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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
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いくつもある冴えたやり方

多大な損害を与えた相手に許してもらうには?

「あなた様は神様です!!」


 ……ジフ様、私は遂に神様になったようです。これは昇進なのでしょうか?


 私とエタリキ様の仲裁に入ったゼミノール。彼の助言に従い”ジフ様へのお土産”――の更にその一部を差し出した私は……


「このエタリキは永遠にあなた様の僕でございます!!」


 全力で崇められ困惑していた。


 エタリキ様、まずは涙を――よく見たら涎だ。兎に角、涎を拭いてください。そんなにあせらなくてもまだまだありますから。


「なんて素晴らしい! なんて神々しい!!」


 全身を使って――私を賛美する口を除く――差し出したお土産にむしゃぶりつく姿に落ち着いて欲しいと伝える。

 そしてエタリキ様の喜ぶ様に若干引きながらも、『お土産持ってきて良かった』とも自らの行いに満足もしていた。


 ああ、本当に良かった。タリア産とはいえワイン一本だけとかしなくて。アンスターで城の宝物庫や商店の金庫から金貨や宝物を甲羅の中(ふところ)に詰め込めるだけ詰め込んだのは正解だった。決して火事場泥棒ではない。周囲の魂喰兵(みんな)もしてたし。


 ジャラリと手のひらに溢れる金銀財宝を弄ぶ。ボロボロと指の隙間からこぼれる金と銀の雫にああああーーーと叫びながら(かみ)亡者しんじゃは随喜の涎を撒き散らした。


「ありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたやありがたや……」


 『金は人を変える』――魔族を殺せば褒美に金貨が貰えるという噂を聞いた先輩が死に損ない(アンデッド)の群れに飛び込んでいったのを眺めながらおやっさんがこぼした言葉だ。いつも私を盾にして応援に徹していた先輩が死体兵(ゾンビ)の首を叩き斬り、骸骨兵(スケルトン)の頭蓋骨を柄で砕くその姿は確かに別人に見えた。……ちなみに褒美は金貨ではなくて銅貨だったそうだ。


 そして甲羅の中から取り出した一掴み。たった一掴みの金銀財宝によって私を撲殺しようとしていたエタリキ様は変節……あれ? 元からお金好きだったから変わってないのかな? おやっさんどうやら神官様は金では変わらないようです。


【既に黄金の輝きに捕らわれていただけだと思うがね……オオナタ】


 何か言いましたか? 何はともあれありがとうございます。助言していただかなければ今頃粉砕されてました。


【……君が気にしないならかまわんがね……オオナタ】


 私は恩人――恩首?――ゼミノール様に礼を述べてからジフ様に頭蓋を向ける。


 問題も解決したしこれからはのんびりとジフ様に共にいられる。甲羅の中にはまだまだお土産が唸っているし、今ここ(タイラント)に向かっている魂喰兵(ワイト)の皆が略奪した分も考えれば一生遊んで暮らせるはずだ。


「もふーーーもふもふーーーもっふもふーーーーーーもふ?」


 死体獣(ゾンビビースト)達の中で虚空に眼窩をさまよわせるジフ様を愛でているうちに私の心は満たされていく。


 ここまで実に長かった……ジフ様を求めて三千万歩ぐらいの辛く苦しい日々もやっと終わったのだ。


 めでたしめでたし……









「終わってないわよ~~~~~~ん!!」


 誰ですか感動的な大団円を邪魔するのは?


「わたしよんっ!! オオナタちゃん、魔王様を半殺しにしたのと魔王軍壊滅させた件が丸々残ってるよ!!」


 達成感満載で穏やかな時間を過ごそうとするのを妨害したのは、桃色道化服の死神――アーネスト・エンド様。エタリキ様の怒りが収まったのとは対照的に怒っていらっしゃる。


 あーー……その件まだ終わってなかったんですか?


「いつ終わったの!? むしろどこをどうしたら終われるのかこっちが聞きたいわよ!!!!」


 地団駄を踏みながらの怒号が響く。


「エタリキちゃんの件よりよっぽど重要でしょう!! もう少しで魔王様や軍団長もモフモフの虜にできたのに!! あああああああああッ! まずいわ! 冷静に考えれば考えるほど最悪の状態じゃない!! 魔王軍が上から下まで全部敵に回るなんて……フフフフフフフフッフッ……フフフフフ……」


 あの? アーネスト様?


 鬼気迫る形相と壊れた笑いに危険な気配が混じり始める。


「オオナタちゃんは骸骨兵(スケルトン)だから創造者のジフ様は管理責任を問われるでしょうし、私達も”一味”扱いで共犯。妖鬼や邪竜の長は首を要求してくるかしら? 怪蟲とか凶獣は弁明すら聞かない馬鹿だし……唯一なんとかできそうな魔王様は重傷。アハ、アハハハハハハハハハ……どうしろっていうのよっ!!!!」


 ア、アーネスト様? 借金で首が回らなくなった商会の主みたいな感じですよ。大丈夫ですか? 


「大丈夫じゃないわよ~~~ん!!!! 世界をもふもふで埋め尽くす私の夢が潰えようとしているのよ~~~ん!!!! オオナタちゃん!!!! あなたのせいでね!!!!」


 うおっ!?


 圧力さえ感じる怒りの叫びが限界突破螺旋突貫気味で叩きつけられた。


 あ~悲壮感漂うアーネスト様の様子に罪悪感が少しだけ生まれた。郊外での戦いは身を守っただけだし魔お……ではなくて黒いねばっぽいものを叩き落としたのは事故なのだが爪の先ぐらいは私にも責任があるかなという気分になってくる。


 よし。ここは再び自称調停者のゼミノール様に助けていただこう。さあ、先生お願いいたしやす。


【うむ、任したまえ。まずは誠意の篭った謝罪と賠償だな。贖いの品はアンスターの略奪者から取り戻した宝を使うといい。それにもしかしたら古の魔王(わたし)達の血脈に繋がる魔族がいるやもしれない。使える(えにし)と術を全て用いることが重要なのだ……オオナタ】


 ナルホドナルホド。


 私は干し首の語る難しい話に適当に相槌を打つ。よく分からないが何とかなるならそれでいい。とそこに別の声が割って入った。


「お待ちください! 賠償に宝を使うなんてとんでもない!!」


 エタリキ様、金貨に頬ずりするとお肌が痛みますよ。……ではなくて宝渡すの反対なんですか。


「当たり前です! そもそも謝る必要なんてありません!! もっと素晴らしい考えがあります」


 もっといい考えとはどのような?


 神官は問いに厳かに応える。


「我が神よ……下克上ってご存知ですか?」

謝罪と賠償が基本です。


もちろん他の方法もあります。ただ更なる問題を生み出す可能性も……?

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