表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
204/223

怒りの日

真実はときに人を狂気に走らせます。

 『貴族とか”偉い奴”が怒っている時は頭を下げて言うとおりにしておけ』……以前おやっさんが教えてくれた。

 そんな言葉を教えられたのは、魔王軍に負けると貴族様達は機嫌が悪くなり、私達――徴兵された平民に必ずと言っていいほど罵声を浴びせ暴力を振るったからだ。理不尽な話だが怒った人間相手に理屈は通じないのだ。


 そして何故そのようなこと思い出しているかというと、


「さぁぁぁあああ~~~~~~ん、オオナタちゃん。全部話しなさあああぁぁぁぁぁぁーーーーーーい。大丈夫よ~~~ん。怒らないからあああぁぁぁねぇぇぇ~~~~~~ん」


 冷静(・・)に怒っているアーネスト様に頭蓋骨を鷲掴みにされ詰問を受けているからである。

 おどろおどろしい陰の精気を溢れさせる姿は自称である癒し手とは逆、むしろ道化服を着た死神……


「誰が死神ですってえええぇぇぇぇぇぇん?」


 いえ! アーネスト様が死神なんて毛ほども思っていません。おやっさん! おやっさん!! 理不尽じゃない正しき怒りのやり過ごし方を教えて!! アーネスト様が怖いです!! ああああ!! 魔王や魔王軍を倒したのは成り行きというか、偶然というか……そう! 『不幸な事故』!!


「だからあぁ~~~んんん…………とっとと吐け」


 私の弁明にアーネスト様の声はますます冷たくなる。寒気が背骨……はないから後頭部を駆け抜けた。

 『生きたければとにかく話せ』私はどっかの草むらに落としてきたはずの生者の本能に従い語りだす。


 え、ええとですね。ジフ様と離れた後の話ですよね? わ、私はジフ様を逃がすため得物片手に憎き勇者へ雄雄しく挑み、まさに剣林弾雨鉄風雷火を潜り抜け……


「それじゃにゃいィィィ」


 ぎょえ?!


 しかしぺらぺらと喋りだした髑髏(わたし)に氷の言葉と指が突き刺さる。


 あぎゃああああ! アーーーーーーネスト様っ!? 刺さってます! 喋ってます!! 後、口調変わってます!! どれってそれですか?!! にゃいがどれですか??


『もういい……念話で伝えろ。全部(・・)思い出しながら』


 混乱する私に”暖かさ”を全て忘れた凍てつく思念が染み込んできた。


 ゲァエァ!


 いつぞやアンスターで魔術師の魂を喰らった感覚の逆、頭の中をかき回し引きずり出すような感覚に青白い煙を吐き出す。

 こ、これは、先輩と安酒を飲んだ翌日、堀のどぶさらいを命じられた記憶がよみがえる。あの時は珍しく移動で馬車に乗れたけど二日酔いと揺れがほどよく(・・・・)混ぜてくれたお陰で体が……


『関係ないことを思い出すな』


 …………ハイ。


 そろそろ冷静じゃなくなりそうなアーネスト様の心の声に、私は全力でジフ様達と別れた後のことを思い出す。そう全てを。


 『ここは絶対通さない!!』勇者との熾烈な戦い……

 『蝙蝠の羽、蜥蜴の尻尾、ネルネルネルネ~』魔女の拷問……

 『世界中の骨は私のものだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』骨好き男の×××……

 『バカスアナ』コメディとの再会、とおまけで巨人ゼミノールと楽しい仲間達……

 『ジフ様どこ~? あなたの大鉈はここですよ~~~』ジフ様を探して仲間も増やす……

 『ヌシを倒せばワレが次の死霊王よ』大陸縦断三千里そして次々と現れる強敵……

 『モフモフサーカスに行くにぃ』ここまで案内してくれた親切な娘……

 『あん? なに睨んでんじゃ!!』因縁つけてきた魔族達……

 『我こそが魔――』先ほど叩き落した黒いなにか……


 思い返すと本当にいろいろあった。若干記憶が怪しい部分もあるが、私はここ数ヶ月で体験したことを念話で伝えるため暗く青い精気とともに吐き出す。


 さあ! とどけこの想い!! 星の果てまで!!


「エ? オオナタちゃん!?」


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 私から溢れ出た記憶の光は、素に戻ったアーネスト様を呑み込みしかし更に広がっていく。


「な、なんかやばくないか?」

「馬鹿! 見たら分かるわよ!」

「私達は死に損ない(アンデッド)ですから害はないはず……でも念のため逃げましょう」

「我も賛成」


 はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 アライ様を、イーデス様を、エタリキ様を、ウドー様を。視界に移る全てに私の想いが記憶が心が叩き込まれていく。


 「チュウ?」「ニャ?」「コケ!」「ミャーー!!」


 ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!


