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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十二章 逃亡潜伏編
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信じるものはすくわれる

新年あけましておめでとうございます。お参りには行かれましたか? 私はお賽銭の四十五円(始終御縁)を握り締め行きます。

「世界は滅びの危機に瀕していますうううぅぅぅーーー!」


 宝石で眩しいほどに彩られた教会の聖堂。そこで声を響かせるは、布と金の比率が逆じゃないかと思えるほど金銀で装飾された法衣を纏う眼鏡(・・)の神官様。

 黄金の算盤を掲げ大聖堂に集う信徒達に説法をするは、最近ダブロス国教会総本山カネタメリー教会の最高責任者になった――役職からカネタメリー大司教と呼ばれる人物だ。

 魔族の蜂起、死者の軍勢、勇者の不在……次々と起こる災厄に不安を抱く人々へ笑みだけを浮かべた顔で大司教は続ける。


「しかっーし御安心ください! 真聖一教の信徒だけは、選ばれた民である私達だけは、救われるのですうううぅぅぅ! 絶対確実な安全を! 絶対確実な安全! 絶対確実な安全を御約束しましょううううっ!! この算盤に誓って!!」


 日に何度も信徒を入れ替えて、結果的に何十回(・・・)も繰り返されるその説法は、ひたすら絶対・確実・安心・安全を謳い信徒達の心にじわじわと染み込んでいく。撲殺算盤――私を殴り倒した算盤だ――から持ち替えた黄金色に輝く算盤も大司教の力を分かりやすく信徒に伝えている。


 いや、ほら金とか銀とか沢山持ってる人の言うことってなんか説得力あるでしょう。それに金って重いんですよ。こうズシッと腕から肩に深みのある重みがきて。金の算盤振り回すとか相当の腕力がないと……


「今こそ真の信仰心を示すのです! 具体的には御布施を! より一層の寄進を! 献金を!! 賄賂を!!!」


「お助けください! 大司教様!」「俺は大司教様を信じて星金貨10枚寄進するぞ!」「沢山寄進すればより安全確実安心だ!!」「なんと慈悲深き笑みだ!」「わ、私も早く寄進しないと!」「わしだって!」


 大司教から伝えられた神の意に添うべく、カネタメリー大司教の前に配置された賽銭箱へ信徒達から金・銀・銅と様々な硬貨が弾雨の如く投じられる。なお信徒の中にはサクラがいて、その人たちが率先して硬貨を投げることにより集金効果が増加しているとのことだ。


「できれば金貨を!! 星金貨より十字金貨と大判を投げてください!! もっともっと! ごへっ! もっ、もっと激しく投げてっ! アッーーー! もっと激しく金貨をぅうううおおおっ!! この響きこそが神へと届く祈りとなるのですうううううううううう!!」


 投じられた金貨が顔面を直撃しながらも恍惚の笑みを浮かべ続けるエタ……ではなくてカネタメリー大司教様。だがよくよく見るとその体からは微かに煙がたっていることに気がつくだろう。


 浄化されてるのだ。


 なにが浄化されているのか? それはカネタメリー大司教その人がである。死に損ない(アンデッド)にとって有害な銀を織り込んだ法衣を着ているのと投げつけられた銀貨が原因だ。

 そう……カネタメリー大司教は、死に損ない(アンデッド)なのだ! というかぶっちゃけ私と同じジフ様の部下の一人――エタリキ様である。


「もっと! もっと激しく!! 痛いほどに金貨! 浴びるほどに寄進!! 世界は金に満ちているぅぅぅッ!!」


 けっこうな痛みのはずだが銀に身を焼かれながらも笑みを絶やすことは無い。流石は大司教である。

 ……繰り返すがカネタメリー大司教は、ダブロス王国で信仰される真聖一教の最高権力者である。再度繰り返すが最高権者である。王様とか王子様とかそういうのは、別にいるらしいが聖職者の中では一番偉いらしい。

 凡人には理解できないだろうが天才的な思考を誇る私――ジフ様の部下である大鉈は、この事実を大変憂慮している。


「おや? どうかされましたか我が金蔓(かみ)よ。そんな遠い目をされて……今日も素晴らしい利益ですよ。ほほほほほほほほほっ」


 私の憂いも知らずに金に溺れた――文字通りの意味で――エタリキ=カネタメリー大司教は、法衣や算盤と異なりそれだけは以前と同じままの丸眼鏡を人差し指で押し上げ囁く。なお眼鏡の下の瞳がまったく笑ってないところも同じだ。


 …………エタリキ様、言いたくはありませんが言わせていただきます。


「ええ、どうぞどうぞなんなりと我が金蔓(かみ)よ」


 エタリキ様、出世すべきはジフ様であって私達じゃないですよ。ジフ様は、ご自身が出世できないとご機嫌斜めになっちゃうので……ね? あなたが司教だの大司教になってお金儲けてどうするんですか……


「ええ、勿論よく分かっていますとも。しかしこれも全てジフ様のためです。私が金儲けするのも、大司教にあったのも、我が金蔓(かみ)がそれを手伝うのも全てがジフ様のためです。全てがジフ様のためです」


 う~ん、全てジフ様のため……全てジフ様のため……全てジフ様のためか……ならいいのか。


 『ジフ様のため』先ほど信徒達にした説法と同じように繰り返し繰り返し唱えるエタリキ様の返事にあっさりと納得する私。


「不安になるほど素直ですね。」


 うん、なにか言いましたかエタリキ様? よく聞こえませんでした。


 エタリキ様は、なんでもないですよと手を振りつつ信者への説法を再開する。本当に勤勉である。私も負けてはいられない。

 そう全てはジフ様のため……魔王軍でいろいろやらかしちゃったジフ様のためなのだ。

 完全に納得した私は自らの仕事を開始する。世界に溢れる魂食兵(わたし)達が動き出す。


 さあ! このダブロス王国を守るのだ!


 大聖堂の祭壇上、祭器と並ぶことでその身――頭蓋骨――を隠しながら人知れず魔王軍と戦う死に損ない(アンデッド)――それがこの大鉈なのだから。

なお『御布施をすれば自動的に天国にいける』『喜捨をしないと地獄に落ちる』『安全確実元本保証』『絶対に損しない投資』等の誘い文句にはご注意を。

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