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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
202/223

金の亡者と道化と獣

交渉とは討議による問題解決手段です。平和的でいいですね……

「タリア王国が死体獣(このこたち)デビュー(おひろめ)に相応しいと思うの~ん。あそこは芸術と飽食の都だしね~ん」


 まずは先手……私――じゃなくてジフ様の夢への反対を封じるため交渉の主導権を握ろうとしたわ。『場所』を選んだのは他に選択肢がないことが理由ね。大陸の南半分は人間の勢力圏で聖都は論外、スチナは死霊王様が倒されちゃって情勢不安、ザペンは田舎……ね? タリアしかないでしょう。どんな商売をするにしても安全は考慮しないといけないしね~ん。

 そして選択肢のない条件を同意させその後の話もこちらの思い通りに…………できたら良かったんだけどね。


「お待ち下さい。御披露目とはどういうことですか?」


 パチ!


 予想してたんだけどエタリキちゃんが算盤を弾きながら異議を唱えてきたわ。算盤弾くのは癖なのかしらね~ん? お金が絡まない時もパチポチ指で弄ってるのよ。


「どういうことって……そのままの意味よ~ん。死体獣(このこたち)の御披露目、初公演……この至高の愛らしさを大陸中に知らしめるためには最高の舞台を準備しないとね~ん!」


「私が御聞きしたいのはそういう意味では有りません……アーネスト・エンド様、そもそもどのように儲けるつもりなのですか? まずはそこから話し合うべきなのでは?」


 私は抱き上げた死体猫(ねこ)ちゃんの毛をなでながら応じたわ。勿論、エタリキちゃんの問いを曲解してその問いをはぐらかすためにね。残念なことにエタリキちゃんは、はぐらかされたりしなかったけど。笑顔だけど眼鏡越しに見える細い目が全然笑ってないのよ。


「……ちっ」


「アーネスト様?」


「オホホホホホネ……どうやって儲けるつもりかなんて決まってるでしょ~ん。それは――」


「それは?」


 骨を鳴らして笑う私にズズイっと顔を寄せてくるエタリキちゃん。

 私はその圧力に負けることなく星に向かって大きな夢を語ったわ。


死体獣(このこたち)の踊りと歌で皆の心を掴んでおひねりを……」


「却下です」


 ギロチンの刃を落とすような一言。

 思い返すとさっさと精神支配の魔術でも掛けとくべきだったわ。あ~でも頭が馬鹿になるし……オオナタちゃんなエタリキちゃん………………面白いかもしれないわね?


「踊り? 歌? おひねり? 大道芸でもさせるんですか?」


「そんな訳ないでしょ~ん。ちゃんと劇場を借りるなり、舞台を作るなりして……」


「却下です」


 再び『却下』されて半日ぶりに暗殺者の血が――血なんかないけど――疼いたわ。


「『芸を見せて儲ける』、確かに珍しくて愛らしい死体獣(これ)が芸をすれば多少の銅貨、銀貨を得ることはできるでしょう」


 エタリキちゃんは、自分の命が――これまた死に損ない(アンデッド)だけど――危険にさらされていることに気付きもせずに滔々と語ったわ。悔しいけど話の主導権を握られた形ね。


「しかし! 大通りで芸しても儲けは知れています。それは舞台や劇場も同じこと……なにより準備費用に人足代と金が掛かります」


 パチパチパチパチと亡者な神官の指がザペン伝来の計算機を弾いていったわ。

 ――なんかもうね? エタリキちゃんたら逝き逝きしちゃって……私の増徴した死霊魔術師(だいこうぶつ)っぽくてね。我慢するのが大変だったわ~ん。


「ギルティ商会を通じて各国の好事家に売り込みましょう。商会を通す分利益は減りますが商会が独占している地脈(みち)を使えば私達が売るより何倍も早く売りさばけるかと。一匹金貨三十枚……いえ、ここは強気の五十枚で。支払いは、アンスターの星金貨」