 ジフ様の影に隠れる死体獣(ゾンビビースト)達を眺めながら私の意識が広がっていく。


 サーカスの隅々――『レミ!』と走り出すデニム様。

 タイラントの街――完全武装した魔族、怯える人間。

 そして街の外部――壊滅した魔王軍と近づく死者の群(わたし)


 ああ、ジフ様……世界が見える……


 後から後から溢れてくる力に押されるまま自分でも止められない、止める気が起きない”何か”の奔流が大地と空を染め上げ……


「あなたの仕業ですかあああああああぁあぁああああ!!」


 ゴン!


 叫び声と共に響く衝撃により”何か”の蹂躙は終わりを告げた。


 てか、痛い。誰ですかもう少しで……はて? もう少しでなんだろう。なんかもう少しで凄い事ができそうな気がしたようなしないようなしなかったりしたりしたような。


 ガン! ギガン!! ガッシャ!!!


 あだ!!


 何が起きかけていたのか考えているうちに先ほどの衝撃が今度は三連打で叩き込まれた。

 考えるのはとりあえず放棄して視線を巡らせ原因を探す。それはすぐに見つかった。


「ああああ、あなたのせいで私の金貨がぁぁぁあああああああ!!」


 見つかったというか隠れてない。眼前で算盤(きょうき)を振り上げているのは普段どおりの笑顔を張り付かせたままのエタリキ様だった。


「地獄に落ちなさぁぁぁあああい!!」


 金棒の代わりに算盤を振り上げた悪鬼の怒号が轟く。


 ドム!


 非常にイイ音と共に世界が回る。


「私の金をかええせええええええええええええええええええええ!!?」


 絶叫と共に始まる空中殺法。まずは算盤の角で眉間を! 続いて翻った枠が前歯を砕く!! 顔面に叩きつけられた球は一つ一つが丁寧に眼窩、鼻腔を抉っていき。いつの間にか増えたもう一つの算盤で両面殴打。


 そ、算盤、あれは武器、商人の武器、ここまで強力な武器とは知らなかった。


 しかし私とて村長におやっさんに先輩に貴族にジフ様に勇者に魔女に槍爺と殴られ続けた。この程度……


 ボゴスベキガドベキ!!


 この程度……

 

 ゴロバキドカグシャベシペキギョロロ!!


 こ、の……


「エ、エタリキちゃん!! やめ! 砕けてる!! 砕けてるからオオナタちゃん!!」

「放してください!! こいつのせいで!! こいつのせいで!! 私の金貨が!! 金貨が!! 生甲斐が!!」


 神官の手により天に導かれる寸前、アーネスト様がエタリキ様を羽交い絞めにしてくださった。


 ああ、ありが、とう、ございますアーネスト様。


「ここで潰したら責任の押し付け先がいなくなっちゃうわよ!?」

「処刑になるなら私の手でやらせてください! 私の、私の受けた損害がどれほどかっ!! この世に生きる全ての商人に成り代わりこの邪神をここで成敗させてください!!」

「だからここでやったら駄目でしょう!」


 アーネスト様が宥められてもエタリキ様の怒りが静まる様子はない。何故エタリキ様はあんなに怒っているのだろうか? 誰か教えてくれないかな~?


「え? あたし?」


 光に眩んだ目をしばたたかせるイーデス様が教えてくれるそうだ。


「まあいいけど。あんたさぁ、アンスター滅ぼしたじゃん」


 あ~滅ぼしましたね。今は国民(みなさん)死に損ない(おなかま)です。


「で、エタリキ(あいつ)ってこれまで稼いだ金の大半アンスターの金貨にして溜め込んでた訳じゃん」


 へえ、そうなんですか。でもそれが何か?


「あたしもよく知ってるわけじゃないんだけどさ。金貨って大きな国のものほど価値が上がるらしいのよ」


 私はイーデス様の言葉になるほどと相槌を打つ。


「……あんた、理解してる?」


 なんとなく?


「なんで疑問系……簡単に言うとあんたのせいで大損したのよ、あいつ」


 ほうほう…………それは……ごめんなさい。


「ごめんですんだら神様いらないんですよォォォおおお!! 命で金は買えないんですよ!! この生ごみが!!」

「エタリキちゃん、言ってることが神官どころか人間としても死に損ない(アンデッド)としてもいろいろやばいわよ~ん」


 謝っても赦してもらえないようだ。困った。


『あ~少しいいかね?……諸君』


 混乱する状況に厳かに響き渡る声。それはいることを忘れかけていた存在。

 先ほどの念話でその声の主を知っていた全員が動きを止め、顔を私のほう――正しくはその一部分――に向けた。


『ありがとう。聴く意思があると見なさせてもらおう』


 干乾びた巨大な首――ゼミノール。調停者と呼ばれる古の魔王が静かに言葉を紡ぎだす。

注:算盤は凶器ではありません。

剣や槍だけがファンタジー武器ではない今日この頃。旗・机・扇など少し変わった武器を使うと作品に特徴が……(思考中)……算盤で邪神を倒す似非聖職者。イロモノ? いえいえ、オ、オリジナリティですよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