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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
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責任問題

責任……それは自由とは似て非なるもの。

「やっちょっまったあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 『やっちまった』とも『や、ちょっと待った』とも聞こえる叫びを上げジフ様がドガガガガガガガガガッと転がられている。吸血鬼御用達の棺に納まったままなので破壊力も抜群――不運にも避け損なったアライ様なんかは地面と一体化して見分けがつかない。


 なんにせよ――――ジフ様が元気で大変喜ばしい。


「喜ばしくねぇんだおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 はい。喜ばしくないです。


 一瞬で言を翻しジフ様に追従する私。ジフ様の御言葉は全肯定が骸骨兵(スケルトン)としての嗜みである。ゆえに現在とても喜ばしくて喜ばしくない事態なのだ。


「なんでくたばった邪竜王うううううううううううううううううううううううううううううううッ!!」


 ジフ様のおっしゃる喜ばしくないこと――頭部がこんがり焼けてしまった漆黒の竜に叫ばれるジフ様。まだ尻尾や翼がピクピク動いてるが……下顎から上が爆散してるのでまず助からないだろう。神の奇跡でも起これば別だが。


「なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ……」

 

 ジフ様が殴ったからです。


 ジフ様の疑問に即答する私。骸骨兵(スケルトン)の鏡だ。二度目だがここ重要なので。


「違げぇえあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ご謙遜をジフ様。魔王軍の幹部(・・・・・・)を一撃で仕留めるなんて流石です! 勇者すら超える偉業!!


「あぎゃらべおうううえいあおおおおああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ………………ジフ様のお言葉が理解できない。『アギャラベオウ』とはなんなんのだろう? あああ! ジフ様の骸骨兵(スケルトン)として情けない。墓でも掘ろうか。


「はいはい、お墓は後で掘りましょうね~ん。先にジフ様をどうにかしないとね?」


 道化の姿に相応しく軽やかにジフ様の破壊的絶叫大回転を飛び越えアーネスト様が降り立つ。

 アーネスト様もジフ様の心配をしているようだが……そもそもジフ様が絶叫しながら回転している原因はこの方なのだ。

 アーネスト様は、邪竜王を一撃で仕留め得意満面のジフ様に近づきそっと囁いたのだ。


 ――ジフ様、それ邪竜王閣下よ~ん……魔王軍幹部の――と。


「あのままだとお話ができそうになかったからよ~ん……今もお話できそうに無いけど。のんびりもしていられないし困ったわね~ん」


 ゴロゴロと元気に転がるジフ様の姿に、憂鬱な桃色の道化師。

 私は、『なにか急ぎの御用でも?』とにお尋ねする。

 だがそれは少し余計な言葉だったようだ。


「あら~ん? 『なにか』今、『なにか』って言ったのかしら? ……オオナタちゃんとジフ様がイロイロ(・・・・)やらかしちゃったからよ!!」


 普段余裕を崩さないアーネスト様を怒らせてしまった。


 イロイロ? はてででででででででででででででででででででででででででででででででえぇ? アーネスト様!! 指! 指! めり込んでますよ! 指が!


「魔王軍壊滅に魔王様暗殺、魔人軍団十一将軍虐殺とジフ様復活、そして邪竜王撲殺などなどなどなど……オオナタちゃん、自覚あ~る?」


 半分ぐらい関係ないです!? やめてやめてやめてください! 本気で壊れる! 割れる! 穴が開きます!!


