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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
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冥骸王の憂鬱

当事者無視して他人が勝手に議論しても良い結果は生まれません。

 ――邪悪とはなんだろうか?


「冥骸王――ソヤツの姿と業に相応しい名だろう? 尖りすぎずそれでいて非凡、聞いた者の魂に響くであろう恐怖の旋律を想像してみよ」


 火のついた葉巻で私を指しつつ己の意見を語る天覆う漆黒の竜貴公子ザ・ドラクル・オブ・ダークネスこと邪竜王氏。


 ――私はその一つの極致を体験中だ!


『老いて耄碌したか……姿? 業? そんな表面だけで魂の名(ソウルネーム)を語るとは笑止千万! 彼の生き様は冥骸王などという浮ついた名で語れるものではない……天覆う漆黒の竜貴公子ザ・ドラクル・オブ・ダークネス


 そして漆黒の巨竜の威厳だけ(・・)はある声に真っ向から反論する声無き声は大地を震わす巨腕(ザ・ガイア・ハンド)ことゼミノール。


 ――邪悪、それは無垢な者に魂の名(ソウルネーム)を……


「表面だけしか見てないだと? ワシの邪竜眼を舐めるなよ。ソヤツの精気を見ればどのような人生――ではなくて骨生を過ごしてきたかなぞ一目瞭然。少なくとも十万! いや、ことによると数十万の命を奪い殺し貪っているはず。最凶最悪の生ごみであるソヤツこそ現世に降臨した冥府の王よ」


 天覆う漆黒の竜貴公子ザ・ドラクル・オブ・ダークネスさんは、額に新しい目を――邪竜眼を開いて批評。


 ――己の満足のために魂の名(ソウルネーム)をつけること……!!


『それが表面しか見ていないのだ。オオナタの、彼の本質は”()”や”(おう)”では無い。彼の本質は”()”であり”(しもべ)”なのだよ。思慮も志も無くただひたすらに主に従う――まさに骸骨兵の中の骸骨兵ザ・スケルトン・オブ・スケルトン! 分かったか……天覆う漆黒の竜貴公子ザ・ドラクル・オブ・ダークネス!!』


 大地を震わす巨腕(ザ・ガイア・ハンド)さんも、普段は虚ろな眼窩に炎を滾らせ力説。


 ――邪眼の力に溺れた者が!!


「分かっていないのはキサマのほうだ大地を震わす巨腕(ザ・ガイア・ハンド)。”(おう)”とは、己でなるものではない! 世界が”(おう)”と認めるゆえに”(おう)”となるのだ!! 既にソヤツは、”(おう)”であり”()”の権化よ」


 自らの至言が気に入ったのかニヤリと笑う邪竜王。


 ――勝手に魂の名(ソウルネーム)を刻むことだッ!


『何度も言うがオオナタは、”(おう)”で在りえないのだ。自らの力の大きさも、それが引き起こす災禍もこれぇーーーーーーぽっちも理解していない。彼は例えるなら意志無き天災、歩く迷惑、真面目に生きるもの全ての天敵――突如現れた最終試練ザ・ラスト・オブ・カラミティとでも呼ぶべき存在なのだよ……我が盟友(とも)


 どう聞いても悪口にしか聞こえない内容を宣言する巨人の干し首。


 ――眩暈がしてきた……


 現在、邪竜王とゼミノールが私の、わ・た・し(・・・)魂の名(ソウルネーム)について議論している。


 何故こんなことになっているのだろうか?


 ジフ様のサーカスをぶち壊した魔王軍の偉い竜――邪竜王。その邪竜王と巨人ゼミノールがなんと数百年来の友達だったのだ。


 うん、そこまではいい。同じ魔族だし知り合いもいるだろう、友達と会えることは素直に喜ぶべきことだ。


 問題は数百年ぶりの再会した二者は、お互いを魂の名(ソウルネーム)という痛々しい名で呼び合う仲であり、他人に痛々しい名(ソウルネーム)を命名せんとしているところだ。


 ……普通、懐かしい友人に会ったらお互いの近況とか話しません? お酒とか飲みながらのんびりと語り合うでしょう。


『それに韻も悪い。何事も短くすればいいというわけではない。詩篇のごとく滾る想いを静かに込めるべきだ。心が枯れては魂の名(ソウルネーム)は生まれんぞ……天覆う漆黒の竜貴公子ザ・ドラクル・オブ・ダークネス

「ふん! 勢いのままに名付けることこそ稚拙!! 最近の流行は、尖りすぎるのをいかに押さえつつ風雅の香りを乗せるかが重要のなのだ!! まぁ、数百年死んでたキサマには分かるまいがな」


