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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
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ゲッコウクジョウ? なにそれ? おいしいの?

とある国の第六天魔王様に始まり。部下に反逆される上司は珍しくありません。

 ゲッコクジョウ――どこか危険な響きに私は頭蓋骨をカクンッと揺らす。


「そう下剋上です! 我が金蔓(かみ)よ!」


 エタリキ様は爛々と目を光らせ重ねて言う。

 どうでもいいことですが死に損ない(アンデッド)なのにすごく生き生きしてますね。


「タダで増える不死身の軍隊! 給金も食費も必要ないその経済効率! 三日三晩の過酷労働にも不平不満を言わない知恵の無さ! 全てがあなた様こそこの世の頂点に立つべきだと示しています」


 おお! すごく褒められてる。ジフ様! 褒められましたよ褒めてください!!


「そしてその財産管理はこの私が」

「そんじゃ武器や鎧は俺様が」

「宝石とドレスはあたしが」

「秘薬、魔薬は我が」


 上から順番にエタリキ様、アライ様、イーデス様、ウドー様……皆様力を貸してくれる気満々です。

 それでそのゲッコウクジョウとは何ですか? どうすればよろしいので?

 肝心のゲッコウクジョウがどういうものか教えを請う。


「この世に存在する全ての金貨がわたしのモノになる日がくるなんて。子供のころからの夢が叶います」

「ガキのころからかよ。しかし俺もあの野郎の聖剣が手に入ると思うと胸が高鳴るぜ」

「人魚の秘宝に妖精の首飾り……老いることのないこの美貌にこそ相応しいと思わない? ウドー」

「美貌? 鏡を……いや、何でもござらん」


 だがエタリキ様達は、笑顔で幸せな未来図に浸り答えてくださらない。ここは……

 私はクルリと頭蓋骨を回転させ教えてくれそうな方――アーネスト様へ向ける。


「下剋上ね~ん、確かにどうせ反逆者になるのなら先手を打ってしまうのもありね。既にアンスターやスチナはオオナタちゃんが制圧してるわけだし、一度アンスター辺りまで逃げて数で押せば……ん? どうしたのオオナタちゃん」


 アーネスト様も口元を押さえながら考え事をされていたが私の視線に気がついてくれた。


「下剋上? ……そうね生前(もと)が貴族でもなきゃ知らないわよね普通。下剋上っていうのは、部下が上司に逆らってその上にたとうとする事よ~ん。大抵失敗するけど」


 答えつつ呆れたように肩をすくめるアーネスト様。


 私はありがとうございますと謝辞を示し想像する。

 上司の上に立つこと――上司の肩の上に立とうとする部下を思い浮かべ……安定性悪そう。

 それは失敗しそうですね、と顎を……なくしているから頭蓋骨をカタカタ笑うように揺らし意思を伝えた。


 しかし帰ってきた声は逆に真剣なものだった。


「そうそう。オオナタちゃん魔王軍への反逆はいいとして……絶対にジフ様への下剋上とか考えたらダメよ」


 はて? ジフ様への何がダメなんですか。


「だから下剋上よ。”逆らってやる”とか”首をもいでやる”とか考えたらダメよ。考えたら最悪……」


 首? ジフ様の首を――


 道化服を着た死神の言葉を理解し、思考し、具体的に想像した瞬間――私の意識は蝋燭の火を吹き消すように消失した。





~~~~~~~~~


「お前には家族もいない。村のためだ行ってくれ」


 老人――村長は申し訳なさそうな声で、しかし決定したこととして告げた。


「……はい」


 そして反論などせずに受け入れた。兵役で街に行くことを。


 両親を亡くした子供を売り飛ばしもせずに村に置き、狩りをできるようになるまで食糧を――死なない程度にだが――分けてくれた村長に逆らいなどしない。そもそも他の村人にも反抗などしたことがないが。


『丁度いい』

『こんな時こそ』

『死ぬまで戻れない』


 小声だがしかし聞こえてしまう村人のヒソヒソ話も気にしない。

 村での評価は、弓も使えなければ罠も碌に知らない愚図な狩人……これでならず者や乱暴者と言われないのは腕っ節も弱いからだ。


「兵として働けば衣食住は保障される。今のように森で獣を追いかける必要もないだろう」


「……はい」


 村長への返事に少し間があるのは躊躇しているのではなくただ反応が遅いだけだ。村の皆からするとそんなところが愚図らしいができないものは仕方がない。


 ただ……ほんの少しだけ残念に思っていた。獲物に鉈を振り下ろす”あの”感触を味わえなくなることを。




~~~~~~~~~


「起きて……さい!! ……金蔓!!」

「エタリキちゃん、本音が……漏れよ~ん」


 大きな叫び声と激しい揺れに意識が浮かび上がる。


 二日酔いの三倍ぐらいひどい頭痛に骨を歪めつつ私は目覚めた。


 ううううう、気持ち悪い。


 何度も見てそして忘れる夢。存在しない内臓が裏返るような不快感を呼び起こす人間の夢。思い出したら恐ろしいことが起こるような嫌な夢。


「やった! 起きましたよ!! 大丈夫ですか金蔓!!」

「エタリキよー流石にもう少し落ち着けよ。本性が出てるぜ」

「だけど良かったじゃん。いきなり頭蓋骨が点滅しながら回転急上昇したときはどうなるかと焦ったじゃん」

「いや、とっさに我を盾にする程度には冷静だったぞ」


 頭上でごちゃごちゃ話すのが頭蓋に響く。私は状況を理解しようとする。


 ここは舞台? いつの間に頭だけに、一体……? 確か……アーネスト様に、教えてもらった。下剋上、ジフ様の……


「は~い! それ以上考えない!! ひどい顔色よ!!」


 いたっ!?


