世界の中心で踊るもの達
世界の中心とは文化、国、街、人……それぞれ異なります。
ピクッ……ピクッ……ピクッ……
私が叩き落とした邪魔者――黒い謎の生物が足元で微かに動いてる。その様はまるで台所に現れる究極生命体の死に際を髣髴とさせる。
……なんかばっちそうだから避けて通ろう。
私が頭蓋骨の片隅でそんな事を考えていると。
「はぃっ?! ま、魔王様!!」
痙攣する黒いそれに私を案内してくれた魔人クイッタが慌て駆け寄る。
はて? マオウ? まおう? マ王? ……もしかして魔王なの? この黒い何か。
魔王――世界を滅ぼすために北の地から魔族を率いて現れた邪悪の化身。祖国スチナを滅ぼした魔王軍の親玉。アンスターへ逃れた時、兵士長のおやっさんが『俺達で魔王を倒し、スチナを再興するぞ!』と張り切ってたっけ……結局、貴族様の捨て駒にされたけど。私が死んだ後、おやっさんは無事に生き延びただろうか?
【いつものことだが……もう少し考えて行動すべきではないかね……オオナタ】
「シャーシャー」【言うだけ無駄】
背中と左肩から声が聞こえる。顔は向けない。声の調子だけでどんな表情をしているか分かるからだ。
そして魔王について重要なことがもう一つ。ジフ様は、死霊王の配下で死霊王は魔王の側近ということ。つまりジフ様の上司の上司なのだ。
タラリ……
汗の代わりに澱んだ精気が頬骨を伝う。
私は、空を仰いだ。星を眺めたくなったのだ。しかし天幕の中なので当然、布しか見えない。
ふむ?
次は左を見る。
「…………」
コメディのジト目がある。
へむ?
背後に首を回す。
【…………】
ゼミノールのしかめ面がある。
うむ! 聞かなかったことにしよう。そもそも魔王なんてジフ様に会えることに比べたら些事だ……いざとなれば『てへっ♪ ごめんなさい』と、謝ればいいだろう。
「はいっ!? お、お気を確かに! どうせ死ぬなら美味しそうな第二形態か第三形態で死んでください! お願いします! 魔王様の第二形態はとても美味しそうで! 前々から隙を突いて食べようと機会を窺っていたのにぃ!!」
こっそりと逃げる私に……主君の身を案じる叫びが刃となってザクザク突き刺さる。
こ、心が痛い! しかし、私は進む! ジフ様に会うために!! 魔王の屍を越えていけ!!!
「か、勝手に殺…………そ、れよりマファット……我を喰らう気だったのか……後、そこの邪神……無視、するナァ……」
魔王が……いや、謎の黒い物体その一が震える声を漏らす。
聞こえない知らない気づかない~~~♪
「はーーーい! 生きているうちにせめて一口!!」
「ぬわーーっっ!!」
主従の別れを最後まで聞くことなく私は風となってその場を後にした。
~~~~~~~~~
クイッタと別れた私は、天幕の中心を目指す。
分厚い布や太い柱がいくつも先を塞いでいるが、要塞や城に比べればなんてことはない。ある時は切り裂き、ある時も切り裂き――体が大きいからそうしないと通れないのだ――奥へ奥へと歩みを進める。
『進入禁止』『関係者以外お断り』『無闇にものを壊すな馬鹿』と書かれた看板、張り紙も強行突破する。
近い! 近いぞ! 私のカンが告げているジフ様は近いと!!
そして幾重にも重なる闇の帳を突き抜けとうとう私は辿り着いた。
それまでの暗く狭い牢獄から光降り注ぐ楽園へ……
「チュ~~~!!」「ニャ~~~!!」「スキュ~~~!!」
聞き覚えのある鳴き声が響く天上の地へ。
ダダダ~ン! ダン! ダン! ダン! ダダダ~ン!! ダン! ダン! ダン!
逝きる力を与える魔音の調が私を歓迎する。
そこはまるで一つの小世界だった。
頭上には太陽と見まがう光の玉、天幕の中とは思えない広々とした空間――巨人の肉体を操る私が楽々身を伸ばせる。
城の尖塔より太い首を持つ蛇竜、三面の巨鬼、船を乗せれそうなお化け海月……御伽噺の最後に出てきそうな本物の怪物達が並びつつもまだ余裕がある。
そしてそれら怪物悪鬼魔獣が取り囲み見上げ見下ろすその中心……正しくは小世界の根源が私の瞳を失った眼窩に映る。
偽りの太陽を浴び明るいその舞台の上・・・・・・
「チュ~♪」「ニュア~♪」「ワン~♪」「スュ~♪」「ヴォ~#」「メェ~♪」
鼠に猫、犬に栗鼠に、牛に山羊……モフモフの尻尾を振り、ホムホムな耳を揺らし、輝く毛並みを見せつけ歌い踊る獣の群れ。
「ジャシャー?」【増えてる?】
そう。見覚えのないのものもいるが間違いない!!
彼らは”骸骨洞窟”よりの盟友、ジフ様謹製の死に損ない……死体獣踊子隊!!
そして彼らは……
「きゃあああああああああっ!! 最高おぅ!!」「こっちむいてぇぇぇぇぇ!!」「この感情は、ぬぁぁぁんだ!!」「これが涙……私、泣いているの?」「グヘヘヘヘヘッヘ」「見事! 私の負けだ。ジフ・ジーン」
なんか凄く喝采を浴びていた。
つまり言ったもん勝ち。
「可愛いものが世界の中心」
猫に逃げられた……何故?