死にせまる戦い
戦場ではよくある光景です。
人間達にこちらの正体がばれてしまった。船長ガデム様曰く、
『いいか! 死に損ないの最大の武器は恐怖だ! 人間は、正体の分からない存在を恐れる。そこを狙うんだ!』
とのことなので、正体がばれないように襲ったのだが。ここまでのようだ。これからは正々堂々・・・・・・
「敵やと!」
「ぶち殺せ!!」
「骸骨兵か!!! 砕いてやる!!!」
「どこじゃい!?」
禿頭の水兵の背後。まだ襲っていない部屋の扉が次々と開き、蛮刀や斧を持った男達が続々と出てくる。男達は、揺れるランプの明かりを背にして私を見る。影になった男達の顔は、地獄の悪鬼か悪魔のごとく怒りに歪んでいた。
【ヒッ!?】
あまりの恐怖に精気が漏れる。
殺意とでもいうのだろうか? 禿頭の水兵を含め男達から一瞬赤い光が広がったように錯覚する。
そんなことを考えていると禿頭の水兵が斧を両手で握り再び斬りかかってくる。
ガッ!
かろうじて大鉈ではじくが、大きく体が傾く。失った左腕で体を支えようとしたが、存在しないものが体を支えられるはずもない。私は木目の浮かぶ床に倒れてしまった。
ヤバイ!?
「死ねーーー!?」「シャー」
禿頭の水兵が、私に止めの斧を打ち下ろすのとコメディがその蛇体を伸ばすのは同時だった。
【コメディ!?】
一瞬の交差の後、私の肋骨から伸びるコメディの蛇体は半ばから断ち切られていた。そして残り半分の蛇体は、水兵の喉元に噛み付いている。水兵が仰向けに倒れていく。
コメディ! 大丈夫か!? 私は、大鉈を放り出し這い寄る。
「てめぇ!? よくもアフロスを!?」「シャーシャーシャー」「なんだ!? 蛇の骸骨が!?」「ジャー!?」
水兵と蛇骨兵の怒声が響く中、私は水兵の喉元からコメディを掴み取る。
「蛮刀じゃ駄目だ!」「ジャー!」「ママー!!」「ジャジャジャジャ!」
【コメディ! コメディ! 私を救うために・・・・・・なんてことだ!?】
ジタバタもがくコメディの亡骸を握り締めながら私は、嘆きの精気を放つ。
「右舷は、全員やられた!」「シャー」「挟まれるぞ!?船長室へ引け!」「ジャーーー!?」
周囲から戦いの声が離れていく。コメディ! なぜこんなことに!?
「シャー」
五月蝿いぞ! コメディ! 私は今コメディの死を嘆き悼んでいるのだ!?
「ジャー」
噛み付くなコメディ! ・・・・・・私は冷静に、私が握り私に噛み付くコメディ(半分)を認識した。
【お化け?】
「シャー」【放せ】
コメディが真剣に突っ込んできた。
どうやらコメディは、斬られたぐらいでは死なないようだ・・・・・・良かった。
私は、安堵すると大鉈の代わりにコメディを握り締め、通路を奥に進む。通路の奥には大きな部屋があり明かりの中、蛇骨兵達と水兵達が戦っている。ここにいるのが最後の人間達のようだがその数は八人。こちらが六人なので若干不利である。
「ハッ!」「ジャ!?」
今、一体の蛇骨兵が全ての蛇頭を斬りおとされて崩れ落ちる。斬りおとされた蛇体は、のたくっているので死んではいないのだろう。
このままでは不味い何とかせねば・・・・・・
「こちら高速輸送船コロンブス! 聞こえるか! 魔族の襲撃を受けている! 繰り返す! こちら・・・・・・」
ん?
水兵達の後ろで派手な軍服の中年親父が水晶玉に叫んでいる。
錯乱でもしているのだろうか? なんとなく船長ガデム様に似ているのであいつを倒そう! さて? 私と中年親父の間には水兵達がいる・・・・・・大鉈があれば投擲するのだが。
これでも村では、大鉈を投げるのが一番上手かったのだ。まあ大鉈を使うのは私だけだったが。
「シャー?」
コメディ、何だその疑わしげな声は? ならば見せよう私の技を!?
私は、コメディからの信用を勝ち取るべく右腕を振り上げ・・・・・・中年親父を狙い投げる!!!
「シャシャシャーーーーーーーーー」【ス・ア・ナーーーーーーーーー】
ああっ! コメディが行く!
「・・・・・・魔族の襲撃を受けている。敵は死に損ない、ぐあっ!」
命中! ジフ様見事に成果を上げました。褒めてく・・・・・・
「船長!?」「よくも!」「テメェーーー」「砂にしてやる!」「生ぬるい燃やせ!」
・・・・・・ちょうど最後の蛇骨兵を倒した水兵達が次の目標を私に定めたようだ。
武器無し、左腕無し、コメディ無し・・・・・・迅速に逃亡を選択した私は、後ろに振り返・・・・・・
ドスン
何かにぶつかった。
友の屍を踏み越えても勝てるとは限りません。