管理するものされるもの
管理職……部下の管理、計画の管理、設備の管理などなどありますがこれ全て名ばかり管理職です。
「世界は滅びの危機に瀕していますうううぅぅぅーーー!」
再び始まるエタリキ=カネタメリー大司教の説法。大聖堂の中には新たな信徒達が救いを求めて押しかけている。騎士様や魔術士、聖職者も混ざってるようですが魔族との戦争はいいんでしょうかね。
まあ、人は人、骨は骨。私は自分の仕事をしましょう。魔王軍と死者の群により滅亡一直線の人類を救うために。人類最後の拠点、ダブロス王国を守るために。なにせ私は現在管理職なのですから。
祭壇の上からエタリキ様の背中を眺めつつ、隣に並べられた遠話用の水晶玉へ意識を向ける。アーネスト様より貰った今の私の仕事道具である。大鉈を振るっていた私とは違うのである。今の私は管理職なのだから。
ごほんごほん、あーあーこちらダブロスカネタメリー教会のジフ様最高最愛の部下である管理職な大鉈、調子はいかが?
私が水晶玉で思念を飛ばすと暫しの間を置いて次々と返事がくる。
『こちらオフランクマジデ要塞のジフ様至高の部下である大鉈、魔族は見えず』
『こちらダブロスロッジ灯台のジフ様愛用の部下である大鉈、移動中の難民を発見』
『こちらダブロスロッジ港のジフ様と会えず涙で枕を濡らす大鉈、その難民の前方に展開中』
『こちらダブロスロッジ港のジフ様と会えず涙で枕を濡らす大鉈その二、抜け駆け開始』
『こちらダブロスカネタメリー教会のジフ様が私の隣で頭を抱えて唸っている大鉈、おろおろしてる』
『こちらスチナ名も無き村のジフ様と会ったことが無い大鉈、帰りたい』
『こちらザペンダブロス国境のジフ様最強の部下である大鉈…………暇』
『こちらアンスター帰れない森のジフ様最強の部下は私な大鉈、迷った助けて』
『こちらアンスター……』
アンスター王都をから世界中に拡大した死損ないの群――すなわち私を最初の一体として人間を殺戮増殖する魂喰兵達からの報告だ。私はそれらの報告を右の耳道から左の耳道へ素通りさせていく。管理職なので。
そう、何を隠そう世界を死の国に変えつつある死者の群を管理することが私に課せられた仕事なのだ。
ああ!! この大任、頭蓋骨にかかる重責にひび割れそうになる。
『シャーシャーシャー!《殺し過ぎるな馬鹿スアナ達!》』
敵を殺すことに熱中する魂喰兵達にコメディから叱責の遠話が入る。コメディは報告内容に問題があれば調整してくれるのが仕事だ。
『『『『『はーい』』』』』
コメディに元気の良い返事をする魂喰兵達――騎士や魔術士など特に優れた人間が素体になった彼らは、人類を殺し過ぎないようにダブロスへ誘導している。
本当は私も戦場で働たかったのだが……
『壊されたら困りますからね』『見分けがつかなくなるじゃん』『管理しないとダメだろこいつ』『スアナに体を持たせるな』『大鉈ちゃん、相談があるんだけど……』
とみんなから大人しく管理職をするようにと懇願されたのだ。優秀な私は、体が無くてもその頭蓋骨だけで評価されてしまう。
「金蔓よ、そろそろ墓所へ」
おっと、仕事に集中しているうちにエタリキ様の説法が終わったようだ。有り金を全て寄進した信徒たちも既に大聖堂から去っている。
「では失礼します」
エタリキ様は、一言断るととても丁寧に頭蓋骨を持ち上げ大聖堂の奥へと向かった。大聖堂から回廊を抜けるとこの国の歴代の王が眠る墓所があるのだ。
回廊にはキンキラの鎧で着飾った聖堂騎士達が等間隔で並び、怪しげな髑髏を捧げ持つ大司教から全力で目を逸らしている。
勿論、止めることは無い。
彼らはエタリキ様に忠誠を誓っているのだ。彼らだけではない。真聖一教の中枢はほぼエタリキ様に膝を屈し頭を垂れた。具体的には金貨の袋で頬を叩かれ、随喜の涙とともにエタリキ様――死損ないを大司教として向かい入れた。
必要とはいえ、ジフ様へのお土産――アンスターで拾った財貨――を提供した私が言うのもなんだが……腐ってる。死体兵ほうがよっぽど誠実な気がする。
「まあまあ、全てはジフ様のため。この大聖堂が一番安全なんですから。必要経費という奴ですよ」
金の力を最大限に利用するエタリキ=カネタメリー大司教は、捧げ持つ私に諭す。柔和な笑みを浮かべる彼は、しかし聖堂騎士達を含め抜け目無く周囲を警戒している。
「なにせジフ様はお尋ね者なのですから」
そう、誠に遺憾ながらジフ様はその御身を狙われている。
狙われているのだ……魔王軍に。
なお管理される職も名ばかり管理職と言えるでしょう。
*本来の管理職とは経営者と同列であり組織の運営を管理するような立場の役職を指します。ギリギリ部長以上の立場でしょうか?