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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
211/223

親子の絆、兄弟の絆、そして主従の絆……お互いを支えあい助け合う結びつき。

「邪竜王様の力で、オオナタちゃんを死霊王様の後釜にっていうのは悪くない話なのよね~ん」

「ええ、問題なのはいつ裏切るかですね。利用するだけ利用したら切り捨てられるでしょうし。先に寝首を掻くにしてもどれだけ利益が出るか……」

「聞こえてるぞ生ゴミども!!」


 ヒソヒソと腹黒全開な相談するアーネスト様とエタリキ様。そして生ゴミ――失礼、御二人に対して青筋を立てる邪竜王。

 私の”魂の名(ソウルネーム)”を決める話は、魔王軍内での私の処遇へとその主題が変わっていた。


 ふう、私としては魔王軍とかどうでもいいんですがね。ジフ様も死体獣(ゾンビビースト)達とモフモフされたいだろうし。どこか人里離れた山奥でジフ様とのんびり敵を殺しながら過ごしたい。


「エタリキの奴まだまだ稼ぐ気だな。金ならサーカスで売るほど集めたはずだろ?」

「溜め込んでた聖銀貨がただの銀貨になって埋め合わせしたいんじゃない? 別に危ない橋なんか渡らずこのままサーカス続けばいいじゃないねー」

「同意」


 エタリキ様以外の元勇者の方々も、私と同じように興味が無いのか、武器の手入れや化粧をしつつ雑談中である。確かにモフモフサーカス巡業とかもいいですね。

 アーネスト様達の話は難解なので、私も自然とアライ様達の話に興味が向く。


「いや……サーカスで儲けるのはもう無理だろ。その馬鹿が魔王軍に喧嘩売ってるし」

「なんでよ? この街じゃもう無理だろうけど他の街や国ならいいじゃない。最悪この馬鹿捨てればいいじゃんよ」

「然り」

「いやだってな……あーー筆と地図ないか? 大陸図だ」

「これを」


 ウドー様が周囲の瓦礫から羊皮紙を引き抜き筆と共にアライ様に差し出す。

 それは少々焦げているが中央にと六角の星型の大地が書かれた地図――大陸図である。縮尺が大きすぎて国の位置関係ぐらいしか分からないが……何に使うのだろう?


「その馬鹿がアンスター滅ぼしちまったろ? でスチナも死損ない(アンデッド)ばっかの死者の国」


 アライ様は、イーデス様達に説明しながら大陸の南東のアンスター王国と北東にあったスチナ王国に×印を書き込む。


「ほんでもって、ここタリアは魔王軍の勢力下、聖都は謎の壊滅、ザペンは山と川しかないから儲けが少ない」 

 大陸の北のタリア王国、中央に存在した聖一教の総本山、北西のザペンと次々×印がつけられていく。

 早くも地図のほとんどが黒く潰れていますね。


「そしてあー南部の小国は今頃、その馬鹿が増やした死損ない(アンデッド)が進軍している真っ最中。存亡の危機に娯楽どころじゃねーだろ。つーか九割九部滅ぼされるだろうぜー」


 アンスターからスッと指を西に動かし聖都の真南――ダブロスとアンスターの間にある複数の国々を纏めて消す。

 最後に残るは、大陸南西部に覇を唱えるダブロス王国だけですが……


故郷(ダブロス)だと俺様達は勇者として面が割れてる。死損ない(アンデッド)になってるのがばれたら裁判無しで火炙り一直線だぜ。当然サーカスなんて無理と……終わり」


 あらら、無情にも最後の希望ダブロスにでかでかとバッテンが。

 それにしても馬鹿馬鹿連呼してますがその都度、私は見るのは何故でしょう? 私の名前は大鉈で”馬鹿”じゃないですよ。


「…………この馬鹿、邪神じゃなくて疫病神じゃない?」

「寧ろ貧乏神」

「俺様達が人生踏み外したのもその馬鹿に会ったせいだよな。魔族狩って崇められてた昔が懐かしいぜ……」


 筆を放り出し寝転がったアライ様がどこか遠くを見る。逆にイーデス様は……超近距離の私を睨む。


 云われ無き非難の眼差しが! いったい私が何をしたと!?


【自らの行いを振り返るといい。いろいろやり過ぎて思い出せないだろうがな……オオナタ】


 ゼミノール、あなたもか!


 共に苦難の旅をした干し首にさえ裏切られた私は、アーネスト様達のほうに避難することにした。邪竜王は知らないがアーネスト様とエタリキ様ならきっと真面目な話をしているだろう。故に私に飛び火することはない。


 アーネスト様~~~イーデス様達がいじめ……


「いっそ大鉈ちゃんに人間も魔王軍も潰させたほうが早くないかしら~ん。魔王軍に再加入する必要無い気がしてきたわ~ん」

「そうですね……魔王軍なんかほっといてこのまま世界征服しましょう。そのほうが利益も出ます」

「キサマら正気かっ! 竜や他の魔族に人間まで――生きとし生けるもの全てを敵に回す気なのか! そもそもワシら竜族に勝てるとでも思っているのか!? 焼き払うぞ!!」


 ……真面目に交渉が破綻しそうでした。


 凄く物騒な言葉がチラホラ聞こえてきます。『魔王軍も潰せ』とか『世界征服』とかどうしてそんな話に?


