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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十章 魔王編
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癒せしもの

何で癒すか? それは皆さんご存知のものです。

 蝸牛の殻に似た金色の笛を命無き栗鼠達が吹く。


 聞くものの魂を震わせる調(しらべ)が満ちる中、円舞台を囲うように整列する死体獣(ゾンビビースト)の群。

 鼠、兎、猫、犬、猪、羊……フワフワな見かけに反して整然と並び()の降臨を待つ姿は敬虔な信徒のようである。


 そしてあの方が神々しく降り立つ。


 ゴガガガンッ!!


 ちょっと派手な音を響かせ。


 ……お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! そのまま埋葬できそうなあのお姿!! ま、ち、が、い、な、い!!


 紐で吊るされ降りてきたあの御方――棺込み――を見つめ私は声も無く震えた。


「ジャシャシャシャ-」【バカスアナ元々声出ない】


 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! お別れしてから幾星霜……何度眠れぬ夜を過ごしたか!!


 忠義を捧げる主との再会に胸の鼓動が加速する。


「シャシャー、シャシャシャー」【眠らないし、心の臓動いてない】


 ひへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! きっとこの宴も私との再会を祝うためのものに違いない!! 感動した!!


 私は滂沱の涙――不思議なことに床が溶ける黒い涙だ――を流しながら突撃(ほうよう)準備を開始した。


「シャシャジャ。シ……シャ」【それ涙じゃない。後……止めろ】


 ………………ん?


 やっとコメディの三連続ツッコミに気づいた私は……振り向き一言。


【却下】


 ジーーーッと、睨まれても私は拒否する。


 ……ここまできて! ここまできて!! 何を躊躇する必要があろうか!? いや! 無い!! 断じて無い!!

 人間魔族問わず何百、何千という観衆! これまた久々に合流できた死体獣(ゾンビビースト)達!! 雰囲気を盛り上げる音楽!!! そして我らが主、ジフ様(・・・)!!!!


 ここで突撃せず何が(しもべ)か!! 何が大鉈(わたし)か!! 大人しく王子様が来てくれるのを待つなんていうのは、一昔前のお姫様だけで十分だ!!


 コメディに向けていた頭蓋骨を標的――ジフ様へ戻し両腕に力を込める。


 一撃だ! 一撃で全てをこの手に!! もう何人たりとも私を止めることはできない! いざ!!


 五色の羽根を広げ飛び……


「あぁ~~~あの方は!!」


 ヘアット!?


 超至近距離から発せられた声に驚き落ちた。


【ダッ、だっ、誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!】


 咄嗟に複数の手足を伸ばして転倒を間逃れた私は……声の発生源、自らの胸元を睨みつける。

 ジフ様との感動的再会劇に水を差され、常に温厚且つ冷静な私も少々苛立った。

 

 どの『呪われた遺物』だぁっ! 防虫剤漬けにして押入れに叩き込むぞ!


「きゅあぁぁぁ~~~~~~~~~ジフ様ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 

 いたのは胸元から生えている熊腕に抱えられた……白兎耳の可憐な御嬢さんだった。


 ? 誰?


 今度の『誰』は、先程と違う意味での『誰』だ。


【誰も何も……君が街の外で捕獲した魔族の御嬢さんではないかね……オオナタ】


 そう応じるのは朽ちた巨人ゼミノール。


 街の外で捕獲? ……兎耳、可愛いな~……ではなくて! 思い出した!


 おお! 魔王軍の皆さんに襲われたとき可愛いからとドサクサ紛れにお持ち帰りした魔族の御嬢さんか。気絶したままだったから完全に忘れていた。


「もっと近くへ~~~」


 件の兎耳御嬢さんは、赤い瞳を見開いてジフ様へ手を伸ばしている。

 

【ジフ様のこと知ってるの?】


「当然知ってますよぉ~~~! 『ネクロマンサー・カリスマ』『モフモフ・マスター』『ザ・マネーキング』『ワールドワイド・ピースメイカー』『女魔族が選ぶ旦那にしたい死体№1』タイラントに現れた逝きる伝説!! ジフ・ジーン様ですよ!!」


 は、い? ネ、ネクラカリスマ? マスターゴキブリ? 死体にしたい旦那? なにそれ?


「御存じないんですか!!? 信じられません!?」


 あ、はい。すみません。


 ジト目で見られたので身を縮込ませ謝る。


「あの方は、死霊王様が暗殺され悲しみと怒りに満ちていたこの街に、いえ、世界に”モフモフ”を伝え、争いの虚しさを説かれた……」


 あの~~~興味深い話ですが私は早くジフ様に……


「『モフモフよ癒せ』そう唱えながら戦乱に疲れた民に笑みを与え、それでいて決して驕らず、穏やかに……」


 しかし人差し指を振りながら語る兎耳教官に私の主張は届かない。


 ……ジフ様、申し訳ありません。なんか厄介な御嬢さんを捕まえてしまいました。もう少しだけお待ちください。


 ジフ様のことを褒め称える者を無下にもできず心の中でジフ様に御詫びする。


「ジャーシャジャー?」【ジフが驕らない?】


 コメディはコメディで別なことに首を傾げている。


 コメディ……疑問を持つのはそこじゃない。


「特に兎ちゃん達が可愛くて! でも栗鼠さん達も捨てがたい……あ!?」


 だが長々と続くと思われた話は突然途切れた。


 なんだ?


 その理由は直ぐに知れた。


「……あ……あ……あぁ……」


 円状舞台のど真ん中……ジフ様が口を開いたのだ。

モフモフ癒されますね~


……本当にモフモフしたものを抱きしめると精神が安定するそうですよ。


抱き枕とかでもOKだそうです。


お試しあれ。

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