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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十章 魔王編
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ジフサマ大サーカス

曲芸・大道芸と動物芸……これをまとめて行なったのが近代サーカスの元らしいです。

 魔王軍最大拠点の一つタイラント。


 その中心、山と見まがう天幕の奥の奥――魑魅魍魎羅刹悪鬼が集う魔の深遠にて秘なる儀式が……否、宴が行なわれていた。


 偽りの陽光に照らされ宴を囲む者々の影が蠢く。


「これは良い……人間とは面白いものよ」


 黒き竜王は身をうねらせ。


「モフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフッ!!」


 獣に魂を売った人間が哄笑し。


「かーーーっ!! うめえ!!」「貴方、ほどほどにね」「ははさま! あれ欲しい!」


 三面の鬼は、酒椀片手に一人で騒ぎ。


骨素(ホネノモト)いかがっすか~~~欲しい野郎は手を上げやがれ~~~」


 全身金ぴか鎧の死に損ない(アンデッド)が場内販売で日銭を稼ぐ。


 ニョロニョロ! ニョロロロロ!!


 極海の海月(くらげ)が触腕を震わせ。


【………………みんな】


 骸骨(わたし)は暗き眼窩で一心に見つめる。


 理解できる存在、理解し難い存在、理解し得ない存在……本来なら交わらないモノ達が、されど今は一つになる……


 フリフリ!! モフモフ!! ホムホム!!


「チュ~~~~~~~ッ!!」「ミュ~~~~~~~ア!!」「ワァ~~~~~~~ン!!」


 死体獣踊子隊ゾンビビーストダンサーズは、愛らしく踊った。


「「「「「「【うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!】」」」」」」


 観客の目は釘付け! 効果は抜群だ!


 ……可愛いものを観るために。


 あぁぁぁ!! やはりイイ!! フワフワモフモフがフリフリホムホム踊るのはイイものだ!!


 ジフサマ大サーカス……その宴の場に辿り着いた私は――些細な疑問を横に置いて――死体獣(どうほう)の舞台を優雅に鑑賞していた。


 人間がいようが魔王を倒そうが関係ない。『考えるな! 感じるんだ!』とどこかの格闘家も言っている。


 山羊、犬、猫、鼠の四段綱渡りにムササビとモモンガの空中ブランコ、そして狐狸の傘曲芸……次々と繰り出される新芸に私は感動の涙を流した。


 見事だ。以前に比べ連携も手足の伸びも何倍も良くなっている。連続回転も四回点半……新たな地平に立ったんだ。立派になって……お父さんはうれしいぞ!!


「シシャジャシャー」【父じゃないじゃろ】


 むぅ……コメディは細かいところに拘る。では、お母さんで!


「……」【……】


 どうやらコメディも納得してくれたようだ。それにしてもホンに立派になったな。

 まぁ、空中ブランコで跳躍を失敗したときは肝が冷えたが――ムササビだったからそのまま飛んだ――他の観客も悲鳴を上げた後、安堵していた。


「シャー……? ジャ? シャ」【アレはわざと……? ジフ? 違う】


 大男の火の輪潜りとか神官の手品――人間の芸も挟み百獣の宴は続く。


 それにしても……神官が手品……いいのか聖一教? それにあの大男と神官どっかで見覚えが……?


 ちなみに人間の芸が始まると――つまり死体獣(ゾンビビースト)の芸が休憩に入ると――観客も談笑をしたり買い物に席を立ったりと少し騒がしくなる。


骨素(ホネノモト)~~~! ケルゲレンソーダ~~~! モフモフ人形~~~! 欲しい野郎は金貨出しな~~~!」


 人間の芸を適当に見ていると場内販売をしている金ぴか鎧の売り子がやってきた。


 これまたどこかで見覚えがある売り子だ……どこかで……アンスターのワイン売りか? 違う……ロッキー山脈の槍兵? 違う……


骨素(ホネノモト)とモフモフ人形】


 ……考えるのは後にしてまずは腹ごしらえと記念品だ。


「ありがとよっ! さっさと金出しな!」


 この売り子、客商売には向かない気がする……目つき悪いし、笑顔も今一つだ。


 私は甲羅の中から――宝剣やら金貨やら高価なものをしまっているのだ――適当に金貨をつかみ出すとザラザラと金ぴかの目の間に盛った(・・・)


「シャー」【無駄遣い】


 そんなことは無いぞコメディ。骨素(ホネノモト)は食感がいいし、モフモフ人形(栗鼠と鼠)はモフモフしている。ここで買わずにいつ買うんだ。


 ジーーーッ……


 私はつぶらじゃない瞳でコメディを見つめる。


「ジャー」【却下】


 ジーーーッ……


「ジャー」【却下】


 ジーーーッ……


「ジャ、ジャー」【きゃ、却下】


 ジーーーッ……


 見詰め合うことしばし――結局、私達は骨素(ホネノモト)二個と人形二個を購入した。




~~~~~~~~~


 カミカミ……ガムガム……カミカミ……ガムガム……


「シャーシャーシャーシャー」


 現在コメディは二人分(・・・)骨素(ホネノモト)と人形相手に野生に戻ったかのごとく口を鳴らし、牙を立てている。


 私? ……私は何も噛んでいない……下顎が無いのだ。あの勇者に焼かれたのを忘れていた。


 いいんだ。幸せそうなコメディを見れただけでいいのだ。


 カミカミ……ガムガム……カミカミ……ガムガム……


「ジャージャージャージャー!!!!」


 ……早く死体獣(みんな)の出番にならないかな~?


 ジャーーーーーーン!


 私が床にスチナ十字を書きながら時間を潰していると長く響く金属音とともに光が消えた。


 ん? なんだもう終わりなのか?


 そう思いながら周囲を見渡す。

 闇の中でも精気を捉えることで周りの観客に変化が無いことが直ぐに確認できた。


 はて?


 ジャーーーーーーン!!


 再び高々と音が鳴る。


 同時に消えた光が灯る……ただし色を変えて。それまでの乳白色から少し赤みを帯びた輝きだった。


 ブァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーー…………


 そして突如噴出した煙が雲のように舞台を覆う中、何かが、何者かが天より降りてくる。


 漆黒の棺。


 金糸の旗。


 玉の指輪。


 王者の冠。


 それらを纏った骸骨が……


【おおお!】


「ジャ?」【誰?】


 私は歓喜し、コメディは首を傾げた。


 横一文字に傷跡のある髑髏……偉大なる私の主死霊魔術師(ネクロマンサー)の降臨に……

折角のモフモフ、曲芸から大道芸までダンサーズにしていただきました。


人間? あれはおまけです。正体はそのうち……



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