死に損ないの戦い
人間との戦いが始まります。
「そうだな・・・・・・『高速輸送船を傷つけないで乗員を皆殺にする』を勝利条件にするか。そして貴重品があればいただいく。重要人物なら生捕りだ」
それなんて無理遊戯ですか? 船を傷つけずに襲えって・・・・・・
「安心しろ。ここからが死に損ないの戦い方が始まる。徹底的に、本格的に教えてやる・・・・・・」
船長ガデム様が嬉しそうに笑う。その手元では水晶玉がクルクルと回っていた。
翌日、私達は海中にいた。また船長ガデム様に投げ込まれた訳ではない。いや? 海中にいるのは、船長ガデム様の命令だから違うのか?
私は、船長ガデム様が語った血も涙も無い悪辣な死に損ないの戦い方を思い返す。
『人間は死にやすい。息ができないと死ぬ。食事をしないと死ぬ。眠らないと死ぬ。刺されても死ぬ。毒でも死ぬ。他にもまだまだあるが簡単に死ぬ。死なないまでも、ワシ達と違い簡単に弱くなる。
さっきからパゾクに頼んで、高速輸送船を嵐で襲っている。小さい船だからな・・・・・・乗ってる人間は、半日で動けなくなるだろう』
聞いたときは、嵐の中で船を襲わせられるのかと恐怖した。まあもっと酷かったのだが・・・・・・
『半日ばかり、船を揺さぶってやった後、夕方ぐらいに嵐を鎮めてやるのさ。人間は、疲れると休憩が必要になる。嵐を乗り越えたと安心して食事を取って、酒を飲んで寝ちまう・・・・・・休憩したら不味いと思うか?』
不味いと思ったのだが・・・・・・
『休んでいるところを襲うのさ。一度危機を乗り越えると気が緩んでいてな、何もできなくなるんだ』
なるほどと感心した。その次の言葉が出るまで・・・・・・
『後は深夜に霧を発生させて、静かに海中から襲いかかってお仕舞いだ』
結果、私と蛇骨兵は、幽霊船から高速輸送船に向かって泳いでいる。霧のせいで月の光も届かない海の闇の中、うっすらと緑色の光が見えてきた。
高速輸送船に使われている木材の精気だ!
【碇、鎖】
コメディの意識が伝わってくる。
コメディいい子だぞ。
私は、船首にある碇の鎖に向けて泳ぎ、掴み取る。鎖が大きな音を出さないように注意して上がっていく。海面から上は、霧に包まれ精気の光だけが頼りだ。
【見張り注意】
本当にいい子だ。コメディサイコー!
船上に這い上がると蛇骨兵達が上がってくるのを待つ。しかし二人目が上がってくる前に、霧の中に赤く光る人影が近づいてくる。
見張りか!? ジフ様、成果が近づいてきました!?
私は、いそいそと大鉈を構え・・・・・・
【待つ】
なぜだコメディ? 成果が・・・・・・
【待つ】
赤い光が離れていく。
ああ、成果が逃げていく。
【全員、待つ】
全員? 幽霊船から海中に落とされたときに、船長ガデム様が言ったことがよみがえる。
『甲板に上がっても全員揃うまで、誰も殺すなよ! 霧の中なら、疲れた人間は目の前に竜がいても気づかないが! 断末魔の悲鳴は誰でも気づく!』
おお!? コメディ、あの言葉を覚えていたのか! ・・・・・・私は忘れていたぞ。
蛇骨兵が全員上がると行動を再開する。まずは甲板にいる見張りを確認する。全員で四人、水晶玉で確認しておいた人数と同じである。蛇骨兵二人が船内への扉の前に移動し、私と残りの三人が見張りに近づいていく十分に近づいたところで・・・・・・
【今っ】
全員に精気を放ちつつ、赤く光る人影の頭部に大鉈を振り下ろす。
「ぐふ!」「がざ!」「ずだ!」「ないちぃ!」
四つの呻き声が上がり、人が倒れる音が続く。扉の方向に眼窩を向けるが、誰かが出てくる気配はない。
私達は、静かに扉を開けると眠れる人間に死を届けるため闇に身を投じた。
卑怯? なにそれ? 美味しいの?