再会
大抵は前振りがつきます。
『感動』とか、『突然』とか
「……アァァァ」
円舞台の中央、何かを求めるように手を伸ばしたジフ様は仰られた。
「モォフゥ…………モフゥゥゥッーー……」
……と。
そして私が『モフモフ?』と疑問を持つより早く……
「「「「「「「「「「「「「モ~~~フ、モ~~~フ」」」」」」」」」」」」」
客席にいる全てのモノが――人間や鬼、竜までが、ゆっくりと同じ言葉を紡ぐ。
それもまるで敬虔な信者が聖句を唱えるかのごとく。
…………………………何これ?
たっぷり十数えるほど時がたった後、やっとこさそれだけのことを考えた。
「「「「「「「「「「「「「モ~~~フ、モ~~~フ」」」」」」」」」」」」」
再び観客の……いや、信徒の祝詞が唱和する。
「モ~~~フ、モ~~~フ」
抱えている兎魔人さんも――他の声に比べ少し小さいが――同じように唱えている。ちなみに彼女の尻尾もモフモフだ。
「「「「「「「「「「「「「モ~~~フ、モ~~~フ」」」」」」」」」」」」」
場を震わせながら何度も、何度も唱和が繰り返される。
ふむ…………これはもしや!!
黴の生えた空っぽの頭蓋が冴え渡る。
ジフ様は!! ジフ様は!! 私と別れた後、このタイラントの地でモフモフ教の教祖となり新しい信者の獲得に邁進されていたのか!! 流石はジフ様だ!!
「ジャーシャシャ?」【どうしてそうなる?】
珍しいことにコメディが状況を理解できないようだ。
折角だしここは手取り足取り教えてあげよう。
【コメディ……ジフ様を中心に人も魔族も全てのモノが『モフモフ』唱えている】
ビシッ! と、音が出そうな勢いで観客を指差す。
【即ちジフ様をモフモフ崇める教えが広がっている】
バッ!! と、両腕を広げる。
【よってジフ様がモフモフ教を開いて信者を集めているんだ!!】
キュゥ!! 最後に両手を交差させて決める。
【【【【【【【【…………】】】】】】】】
私の完全な推理と解説にコメディどころかゼミノール他一同、声も無い。
【駄目だこいつ……早くなんとかしないと……】【求魔広告どこかに無いか?】【……神は死んだ】
少し何か聞こえたが気にしない。
さて……コメディへの説明と状況の理解がすんだところでジフ様と感動の再会をやり直そう。
【ジ~~~フ~~~さ~~~ま~~~~!!】
ジフ様の名を呼びながらお花畑をスキップする背景と共に突撃する。
「お客野郎! 待ちなぁぁぁ!!」
「あたし達ジフサマ四天王の目が黒いうちは」
「御触り禁止。ここは通さん」
「金貨を払えば別ですがね。魔王金貨二千枚でどうです?」
しかしそんな私の前に金ぴか鎧の売り子、お肌の曲がり角な御嬢さん、変態戦士、算盤持ちの神官が立ちふさがる。
む!?
溢れんばかりの精気。これまでの障害――魔人ヴァルキノス、魔王軍の皆様、魔王……ではなく黒い何か――とは異なる気配に私は足を止め……
~~~~~~~~~
「俺は小物です。俺は小物です。ゴミです。カスです……」
「ギャーーーカビーーー髪の毛にカビガァァァーーー!!」
「アベシッ!!」
「金貨が!! 金貨が!! 雨のように!! あなたは神ですか!!」
あっさり撃破し舞台へと上る。
どれぐらいあっさりかというと朝食にサラダだけぐらいあっさりだ。
あまりにもあっさりしすぎて、どうやって倒したかもう忘れてしまった。
しっかし……あの四人どこかで見た覚えがあるのだが……もう少し特徴があれば思い出しやすいのに。
「ほう? 四天王を倒すとは……」「ジェルリジェルリ」「今なら我らもモフモフを……」「まだ駄目よ。死神道化師がいる」
観客が一瞬のとはいえ舞台の至近で行なわれた戦闘に、モフモフ唱和を止めてざわめき始めた。
また妨害が入ると面倒だな……
私はすばやく舞台に上がり、巨大な体をできるだけ縮めジフ様の前に跪く。
【ジフ様、大鉈です。ただいま戻りました】
ゴズリッと、舞台にめり込むほど頭蓋を下げ帰還を報告する。
「モッフ……モッフ……」
そしてジフ様の口から私の無事を喜ぶ声が…………無い。
「フモ……フモ……」
【えっと? ジフ様?】
「モ、フ、モ、フ」
【ジフ様~~~?】
「モーーーフ、モーーーフ」
『モフモフ』言いながら明後日の方向に手を伸ばすジフ様。
はて? ジフ様?
ジフ様らしからぬ態度に戸惑う。
『しゅーーーせっぇーーー!!』と叫びながら掴みかかってこないなんて!! 一体、ジフ様はどうされたのだ!?
『拳』と『血祭り』にしようか悩みました。
暴走しすぎると怖いのでソフトな再会です。