「ギルティは確かに骸骨兵(スケルトン)死体兵(ゾンビ)まで取り扱う大商会だけど……この子達を売るって言うの?」


「ひのふのみの……星金貨で二千五百。アンスターは今回の死霊王討伐で対魔王軍の主導的立場になるでしょう。あそこの貨幣は強くなりますよ」


 そう言い切るエタリキちゃんが一瞬算盤に見えたのは私の気のせいかしらね~ん。魔人とか邪神の方がもうちょっと温かみがありそうだったわ。


「うぅん~ん」


 私は自分の頭蓋骨を指でコツコツたたきながら悩んだわ~ん。あっ、死体獣(あのこたち)を売ることを悩んだんじゃないわよ! あの子達を売るなんて私が考えるわけないじゃな~~~い!! エタリキちゃんをどう処――説得しようか悩んだのよ~ん。

 癒しの道化師(ヒーリングクラウン)としては丸く穏便に殺――説得したかったからね~ん。


「まずは個別販売で行きましょう」


 どうにかしてエタリキちゃんを……


「次に五匹組合せ販売」


 穏便に…………


「類似品が出てくるでしょうから第二期以降は塗装して売りましょう」


 ………………


「そして売り切れば後の防腐処理とかは相手に任せて…………むしろ腐ったら新商品を売り込むというのもいいですね」


 穏便に解決しようと考えてたのよ。


「首をもげば黙るかしら」


 ……本当よ。


「オ、オイ、エタリキ! やば――」


 そんな私の鬼気迫る様子に黙るように言われていたアライちゃんが口を開いたんだけど……


「アライさん、交渉事は私に任せてください。短い時間で利益を得るにはこれが最良なんですから」


 全く取り合わずにその”最良”なる手段の計画を話し続けたわ。


「顧客表からこの手のものに高値をつけそうな人物何人か選んで噂を流しておきましょう。『とても珍しく他では手に入らない超希少魔族』『数量限定』『期間限定』、こんなところでしょう」


 私がそれを実行に移さなかったのは……


「ミャァァ~~~~ン」


 その手に抱き上げてた小さな生命(いのち)亡きものの嘆きがあったからよ。


「ん?」


 首を傾げるエタリキちゃんに向かって鳴くのは白く濁った瞳が愛らしい死体猫(ねこ)ちゃん。 


「キュウ~~ン」


 それに続くように背後から死体栗鼠(りす)ちゃんが。


「クゥ~~ン」


 右からは死体犬(わん)ちゃんが。


「ピョン!」


 左から死体兎(うさ)ちゃんが。


 いつの間にか私とエタリキちゃんの周りを死体獣(ゾンビビースト)が囲んでたの。


「ニャ~~ン」「クゥウ~~ン」「ケサラ~~ン」「パサラ~~ン」「コォォ~~ン」「メェエ~~ン」


 悲しげな演奏とともに何十という目が私達を見つめてたわ。瞬き一つしないでずっ~とね。


「なんですか」


「ミャァァ~~ン」


「そんな声で鳴いても」


「キュゥウ~~ン」


「わ、私は捨て猫も捨て犬も拾わない鋼の意思が」


 少し冷静になった私と違ってエタリキちゃんの方は、集中的に擦り寄られていったわ。


「チュウ?」


 頭の上に登った死体鼠(ちゅう)ちゃんに顔を覗き込まれたりそれはもう羨ましいぐらいね。


「ニャ~~ン」「クゥウ~~ン」「ワンワン」「パサラ~~ン」「む、無駄です」「コォォ~~ン」「メェエ~~ン」「ニャ~~ン」「クゥウ~~ン」「ドォォ~~ス」「止めなさいっ」「パサラ~~ン」「チュウ」「メェエ~~ン」「ニャ~~ン」「クゥウ~~ン」「すっ、すり付かないでください!!」「ケサラ~~ン」「アイフ~~ル」「コォォ~~ン」「ピョ~ン」「ニャァァ~~……」


 それから暫くしてモフモフ毛玉の中から這い出てきたエタリキちゃんは、


「タ、タリ、タリアのタイラントならつ、伝手が……あります。そ、それでいいんでしょう!!」


 もう『死体獣(あのこ)たちを売ろう』と言わなくなっていたわ。

そして元々は争いが双方にとって大きな不利益を生む場合の代替手段だったりします。


つまりどちらかの力が隔絶してたら…………エタリキさんの降伏は正しい判断。

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