 頭蓋骨(わたし)を握り潰すように一言一言ごとに力を込め睨みつけるアーネスト様へ抗弁する私。

 しかしとても鬱憤が溜まっていたのか指の力は衰えることなく万力のようにじわじわと……


「おい、待て」


 珍しく――いや、これまでも結構過激なときがチラホラ――怒っているアーネスト様を止め私を救ってくださったのは、


「あら」


 声をかけるだけでアーネスト様を冷静に戻した方は、やはりというか当然というか私の偉大なる主。


「ちょっと待て」


 転がるのを止めたジフ様だ。なお転がるのを止めただけでいまだ棺を着たまま地面に横たわっている。


「ま、魔王軍壊滅ってなな、なんのことだ?」


 ジフ様声が震えてます。寒いのでしたら暖かくしないと……風邪をひいたら大変です。


「魔王暗殺とかも冗談だよな? な? ナァ?」


「「「「…………………」」」」


 問うジフ様から痛ましそうに、気まずそうに、悲しそうに、地面に埋まっているアライ様を除いた全員が目を逸らす。

 そして沈黙は雄弁に真実をジフ様に伝えた。


「し、知らねえべ!! おらぁ何も知らねえべ!! 魔王暗殺も邪竜王撲殺もおらぁ関係ねぇべっ!! しらねぇべぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 先ほどまでの叫びを上回る絶叫とともに再び転がりを始めるジフ様。


「あ、あのね~ん? 半分ぐらいジフ様関係無いとこで起きてるけど明らかに邪竜王の件はジフ様に責任が……」

「そうですよ! 大鉈(かねづる)様を創ったのもはあなたですし創造者として大鉈(かねづる)様を守るためここは責任を……」

「さっすがエタリキ頭良いじゃん! よっ! 外道」

「アライ殿生きてるか? いま掘り出してやるぞ」


 ジフ様を落ち着かせようとするアーネスト様達……多分落ち着かせようとしているはずだ。


「先に手を出したのは黒蜥蜴だろうがああああああああああああああああああああああああ! つまり反撃は――正! 当! 防! 衛! 部下の罪は部下の罪、上司の罪も部下の罪だああああああああああああああああああああああああ!! それは頭が良いんじゃなくて狡賢いんだよおおおおおおおおおおおおおおお!! 全員埋めてやるるあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 全てに的確な応対をするジフ様。ただ絶賛絶叫大回転継続中なので落ち着いているかは不明である。

 だがしかしアーネスト様を筆頭にエタリキ様やイーデス様も負けてはいない。


「ジフ様? 過剰防衛って言葉ご存知かしら~ん」

「そもそも魔王軍で骸骨兵(スケルトン)って雑兵でしょう? どうしたって創造者たる死霊魔術士(ネクロマンサー)の責任――創造者責任が問われるのでは?」

「部下の罪は部下の罪、上司の罪も部下の罪って……いろいろ駄目駄目じゃん」

「アライ殿! 起きろ!! この薬を飲まれよ!! 生きるんだアライ殿!!」

「そうだ!! 全部責任をその馬鹿鉈におっ被せれば私は無罪!!」

「ジフ様……嘘感知の魔術でばれるわよ~ん」

「魔術士なんて滅んでしまえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

「……死霊魔術士(ネクロマンサー)の言葉とは思えないですね。嘘感知の魔術を誤魔化すのは商人の基本技能ですからお教えしましょうか? 安くしときますよ」

「アライ殿! アライ殿!!」

「………………棺が……棺が…………襲ってくる………世界が……闇に…………」


 舌鋒鋭く責任転嫁と商売とツッコミと小芝居を繰り広げる皆様方。こういう事態を止める役であるアーネスト様も積極的に参加しているため終わる気配が見えない。


 デニム様もいないし困った。


 そして結局、この論争にもならない怒鳴りあいを鎮めたのは私の可愛い相棒だった。


「シャーシャージャジャ」【愚か者は置いて行くぞ】


 遁走準備万端の死体獣踊子隊ゾンビビーストダンサーズを従えたコメディの一言に、反対する者はいなかったのだ。


 自由への逃走である。

ちなみに責任というのは、問題が起こらないよう物事を差配することができる権限です。

本来、辞職や降格は『責任を持つ能力が無い』という判断の結果なんですが……日本だと『責任=権限の剥奪』なのは武家社会の切腹が由来とか。

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