道化師は語る
ジフ様達の話をさらっと書こうと思ったのですが……
「どうぞだ! この野郎!」
乱暴な言葉とともに私の前――正しくは足元だが――に琥珀色の液体を満たした白金のティーカップが置かれた。
【どうも】
「チッ!」
紅茶が飛び散っているが丁寧に礼を述べる。しかし金ピカ鎧のお茶係りさん――アライ様は、私を一瞥するとドカドカ去ってしまう。
どうやら先程瞬殺したことを根に持たれているようだ。
仕方が無いではないか! ジフ様との再会を邪魔したのだから。ついでにジフ様のお弟子様だったことも忘れていたし。
……後で謝っておこう。ジフ様に告げ口されたら困る。
「気にしなくていいわよ~ん。アライちゃんは、誰にでもあんな態度だからね~ん」
なぜそんな人をお茶係に?
私の考えを読んだように正面に座る人物が口を開いた。
「他にできること無いのよ~ん」
なるほど……元勇者らしく何をやっても一流になれない器用貧乏なのか。
少し失礼なことを考えつつ改めて言葉の主、桃色の道化服を着た骸骨――ジフ様の恩骨にして死霊軍団第十席アーネスト・エンド様に視線を戻した。
ここはジフ様と再会したあの舞台。
周囲では、死体獣踊子隊が毛繕いをしたり、踊りの練習をしたり魅惑的な光景が広がっている。
アーネスト様は、私――ジフ様の一番の部下である大鉈が戻ってきたことを知るとざわめく観客達に公演の終了を告げ瞬く間に帰らせてしまった。
一部抗議する人間や魔族はいたが……アーネスト様にお手玉にされて大人しくなった。
「ちょっとあんた! 拭くだけだと広がるじゃない! 先に布に吸わせなさい!!」
「承知した。こうか?」
「余計に広がってますよ。早く終わらせましょう。今日の儲けを計算したいですから」
ジフ様のお弟子様三人がその後始末をしている。
派手に飛び散ったから大変だろう……そこら中に赤黒いシミができている。
「ほんと~に無事でよかったわ~ん。生きてまた会えるなんて思っていなかったから」
アーネスト・エンド様は、惨劇の跡が残る舞台で優雅にティーカップを傾けながら嬉しそうに話される。
【そんな大げさな……】
「いいえ~~~ん。ジフ様を逃がすためにあの勇者達に単身挑んだんだもの。てっきり塵も残さず消滅しているだろうと……”絶望の岬”も沢山の死に損ないを巻き込んで崩壊してしまったしね~ん」
あ、潰れたんだ”絶望の岬”……まぁ、大穴や亀裂がそこら中にできてたしな。ジフ様が簡単に壁ぶち抜いていたし元々脆かったんだろう。
「それにしても……その姿はどうしたの~ん? 噂に聞く南の魔王にそっくり」
ええ。いろいろありまして……いやいやそれより!
【ジフ様はどうされたんですか!】
そう。私のことは後でいい。どうせ少々国を滅ぼしたり、要塞を潰したり、仲間を増やしたぐらいだ。
「モッフ! モッフ!」
重要なのはジフ様。
ジフ様は、未だに死体獣達と戯れておられるのだが……
「モ~フ?」
明らかに挙動がおかしい。今も手は死体猫をなでなでしているのに視線は虚空を彷徨っている。
じっくり味わうように撫でるべきなのに……心ここに有らずだ。
「そうね~ん……どこから話そうかしら」
顎骨に手を添え考えながら道化師は語りだす。
ジフ様達がたどったもう一つの物語を……
長くなりそうなので新章にすることにしました。
PCの調子が悪いですが何とか投稿。