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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
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道化師は逃げる

勇者一行からさえ逃げ切ったアーネストに更なる脅威が襲い掛かります。

 死霊軍団の粛清者として見てきた死霊魔術師(ネクロマンサー)の本質をデニムちゃんに語った私は、


「くっ! まさかこんなことになるなんて?!」


 想定外の事態に陥ったわ。


 転移の間を脱し、私は帰らずの砂漠に迷い込んだ旅人のように救いを求め”暗黒門”を駆けたわ。ホントォォォォォォーーーーーーーーーに痛恨のミスだったのよ。あれほどの失敗はちょっと思いつかないわね。


 何を失敗したって? 決まってるじゃな~い。


「アーネスト様! たとえ死霊王様がお亡くなりになり契約が消滅したとしても組織の崩壊を食い止め同時に死霊魔術師(なかま)の安全に憂慮するのが幹部として席を置いていた方の責任であり、義務なのですよ!! そもそも幹部の方々とは以前より機会があればお話したいと思っておりました。これも聖一神の御導きです。膝蓋骨(ひざ)を突き合わせて徹底的に話し合いましょう」


「デ、デニムちゃん! お、落ち着いてぇ~ん!」


 ……デニムちゃんの説得よ。


 悪い予感はこれだったの。勇者とか、ジフ様が自失状態になるとか、人間の謀略なんて些細なことだったのよ。本当の危機はすぐ傍にいたの。


 そう! デニムちゃんが!


 背後より延々と続く説教――あの時は終わらないんじゃないかって本気で怖かったわ――から逃れようと私は崩れた石材を押しのけ死者の灰を蹴散らし”暗黒門”の城壁を転がり落ちたわ。

 『死霊王様亡くなったし死霊魔術師(ネクロマンサー)は、仲間じゃないでしょう』『責任や義務なんて誰も期待してないって』と、何度言っても分かってくれないのよ。それどころか逆に益々やる気を出して私が論破される流れになってね。デニムちゃんのアレ(・・)は、説教なんてちゃちなもんじゃないわ。はっきり言って拷問? むしろ洗脳?


 崩れ落ちた城門――後でエタリキちゃんに確認したらアンスターの勇者達が一撃で粉砕したんだって――を抜けて完全に外に出てもデニムちゃんの言葉は続いたわ。


「アーネスト様、あなた様は死霊王様が亡くなり混乱されているんです。落ち着いて私の話をお聞きください。三日ほどじっくり聞いていただければ必ず考え直していただけます」


「あ、あなた達! あなた達からもデニムちゃんになんか言って!」


 私は何とか苦境を脱しようと藁にも縋る思いで他の同行者達に叫んだの。

 だけどね~ん。まず新米死に損ない(アンデッド)の元勇者四人組……


「お、おいエタリキ、道化師野郎が呼んでるぜ。交渉と話術はお前の担当だろ」


 デニムちゃんから全力で首を逸らして話すアライちゃん。


「桃色道化師ではなくてアーネスト・エンド様ですよ。さっきみたいにバラバラにされたいんですか? それにしても指一本触れずに四人とも解体されるなんて……裏切るのは暫く無理ですね。しかしダブロスにも戻れませんし……」


 まだ裏切る気満々のエタリキちゃん。


「そんなことよりこの身体! 殺されてもあっと言う間に元に戻って! ほらこの肌見なさいよ! 傷一つ無いでしょ! 死に損ない(アンデッド)もいいじゃない!」


 美白お肌に目を輝かせてるイーデスちゃん。


「我もイーデス殿と同じくこの肉体気に入った。これからは不死身の変体戦士と名乗ろうか?」


 筋肉を強調する変態ウドーちゃん。


 ……全く期待できそうになかっわ。


 ならばジフ様! とデニムちゃんと親友らしいし仲裁をしてもらえるかもと期待して振り向くと。


「そうだ……これは夢なんだ。本当の私は暖かい毛布に包まってママが起こしに来るのを待ってるんだ」


 ……もっと駄目だったわ。死体獣(ゾンビビースト)ちゃん達に棺ごと運ばれながらうわ言を……この時点では症状は悪化してるのか改善してるのか分からなかったわね。現実から目を逸らしてたぐらいだったから。


 ちなみにジフ様の棺を運びながら楽器を鳴らす死体獣(ゾンビビースト)ちゃん達を、苦しく(精神的に)、危険な(人格崩壊的に)戦いに巻き込む気は無かったわ。

 強いて言うならあの子達の可愛さに救われたわ~ん。黒、白、三毛、ブチ、虎……色々な死体猫(ゾンビキャット)達が戯れるようなに踊り、その間を栗鼠と鼠が駆け抜けてね~ん。

 今思い出しても幸せだわ。


「アーネスト様!!」


 しかし現実は非情だったの。

 癒された端からガリガリ音を立てながら私の中の何かが削られていくの。具体的にはデニムちゃんの言葉に従って死霊魔術師(ネクロマンサー)達を束ねて死霊軍団の再編をしたほうが楽な気がしてきたんだけど……


 私は負けなかったわ。 


「そうよ! デニムちゃん!」


 たった一つの冴えたやり方を思いついたの。


「ジフ様を新しい死霊王として死霊軍団を纏めればいいのよ! なにも私みたいな暗殺者が纏め役なんてする必要ないのよ! ジフ様のほうが席次高いんだしね~ん!」


 素晴らしい考えでしょう。ジフ様を推薦することで私への矛先を逸らせてジフ様も更なる出世ができるかもしれないのよ~ん。


「……ジーン様に?」


 私の言葉にデニムちゃんはジフ様へ頭蓋骨を向けたわ。


「お花がいっぱいだ~お姉ちゃん待ってよ~」


 ジフ様以外誰にも見えないお花畑に手を伸ばすジフ様へね……暫くしてから目頭を押さえ天を仰いだわ。


「……ジーン様には死霊軍団をまとめるのはまだ早いかと。席次が低くても幹部としての経験が多いアーネスト様が適任かと」


 真面目だけど杓子定規じゃなくて柔軟な対応ができるなんて流石はデニムちゃん。その柔軟性を他のところにも発揮して欲しかったわ。具体的には私への説教を諦めるとか。


「ジーン様には、知合いの医療魔術師と私の娘を紹介しときますのでご安心ください」


 医療魔術師はいいとして自分の娘さん紹介してどうする気なのかしらね? 単なる親馬鹿? 出世したジフ様と縁を結ぶ? なんにしろこのままでは本当に死霊軍団の再編なんていう厄介ごとを押し付けられちゃう!!

 ……そんな進退極まった時、奇跡が起きたの。救世主が軍靴の生み出す砂埃とともに現れたのよ。


「ちっ! 一番乗りと思ったら先を越されたか!?」


 その姿は、私達と同じ髑髏の顔に魔術師御用達の節くれだった杖を持った典型的な死霊魔術師だったわ。


「勇者が死霊王を殺した隙に”絶望の岬”から財宝をいただこうと飛んできたのに先客がいるなんてな」


 彼は、武装した骸骨兵(スケルトン)死体兵(ゾンビ)を何百と背後に引き連れ私達を品定めするように見ながら続けたの。


「よ~し。君達持ってる魔術具と金貨を全部出しな。そうすれば楽に滅ぼしてやらんでもないぞ?」


 圧倒的な暴力を振るえる嗜虐の歓喜を隠しもせずにね。


 本当に感謝したわ。


 ありがとう。人身御供(きゅうせいしゅ)様ってね~ん。

逃げる時、最大の敵は真面目な味方かもしれません。


逆に馬鹿な敵は、最高の囮かも。

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