 声と共に鋭い一撃が眉間を打ち抜く。


「オオナタちゃん、意識をこっちに向けなさい。私が分かるわね? 余計なことを考えちゃダメよ」


 一撃の主――アーネスト様は私の眉間に指を突きつけながら強い口調で言う。

 そして痛いと抗議しようとする私に畳み掛けるように言い聞かせる。


「あなたはジフ様の骸骨兵(スケルトン)。ジフ様のために働き滅びる存在。創造者のためにだけある。いいわね?」


 はい? なに当たり前のことを。当たり前ですよ。それ以外のことなんて考えてませんよ。


 当然のことを言われ。キョトンとする私。


「そうそれでいいわ。あー良かったわ~ん。あんまり強力な”楔”じゃなくて」


 楔?


「ああ、オオナタちゃんは知らなくていいから。気にしたらダメよ~ん」


 は、はい、分かりました。知らないし気にしません。


 素直で優秀な私は眉間に残る痛みも含めてアーネスト様の言うとおり全てを気にしないことにした。

 とりあえずいつの間にか分離していた身体に向かって飛び上がり合体。

 首と頭の調子を整える私の横でアーネスト様達が話をしていても聞き流す。


「反逆を考えただけで自壊するとか……なに考えてるんですか死霊魔術師(ネクロマンサー)は勿体無い」

「あたし達は大丈夫なんでしょうね?」

「さあ? 死霊王様の作った秘薬だし私は知らないわ~ん」

「「「「おい!」」」」

「この手の”楔”や”鎖”は死霊魔術師(ネクロマンサー)の伝統だし。保険よ、保・険」

「嫌な伝統だな。裏切りを想像しただけで殺すとかどんな職場だ」

「う~ん、ジフ様のは良心的なほうよ。自覚のない忠誠心と裏切ったら即自壊なんて序の口、序の口。自分が滅んだら敵味方関係なく襲い掛かって道連れを増やすように仕込んでる死霊魔術師(ネクロマンサー)もいるし。主人を復活させようとしたオオナタちゃんはかなり珍しいわねん。普通そこまでしないから……」

「その良心的な行為で私の夢が潰えるところでしたよ。しかし『ジフ様! ジフ様!』と馬鹿みたいな忠誠心はそれのせいですか」


 ……聞いていてもよく分からないですし。

 しかし気にしないように注意すると逆に聞こえてしまうの何故だろう。


「創造者への造反は無理と……ならば魔王に対してなら問題ないわけですね。幸い既に入り口で半殺しにしているようですしこれからトドメを刺して他の幹部も一人一人始末すれば」

「それなら大丈夫かしらね~ん。それにジフ様の魔術自体あんまり高度なものじゃなさそうだから腕の立つ死霊魔術師(ネクロマンサー)なら”楔”も”鎖”も外すのは難しくないわ」

「なら外しちゃえば?」

「止めといたほうがよくねいか? あの骸骨は自由にするとなんかやばい気がするぜ」

「アライさんにしては弱気ですね。まぁ、今のままのほうが使いやすそうですし……」


 飽きた………………暇だ。


 アーネスト様やエタリキ様達の話は長くなりそうなので私はジフ様や死体獣(ゾンビビースト)と戯れることにした。

 視線を巡らすと死体兎(ゾンビラビット)らしき兎耳が舞台の影からピョコンと出ている。


 ジッフさっま~ジッフさっま~……


 私はいそいそとそちらに身を乗り出し。


「あ、あの! サーカスで反乱を計画している人達がいます」


 兎耳を頭に生やしたお嬢さんが身をかがめて”何か”に話しかけているのを見つけた。


 はて? どちら様? どこかで見かけたような……


「私は魔人軍団のニーナと……あ」


 誰だか思い出そうと努める私にお嬢さんのほうでも気がついた。驚いたのか話しかけていた”何か”が彼女の手から零れ落ちる。

 それは硝子のように透明で、手で包めてしまえるほど小さな、しかし魔術の力を秘めた便利な品。


 コロコロコロ……


 天幕の中に遠話に用いる水晶球が転がる音が響いた。

珍しくはありませんが、失敗することが多いです。

成功したものが下剋上として有名になり、失敗したものはあまり注目されません。

第六天魔王様も本能寺の変の前に何度も離反や裏切りを経験しています。

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