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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十一章 流浪編
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道化師の教え

急にトップがいなくなった組織はどうなるでしょう?

「た、大変ですアーネスト様」


 私――癒しの道化師(ヒーリング・クラウン)アーネスト・エンド――が嫌な予感をビンビンに感じてると、ここがどこか確認していたデニムちゃんが部屋に駆け込んできたわ。

 骨を鳴らしながら駆け寄るデニムちゃんを見て頭蓋骨に浮かんだのは、『もしかしてここって危険な場所かも』って想像。


「デニムちゃん、ここはどこなの? そんなに拙い場所なの?」


 拙い場所……例えば魔王の直轄地や聖都周辺そしてザペン王国とかへ転移したんじゃないかってね~ん。

 直轄地への無断進入は下手したら処刑だし、聖都は聖一教の総本山、ザペン王国については…………知りたいなら教えてあげるけど……夜眠れなくなるわよ?


「あ、い、いえ。ここは”暗黒門”です」


 幸いデニムちゃんの回答は”最悪”ではなかったわ……いい場所でもなかったけどね~ん。

 ”暗黒門”てのは”絶望の岬”の近くにある死霊軍団の拠点なのよ。あの時は勇者達から少しでも遠くに離れたかったから、かなり”悪い”場所になるわね。


「あんまりいい場所じゃないわね~ん……南に昔始末した死霊魔術師(ネクロマンサー)の隠れ家があるから一旦そこに……」


「違います! そうではないんです!」 


 デニムちゃんが慌てている原因を、”絶望の岬”からあまり離れてないことだと思った私は少しでも安全な場所を提案しようとして……だけど遮られたの、そのデニムちゃんに。


「これをご覧ください」


 手渡されたのは、暗闇の中で青い光を放つ透明な球体――水晶玉だったわ~ん。


「遠話用の水晶?」


 疑問に思いながら覗き込むと……虚空に蒼光で文字が刻まれていったの。


『死霊軍団の全死霊魔術師(ネクロマンサー)へ。死霊王は伝説の英雄”勇者”によって滅ぼされた。死の契約は終わった。そして加護も。自由と裁きの時が訪れた……逝き残りたければ力を集めよ』


 大体こんな感じだったかしら? 死霊王様が滅ぼされたことそして欲望を煽るような文言。勿論、送り主は不明……まぁ、人間達が流したんでしょうね~ん。あの時点で死霊王様が倒されたことを知っているのは、死霊王様を倒した勇者達か”絶望の岬”から脱出した私達だけだもの。

 恐らく事前に準備してたと思うの。聖都での遠話妨害から勇者による”絶望の岬”への奇襲……全部が全部相手の思惑通り進んだわけよ~ん。


「アーネスト様、これは人間達の策です。早く対応しなければ仲間達に混乱が」


「ん~~~ん」


 私と同じ結論に達したらしいデニムちゃんの声に私は天を仰いだわ~ん。死霊軍団の死霊魔術師(ネクロマンサー)がこれを読んだらどう行動するか想像してみたの。そしてこれから私達がどうするべきかもね。


 答えは直ぐに出たわ。


 まず死霊魔術師(ネクロマンサー)達は、間違いなく力――魔術の材料つまりは死体――を求めて腐肉と澱血の雨を降らすってね。

 元々不老不死や秘術の知識、貴重な魔術具を目当てに死霊王様の配下になったような俗物がほとんどなんだもの。中には祖国を裏切って死霊魔術師(ネクロマンサー)になったスチナの貴族なんかもいたしね。随分粛清したけど百人単位でそんな外道――そもそも外道じゃない死霊魔術師(ネクロマンサー)なんていないけど――が死の粛清という恐怖から開放されたんだから。


「人間達も私達のことをよく調べてるみたいね~ん」


 思わず感嘆の言葉が漏れたわ。人間達にしたら死霊王(あたま)を潰したら軍団(からだ)は自滅してくれるんだもの。よく考えた一手だわ……少々危うい点もあるけどね。


「感心してる場合ですか! 混乱が広がる前に何か…………そうです。アーネスト様の名で『惑わされるな』と遠話を」


 それにまたデニムちゃんが声を上げたんだけど……それにしてもデニムちゃんて本当に死霊魔術師(ネクロマンサー)らしくない死霊魔術師(ネクロマンサー)よね~ん。死霊魔術師(ネクロマンサー)とは思えないほど真面目……欲望に忠実で他者をことを考えないのが当然、迷える魂を操り怨嗟の声を楽しんで半人前、師匠殺して一人前なこの業界では本当に珍しい人材だわ。


「まぁまぁ、落ち着いてデニムちゃ~ん」


 そう言いながらも私は、デニムちゃんにこれからどうするか伝えるのを少しだけ躊躇したの。

 もう結論は出ているんだけど、デニムちゃんが反対するだろうから説得方法も考えてたのよ。


「軍団の指揮とか面倒だし全部ほったらかして死体獣(あのこ)達と安全な場所へ行かない?」


「アーネスト様!! ぐ、ぐ、軍団の幹部としてちゃんとした行動をぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」


 ……結局、悩んでもいい説明が思いつかなくて本音を話したら怒られちゃったわ。

 

「そうは言うけどね~ん? デニムちゃん、よく考えて」


 納得するとは思えないけど一応デニムちゃんに私の考えを伝えたの。


「ジフ様は、出世がパーになってあの調子。ここはいつ勇者達が来るか分からないわ。一刻も早く安全な場所に行くべきよ。それに私が言うのもなんだけど……死霊軍団の幹部ってあんまり信用無いから多分誰も言うこと聞かないわよ」


 これは本当のことよ。なにせ魔王から派手なことするなと言われてたとはいえ三年間も聖都で死に損ない(はいか)を無為に使い捨てたんだもの。

 私達幹部も忠誠とか求めてなかったし……むしろ下克上狙っている死霊魔術師(ネクロマンサー)の方が多かったぐらいよ~ん。


「しかし! このままでは人間達の策で仲間達が……」


「そもそも死霊王様が滅ぼされた時点で幹部とか、席次とかも関係なくなってるしね~ん。こんな怪文が流れなくても自分が次の死霊王になろうとする連中や、死霊王様の遺産を狙う奴が喧嘩を始めてたはずよ……その争いが自分たちの首を折ることになっても躊躇しないのが死霊魔術師達(わたしたち)なんだから」


 必死に訴えるデニムちゃんにとても優しく労わるように教えてあげたわ。


 ……死を弄ぶ人間(ネクロマンサー)の真実をね~ん。

大抵混乱します。


人間を大事にできていれば治まるんですけど……人材育成や計画的世代交代など先を見据えて行動しましょう。


一年後も見ない組織が多い今日この頃。

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