「だってね~ん。『ワシの部下になれば世界の半分をキサマらにやろう』ならまだしも……」

「『十分の一をキサマらにやろう』ですからね。労力と利益が見合いません。私達を部下にしたいなら相応の対価をいただかなくては」

「ふざけるなっ! 世界の半分とか御伽噺の読み過ぎだ! そもそも何処の世界に己に匹敵する存在を許容する王がいる!?」

「……図体は大きいのに器がちっさいわね~ん」

「ええ、そもそも十分の一とか既に押さえてる不動産より少ないですよ。大鉈(かねづる)様は千金どころか万金の価値があるというのに……」

「生ゴミ! 火葬されたいようだなぁぁぁあっ!!」


 ……アーネスト様達は、交渉をしてるのか竜の逆鱗を触れようとしているのかどっちなんでしょう? まぁ、おやっさんも『最初はドドンと吹っかけるもんだ』と言ってましたが。


 今にも炎も吐息で全てを焼き払いそうな邪竜王。私は交渉が決裂してもいいように、それでいて邪竜王に気取られ無いよう注意しつつ刃を強く握り締めた。


 しかしその後、交渉は私の予想とは異なる展開を見せた。


 アーネスト様は自分達の有益性――正確にはコメディが統率している死損ない(アンデッド)の軍団とその核である大鉈(わたし)の価値――をひたすら高く高く売り込み。


「大鉈ちゃんが制圧している国々は大陸の半分にも及ぼうとしてるのよ~~~ん」

「即座に戦える死損ない(アンデッド)だけでも魔王軍の百倍はいるわ~~~ん」

「今ならモフモフな死体獣踊子隊ゾンビビーストダンサーズによる慰問もつくわよ~~~ん」


 逆にエタリキ様は、自分達を味方につけない場合の損をネチネチと突いて不安を煽る。


「私達を仲間にしなければ人間との決戦で兵力不足になることは確実です」

「竜族は確かに強いですが数が揃わないでしょう? 一体殺されるだけで大損害ではないですか?」

「もしここで魔王軍の主導権を握らなければ他の魔族の下につかなければならなくなりますよ。これが最後の機会かもしれませんね。開運の壷もおまけしますよ」


 二人は交渉が破断するギリギリのところで交互に話を繰り返し、条件を少しずつ有利なものへ有利なものへと導いていった。ゼミノールが『これだから人間は……』と呆れるほどの巧みな連携。関係の無い私でも『()を味方につけることができれば世界征服できるんじゃない?』と錯覚しそうなほどだった。

 最終的に交渉は平穏無事に決着した。全員、ニコニコ笑顔で――ただし目を除く。


「一つ、大鉈ちゃんが魔王軍の幹部になれるよう口添えしていただく。私達は、対価として邪竜王様の魔王就任をできる限り支援する」

「二つ、竜族に損害が出ないよう人間(・・)との戦闘では死損ない(アンデッド)を前線に出す。見返りとしてこれまで死損ない(アンデッド)が制圧した不動産は私達のもの」

「よかろう認めてやる。ワシは寛大だからな………………………………今は」


 アーネスト様とエタリキ様が邪竜王と含みを山盛りしたような合意内容を確認している。 


【あやつめ、いつでも踏み倒せると考えてるな。気をつけたまえ……オオナタ】


 微笑というより嘲笑と表現すべき邪竜王の笑みにゼミノールが警告する。


 大丈夫ですよ……アーネスト様達も同じ笑み浮かべてますから。


【………………ふう】


 私が見たままの真実を告げると憂鬱なため息を漏らすゼミノール。


【……それはそうと、おめでとう。これで君も魔王軍とやらの幹部だ……オオナタ】


 あーらしいですね。何も聞かれること無く話が決まっちゃいましたが……魔王軍幹部って何するんしょうか? ドブ掃除? それとも人間狩り? モフモフ踊り?


【……気にしないだろうからはっきり言うが、君は実質お飾りだろう。道化師も神官も君ではなく君が……いや、コメディが操る死損ない(アンデッド)の軍団を交渉の中心に置いていた。君は君の主のことを考えればいい。雑事はあの二人――アーネストとエタリキがするだろう……オオナタ】


 ………………なるほど『ジフ様のことを考えればいい』というのは理解できた。それなら今までと同じだ。


【それはそうと君の”魂の名(ソウルネーム)”についてだが――】


 ゴヘッェ?!!


 誰もが忘れ去ったと思っていた話題が再び舞い戻ってきた瞬間、私は身を捩り苦痛に呻いた。

 予想外の不意打ちに吹き出してしまった…………訳ではない(・・・・・)


「オオナタちゃん!?」「金蔓さま!!」「あれは……腕か?」「なんで体の中から?」「何が?」


 私が上げた苦痛の呻き(・・・・・)にアーネスト様達が振り向き。そして混乱する。幾つもの魔族の亡骸を繋ぎ合せた私の体。その中でも最も強固な巨大亀の甲羅が砕かれていたからだ。

 もっとも普通に甲羅を砕かれていただけならば、即座に敵襲と判断し迎撃に動いただろう。百戦錬磨の皆様が混乱したのは、もう一つ理由がある。


 一本の骨腕。


 それが邪神とさえ呼ばれたことのある私を内側(・・)から貫いていた。 


 ――ゆ・る・さ・ん――


 怨嗟と憎悪が世界を満たす。

絆――しがらみや束縛、呪縛なんかも含みます。

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