援軍、そして援軍
劣勢の側にとっては嬉しいものです。
……普通は。
「ヘラクレスーーーーーー!! バギュッ??」
【やってくるのが二十年遅いっ!】
飛び掛ってきた熊ほどはある巨大カブトムシを超大鉈で張り倒す。
くっ……大きなカブトムシ。子供のころ現れたなら無邪気に喜べたのに!!
「カッカッカッ……そいつは囮! 本命はこの怪蟲軍団八百将が一体、モスキータス男爵様ッカー!?」
「ニャー!」
視界の端で、喋りながら不意打ちするという馬蚊……もとい馬鹿な蚊――こちらは鴉ぐらいの大きさ――が雨豹の腕に叩かれてる。
本来なら『ありがとう』の一言を猫ちゃん言いたいところだがそんな暇すらない。
「リーン! リーン! 数だ! 数で押せ!!」
「我ら怪蟲軍団、百がやられれば千。千がやられれば万。数だけは負けんぞ。ガチャガチャ」
「アリアリ。アリアリアリアリ。アリアリ!!」
「兵隊蟻突撃せよ! 突撃せよ!!」
後から後から虫――巨大蟻に殺人蟷螂他多数が襲い掛かってくるのだ。
【包囲殲滅……どうやら不意打ちの混乱から立ち直ったようだね……コメディ】
「ジャシャジャシャーシャーシャ」【バラバラに戦う奴らが馬鹿なだけ】
ゼミノールとコメディがのんびり戦況を考察している。
そう。巨人と蛇の言葉通り現在、私は敵に囲まれて進退窮まっていた。
竜を撃墜し『消えろ』と、格好良く決めた辺りまで私が有利だったのだが……
『援軍到着!』
叫びとともに出現した蟲の大群。
その軍勢に押され始めたのだ。
無論、竜巻で吹き飛ばし、雷で打ち据え、百の刃と百の爪……全力を持って迎撃した。
しかし倒す数より突っ込んでくる数の方が多いのだ!
減らない。とにかく減らない。
それまで”一応味方だし”と手加減していたのだが――超大鉈も”斬る”ではなく”払う”ようにして使っていた。
蟲が現れてからは手加減どころではない。
全力でなぎ払っても、宿木の槍で槍衾を作っても、潰れた仲間を踏み越えて攻撃してくる敵を押し留めることが出来なかった。
【蚤が! 蚤が! 痒い! 痒いぞ!】【誰か蟲除けは持ってないかっ!?】【防虫剤なら使い切った】
全身の『呪われた遺物』達が小型の蟲にたかられ悲鳴を上げている。
むぅ! ……魂喰兵達が、アンスターで仲間にした同胞達がいればなんとかなるのに。
私は、アンスターからアイギスなんたら要塞まで共にいた仲間のことを思い出す。
まぁ、足が遅いから置いてけぼりにしたのは私なのだが。
「コッケー!」「ポッポー!」「クックドッウドゥ!」
後悔する私の頭をニワちゃんを筆頭に魂喰鳥が突いている。
……ちなみにツッコミではない。頭蓋骨に入り込んだ蟲を食べてくれているのだ。
敵の数から考えれば気休め程度だが、ニワちゃん達の行為は私の心を癒し刃を振るう腕に力をくれる。
まだだ! まだ勝負はこれからだ!
【甲羅の中の彼らを使うべきではないかね……コメディ】
「シャーシャー。ジャーシャシャシャー」【あれは奥の手。まだスアナだけでやれる】
奮起する私の傍らでは、ゼミノールの焦りをコメディが流している。
そうだ! 戦況不利なれど。ジフ様への思いはまだまだ満ち溢れているぞ!
【ジーフーーサーーーマーーーー!!】
「ギチギチ!?」「ノミノミ?」「ミズムシ?」
私は全身から黒い精気……あまりの強さゆえ爆発さえ伴う精気の噴射で周辺の蟲を侵し崩す。
小は蚤から大はカブトムシまで、無謀にも近づきすぎていた敵を一掃する。
「えぇぇい! 所詮、蟲か! まともな援軍はまだなのかっ! 鼠!」
その様を見ていた竜――全身真っ黒で鱗が逆立ち、額に宝石のような目を持つ派手なやつだ――が傍らの三つ首化け鼠に吼えている。
偉そうにしているが……あの竜って最初に竜巻に突っ込んで勝手に自爆してたような気がする。
「邪竜太子殿下、安心してくださいチュー。陛下に遠話済みチュー。もう直ぐ……ほら、きたチュー」
自爆竜に応じていた鼠が水晶球に大きな丸耳を寄せる。
竜巻や雷がなって五月蝿いのだろう。
「チューチュー……今、モフモフダンスガ始まったところだ……終わるまでお前達で相手をしておけ……失礼の無いように……」
「は?」
返事を口に出して喋る鼠に黒い竜が信じられないという顔を向けた。
「追伸……マファット将軍を先に送っておく……以上だチュー」
気まずそうな六本の視線が三つの瞳を見つめる。
「み、南の魔王が現れたんだぞ!! 陛下達は何を言っているんだ!! 大体、マファットの蟹娘はあそこで活造りになってるだろう!!」
「ユメダニィ……ゼンブユメダニィ……アシタハエンソクニィ……」
示されたあそこ――私の近くで胴と首、それとバラバラになった手足をピクピクさせている蟹娘ヴァルキノス・マファット嬢。
恐ろしい目に会ったのか、それともこれから会うのか知らないが、泡を吹いてうわ言を言っている。
これが戦場の悲劇というやつか……なぜこんな状態になってまで私達は争うのだろうか? 皆でジフ様を崇めれば世界は平和なのに。
「いえ。援軍は姉君のほうチュー……クイッタ殿が来るチュー」
「ナニ?」
世界平和について私が斬新且つ完璧な方法を思いついた瞬間、魔王軍に更なる来援が告げられた。
だが、その報は先の援軍の報とは異なるようだ。
はて? 攻撃が止んだ?
……遠くから私を狙う羽手裏剣に火球は勢いを失い、自らの命を引き換えに牙を立てようとしていた魔族の戦士が立ち止まる。
不可解な魔王軍の行動に私達も攻撃を控え警戒する。
「ク、イッタ……あ、の悪食魔人がく、くるだと」
突然訪れた静寂の中、邪竜太子と呼ばれた自爆竜が零した声……
それに含まれた感情は……
嫌悪と……
最強の捕食者――竜が持つべきではない感情。
恐怖だった。
助けられるの嫌いな人にとっては、ありがた迷惑。
さらに自分の身が危険になるような援軍もあります……
例:大砲による支援は、味方を巻き込むことがあるそうです。