 話が私の名前から徐々に痛々しい名(ソウルネーム)の命名基準へとずれ始めた。

 これチャンスに会話を止めくれませんか、と私はアーネスト様達へ念話を送ってみる。だがアーネスト様やエタリキ様達は、仲裁に入ったりせずただ無言で肩を竦めて首を振るだけ。


 まぁ、それも仕方がない。なぜなら、竜と巨人(首のみ)が口論を開始した直後に通りすがりの魔人達――魔人軍団最強十一将軍とか名乗ってた――が勇敢にも話に割って入ろうとして瞬殺されたのだ。

 『魔王様の仇ッあべしッ!?』『くくくっ、奴は十一将軍の中でも最じゃぶへッ!』『ビーゼル様ッ!』等々……かませ犬っぽく叫びながら蜘蛛や蝙蝠の魔人達が漆黒の竜と空飛ぶ干し首に一蹴される様は、思わず『何しに出てきたッ!』と叫びたくなるほどの見事な負けっぷりだった。


 誰だってあの惨劇を見て割って入ろうという勇気は持てないだろ。『世の中、勇敢なものほど早く死ぬ』とはおやっさんの名言だ。例外はあの勇者達ぐらいか……もしかすると痛々しい会話に参加したくないだけかもしれないが。


「キサマがなんと言おうと冥骸王(仮)は、”おう”でなければならん! 死霊王の代わりが必要なのだ!」

『だからオオナタに”(おう)”は相応しくない! 誰の代わりか知らないが……』


 二者の論争は徐々に怒鳴りあいへと変化しつつある。


 このままだと掴み合いの喧嘩になるのもそう遠くは無いだろう――その場合、ゼミノールの代わりに戦うのは私になるのだろうか? 寧ろそのほうが痛々しい名(ソウルネーム)も有耶無耶にできるかもしれない。


 …………いいぞもっとやれ!!


「あのん、邪竜王さまぁ~ん、ちょっとよろしいでしょうか?」


 はて? これまで傍観という緊急避難をしていたアーネスト様がおずおずといった調子で話に割り込んでこられた。

 ……まさかアーネスト様も痛々しい名(ソウルネーム)を思いついたとか!?


「ん? なんだ道化の生ごみ! ワシ忙しい! この時代遅れの骨董品に最新にして最高の魂の名(ソウルネーム)道を教えねば――」


「その最新最高のオオナタちゃんの……ソ、魂の名(ソウルネーム)についてご質問が。”(おう)”とか死霊王様の代わりとかいうのはどのような意味なのでしょうか?」


 意味? 意味を尋ねるなんて……や、やはりアーネスト様まで痛々しい名(ソウルネーム)の邪悪なる力(詳細不明)に魅入られたのか?!


 痛々しい名(ソウルネーム)の力にガクブルと戦慄する私。


「死霊王の代わりは代わりだ! 死霊王が勇者に倒され空いた軍団長の席にソヤツを押し込んでワシが魔王になるための踏み台にしてやろうと……はっ!?」


 アーネスト様の問いに言い合いの勢いのまま答え、急に口を押さえる邪竜王。手の葉巻からポロリと灰が落ちる。


『…………』


 醒めた顔でそれを眺めるゼミノール。


「「「「………………」」」」


 口と目をまん丸に広げてるその他――主にエタリキ様達。


「……………………へぇ」


 目の前の害虫をどう始末するか考えてるおばちゃんの目つきをするアーネスト様。


『これどうぞ』


 そして素早く灰皿を差し出す私。


 例えボロボロになったとはいえジフ様の仕事場である。葉巻の灰をそのままにするわけにはいかない。会話の切れ間ができたら灰皿を出そうと準備していたのだ。


 私って優秀な骸骨兵(スケルトン)! ジフ様褒めてください!!


 体内に仕舞いこんでいるジフ様――梱包済み――に向かって密かにアピールする。


『失望したぞ、世俗の役職に合わせて魂の名(ソウルネーム)を歪めるとは……天覆う漆黒の竜貴公子ザ・ドラクル・オブ・ダークネス

「ち、違うぞ! そんなことは無い!! ワシは魂の声従っただけだ!」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!! この馬鹿を魔王軍の幹部にするってあんた正気!?」

「絶対後悔するから、やめといたほうがいいぜ」

金蔓(かみ)が魔王軍幹部……儲け話の匂いがしますね」

「エタリキ殿、よだれよだれ」

「う~ん、オオナタちゃんの敵はモフモフの敵……だけど幹部かぁ~ん」


 侮蔑に弁解、制止に欲望、呆れに殺意と論争は新たな参加者を加え混沌の度合いを増していく。

夕飯のおかずから国境線まで大抵後で揉める事になります。

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