望。


「……大鉈ちゃんといると悟りが開けそうな気がしてくるわね~ん」


 天を仰いだアーネスト様が溜息とともに立ち上がる。

 チラリとまだ酒盛り中のジフ様たちを見て何事か考える素振り。

 考えが纏まったのか道化服を纏った死霊魔術師は私を見下ろし、


「大鉈ちゃん、コメディちゃんのところに行くんだけど一緒に来る~ん」


 と誘ってこられた。


 ふむ、コメディに会いに行かれるのですか……


 なんと現在、私とコメディは離れて暮している。

 同じ墳墓内、一つ屋根の下で暮しているのだが生活空間が違うのだ。

 墓場内別居である。

 だが誤解しないで欲しい。

 私とコメディの仲が冷めたとか相棒としての絆が薄れたとかではない。

 私がいる王の間では、コメディの仕事空間として狭いためだ。 

 ゆえにコメディは墳墓で二番目に大きな部屋を拠点としている。

 女王の間と呼ばれていた(・・・・・・)部屋、そこがコメディの仕事場である。


「コメディちゃんがあの部屋に移ったのは他にも理由があるわよ。推測だけど。それで……来るわよね~ん?」


 喜んで、と私はアーネスト様のお誘いに喜んで同意する。

 ここ数日、コメディとは水晶球越しでしか会話をしていない。

 お互いに忙しいとはいえコメディは同じジフ様に創造された死に損ない(アンデッド)なのだ。

 私がともにいなくてコメディも寂しい思いをしているに違いない。

 断言してもいい。


「それじゃ~エタリキちゃん。大鉈ちゃんと女王の間に行ってくるからジフ様達のことよろしくね~ん」


「承りました。閣下とイーデスさんにも宜しくとお伝えください」


 恭しく頭を垂れる眼鏡の神官――エタリキ様に見送られアーネスト様と私は王の間を後にした。



*********


 灯火で淡く照らされた通路を無言で進むアーネスト様。

 私は首無し騎士(デュラハン)の首の如く抱えられている。

 長い歴史を持つダブロス王国の王墓だけあって……なんというか年月を感じさせる。

 今にも骸骨兵(スケルトン)などの死に損ない(アンデッド)が現れて襲い掛かってきそうだ。

 とか考えていると豪奢な埋葬衣を着た死に損ない(アンデッド)が曲がり角から突然現れる。

 流石の私も驚き……頭蓋骨だけなので変化無し。 


「あら、こんばんは~見回りご苦労様~」


 表面的に無反応な私と明るく挨拶するアーネスト様へ鷹揚に頷く彼は、この墳墓に眠っていた王族――その成れの果て。

 アーネスト様死霊魔術(ネクロマンシー)により新たな生を手に入れた王族の方々は、雑用係として働いてくれている。

 ただ彼ら、仕草の一つ一つに威厳が溢れまくっているため頼みごとをしづらいという欠点がある。

 アライ様達も彼らにお願いすることは基本ない。

 生前の能力か術者の違いか私より随分と知性も高い。

 暇つぶしに盤上遊戯で遊んだら百連敗。

 昔は”給料日の鴨”と称えられた私がだ。

 比喩的な意味で胸骨(こころ)が折られた。

 彼らを顎でこき使うのはアーネスト様やエタリキ様、そして可愛い私の相棒ぐらいだ。


 その後も何度か雇用不一致疑惑の見張りと擦れ違う。

 一定の間隔ごとに灯火の掲げられた墳墓の中、アーネスト様は淡々と女王の間を目指し歩く。

 身体を失った私はそんなアーネスト様の腕の中で荷物状態。

 歩くという基本的行為から解放され楽ちんではある。

 だが明かりに近づき離れてまた近づく、その繰り返しが続くと徐々に意識が濁る。

 それは死に損ない(アンデッド)に縁遠いはずの感覚。


 睡魔。


 顎から下を失って以降、自分の意思と身体で移動できないせいか移動の揺れや光の強弱が頭に響くのだ。

 瞼も無いので防ぐこともできない。

 明滅と揺れのどちらかだけなら大丈夫なのだが……二つ同時だとだんだんと思考がぼやけてしまう。


 まるであの小屋(いえ)で冬を越したときのようなこの感覚。

 暖をとる薪もなく体を丸め壁の木目を数え続けた。

 一角獣(しか)の角を齧って生き延びたっけ。

 懐かし……………………


 ………………


 …………


 ……


「大鉈ちゃん!」


 ほねっと?!


 突然の声に視界がどこかの小屋から古びた石壁の回廊へと戻る。


「大丈夫?」


 声の主――アーネスト様が私を覗き込み心配そうに――髑髏顔なので表情は分からないが――している。


 ええと、はい? はい? 大丈夫です。私、大鉈はいつでも元気に死んでます。


「そう? 精気が白くなったように見えたんだけど……気のせいかしら?」


 気のせいですよ。


 死に損ない(アンデッド)が纏うのは青い(・・)精気である白ではない。

 夜に映える死の陽炎。

 死者の証明ともいえるそれ。

 私の精気はアンスターで百の百倍の更に百倍以上の人間を殺してから尽きることを知らないほど増えた。

 また精気は各地で人間狩りを続ける魂喰兵(わたし)達により未だ増え続けている。

 今も頭蓋骨からちょろちょろと漏れるほどだ。

 そしてその私をジフ様は一撃粉砕された。

 つまりジフ様は偉大だ。


「………………いつもどおり大鉈ちゃんは大鉈ちゃんね」


 アーネスト様、上を見上げても天井しかありませんよ。


 私も視線を向けるが、そこにあるのは数え切れないほどの石塊を丁寧に積み上げ生み出された匠の業。

 そして視線を水平に戻すと目の前にはでかい扉。


「コメディちゃん。入るわよ~ん」


 うとうとしている内に相棒の元についてしまったようだ。


 女王の間改め世界占拠対策本部――通称”蛇の巣”。

 ここがコメディの住処である。

家内安全健康第一より価値があるものはありません。

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