道化師の勘
勘……試験の時に頼るあれです。
暗い暗い闇の中、亡者が蠢く冥府の舞台……
「そうね~ん……どこから話そうかしら」
そんな異常な空間の中、更に異常な存在――鮮やかな道化服を着たお洒落な骸骨――アーネスト・エンドは言った。
「オオナタちゃんと別れたあの時から……”絶望の岬”から脱出した時から話すべきね~ん……オオナタちゃんもその方がいいでしょ~ん?」
コクリ……
蒼い瘴気を纏い頷き応じるは、この世在らざる異形の髑髏。百の魔獣と千の死を憎悪で捏ね上げた怪物――南の魔王、邪神、と怖れられる存在。
死を遊ぶ道化と死を蒔く髑髏……密かに語るは何ゆえか?
死者の楽園創造か? 違う!
魔王の謀殺? 外れ!
「モフフッフ!! モッ~~~フ?!」
「ミュゥア~~~ミュ~~~」
それは傍らで死体猫に頬ずりする死霊魔術師ジフ・ジーンの病――仮名モフモフ依存症――の原因を知るためであった。
「オオナタちゃんがあの勇者達を足止めしてくれたおかげで私達は”絶望の岬”から脱出することはできたの……」
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転移した先は、陰の精気に満ちた暗い部屋……典型的な死霊魔術師の研究室ね。
「どうやら成功したみたいね~ん」
私は、訪れたことのない、しかし見慣れた転移陣の中央で蒼い光が散っていくのを眺めながら、無事に転移できたことを邪神に感謝したわ。なんでかって? 乱れた地脈に、ひびの入った転移陣……転移に失敗する可能性が結構あったからよ。そうね~ん大雑把に七割くらいかしら~ん。
「ここはどこかしらね~ん」
安堵しながら最初にしたことは、同行者達の安否確認。当然、可愛い可愛いあの子達が最優先よ。
「チュウ~ン」「ニュ~ン」「スキュルル……」「バウバウ」
あの子達――死体獣ちゃん達は、転移前オオナタちゃんを援護するために呪歌を奏でていたその姿勢のままで鳴いて……泣いていたわ。
……慕われてたのね、と思ったわ。直後にパンパンと前脚を合わせて虚空を拝んでたことは見なかったことにしたけどね~ん。
次はジフ様。
「出、世…………わ、私の出世が……栄光が…………一旗上げるのは……」
死霊王様が勇者に倒された後と同じ、延々とうわ言を言い続けてたわ。
今と比べるとまだマシだったんだけど……この時は、『精神系の医療魔術師を探さないといけないかしら~ん』とか考えてたの。
ついでにダブロスの元勇者――アライちゃん、エタリキちゃん、イーデスちゃん、ウドーちゃん。
「……」「……」「……」「……」
……ジフ様の――棺の――下敷きになったまま死んだふりを続けてたからとりあえず放置。どうでもよかったしね~ん。
そしてデニムちゃん。
「アーネスト様、地脈が乱れていましたから不安でしたが……なんとかなりましたな」
危険な転移を実行した本人なのに、言葉とは裏腹に落ち着いた様子で部屋の出口に向かいながら話しかけてきたわ。
「デニムちゃ~ん、ここはどこかしら~ん? 私には見覚えが無いんだけど~」
「それが……転移することを優先しましたので正確な場所までは……ただ地脈が繋がりやすい場所にと」
長身の魔術師は、私の問いに答えつつ滑らかに出口の周辺を眺め――たぶん罠の有無の確認してたんでしょうね――続けたわ。
「アーネスト様、私は外に出て安全を確認してきます。もしかしたら人間の勢力圏まで転移してしまった可能性もありますので」
「そう……じゃあ、お願いね~ん」
本拠地が勇者に、人間達に潰された直後なのに冷静且つ的確な行動……デニムちゃんは、本当に頼りになったわよん。
私もデニムちゃんが部屋から出た直後にはやるべきことをやり始めたわ。
「ハッ!」
床に縦横無尽の亀裂を入れて細切れにしたの。
目的は転移陣の破壊。可能性は低いけど、勇者達が追撃してくるかも知れなかったからね~ん。万が一、億が一にも可愛い子達が脅かされるのは避けたかったの。
オオナタちゃんを助けに行くか迷ったのよ~ん……一呼吸ぐらい。気にしないって? ありがと~ん。
他には、死んだふりしていた四人を少し教育したわ。
『あの説教髑髏がいなけりゃ! てめぇなんて!!』『棺骸骨も骨抜き状態ですからね。今が好機』『あんたを倒せば!!』『止めといたほうがいい気がするのだが……』
デニムちゃんがいなくなった途端、立ち上がって私に反抗してきてね~ん。それにしても不死身って便利ね。手加減なしでばらしても復活するから。あら~ん? 掃除をしてた四人が突然、痙攣しながら泡を……
ま、そんな訳で安全を確保しつつ『次はどうしようかしら~ん』て、考えてると丁度、デニムちゃんが帰ってきたの。
「た、大変です!! アーネスト様!」
骨相変えてね~ん。
嫌な予感しかしなかったわ~ん。そして私の勘って当たるのよ。
……悪いことに限ってね。
結局、経験から来る予測、推測です。
若いうちから頼りすぎるのはご注意ください。
ちなみアーネストは、百歳超えてますから確度高いです。