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骸骨の夢  作者: 読歩人
第十章 魔王編
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不幸な誤解

関係の無い話ですが、ボーイミーツガールって最初の出会いは半分ぐらい誤解から始まるような


ええ、関係の無い話ですが……

 ここがタリア王国か……


 『これよりタリア王国』焼け野原に立てられた看板の文字を確認した私は、瞼を閉じる代わりに天を仰ぐことで喜びをかみ締める。


 数多の障害――主に死霊魔術師(ネクロマンサー)様――を退けつつスチナ王国を縦断すること丸二日。遂にジフ様のいるタリアの地へ辿り着いたのだ。


 タリア王国は、大陸北部中央に位置する三国同盟最小の国だ。その大きさはスチナの半分ほどらしい。しかし聖一教による庇護と広大な穀倉地帯を有するため最も豊かな国と言われている。

 ……そう兵士長のおやっさんが言っていた。


 特に食事、その中でもタリア産のワインは『生きているうちに一度は飲んでおけ』と何度も言われたな。丁度いいし、ジフ様と再会したら一緒に飲もう。


 風光明媚にして優雅絢爛と讃えられるタリアの街並みの中、ジフ様と二骨(ふたり)で酒盃を傾ける自分を想像する。


 素晴らしい!! 早くジフ様のいらっしゃる街へ! タイラントへ行こう!!

 もう時間もないことだし。


 私は西に傾いた太陽に一瞥をくれると暴風とともに移動を再開した。


『これよりタリア王国。死に損ない(アンデッド)は立ち入り禁止』


『魔人軍団の支配地域ゆえ許可無き骨は入るな』


『臭いんだよ! 腐乱死体!』


『墓場に還れ』


『焼却場』


 何百本、何千本と立っている黒地に黄文字の看板を飛び越えて。


 ……別に文字が読めないわけではない。これでも兵士として読み書きの訓練は受けた。ただ全てにおいてジフ様が優先されるだけだ。


死に損ない(われわれ)が入ることは禁忌に触れているようだが止めないのかね……コメディ】


「シャー」【疲れた】


 ゼミノールとコメディが何か話しているが勿論気にしない。


「コッケー」「カァー」「ポッポー」


 少し先を飛んでいるニワちゃん達なんかそもそも看板自体を気にしてないし。


【鷲さん、もっと早く】


【【【【【鶏に負けれるかぁぁぁーーー!!!!!】】】】】


 一の忠臣を自負する私もニワちゃん達に遅れないよう速度を上げた。背中の雷鷲(サンダーイーグル)五兄弟もやけに気合が入っている。


 よく分からないが好都合だ。さぁ、ジフ様の下へ!!




~~~~~~~~~


 華麗に越境を果たした私達は、だがしかし焼け野原を僅かに進んだところで立ち往生していた。

 厄介なものを見つけてしまったのだ。


「え~~~ん! え~~~ん!」


 両手で顔を覆って泣いている人間の子供。頭の左右で揺れるおさげと夕日に赤く染められたスカートから見て女の子だろう。

 街中なら直ぐに保護して詰め所に連れて行くのだが…………おっと!


 そこまで考えて私は頭蓋骨を振る。


 人間(てき)を保護してどうする私!


 どうも生前の習慣(くせ)で小さな子供を見るとつい連れて行ってしまいたくなる。

 ……変な意味じゃない。衛兵の真似事をしてたから迷子をほっとけないということだ。

 幼女を(かどわ)かすような趣味は私にはない……私はジフ様一筋なのだ。


【こんな焼け野原になぜ子供が一人で……どう思うかね……コメディ?】


「シャシャジャー。シャシャー」【近くに街か街道がある。もしくは……】


 朽ちた巨人ゼミノールが迷子に何か不審を抱いているようだ。


 何を悩む必要があろうか……泣いている小さな人間(・・)の子供がいる。

 そんな時することはただ一つ。



 迅速且つ確実に……



 私の振り上げた巨大な鉈が夕日を反射しギラリと光る。



 息の根を止めるのだぁぁぁァァァァァァァァッ!!



 『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『殺せ!』『止せ!』『殺せ!』頭蓋骨に響き渡る殺戮の合唱に応え鋼の凶器を叩きつける。


 ゴバッ!


 振り抜かれた風圧が一帯の土を吹き飛ばし黒い爆煙を生む。その刃の一撃は城砦を砕き、山を裂く。人間の、更に子供の体なぞ跡形も残らない。


「え~~~ん! え~~~ん!」


 …………はずなのだが。煙の中から泣き声がまだ聞こえる。


「え~~~んっと! ……やっぱ下種(ゲス)だにぃ。死に損ない(アンデッド)は」


 やけにわざとらしい泣き声を最後に煙の中から女の子現れる。


「こんな超可愛い美少女が泣いているのに……慰めるどころかこんな(もん)で斬りかかるなんてにぃ」


 私の振り下ろした超大鉈をその手で握り……いや、鋏み(・・)ながら。


「シャ?」【(さそり)?】


 コメディ、あれは蟹だと思う。


 コメディと私の意見は若干違うが、先ほどまで目を押さえていた人間(?)の手は、蟹や海老のようなごつごつした感じの鋏に変わっていた。


「蠍じゃにぃ。ワタシのこの腕は、斬鉄の化け蟹(カルキノス)だ。間違えんにぃ」


 そして隠されていたその容貌も露になる。


 自分で『超可愛い美少女』と称するだけのことはあり、卵のようにふっくらとした頬は若々しさをめいいっぱい象徴し、幼いながらも強い意思を感じさせる目鼻立ちは十分に美人と言える。


 ただ……


「ワタシの腕を蠍呼ばわりしたことも含めて領域侵入の咎、その命で払ってもらうとするかぁ」


 そう宣言しながらニヤリと笑う口元は、針のように尖った歯……牙が覗き。


「最後の公演まで時間がにぃんだ」


 夕日よりなお紅く光るその瞳は明らかに人あらざる者。


「さっさと地獄に還りなぁ」


 即ち魔族……てっ! もしかして魔王軍(なかま)攻撃しちゃったっ!?


「ジャーシャ」【気づくの遅い】


灼熱の泡(バブリーバーニング)!!」


 コメディのツッコミと少女が大口を開け噴水のように白っぽい何かを浴びせかけてきたのは同時だった。


【うぉぉぉぉぉぉ! 待った! 誤解!】


 私は味方だと説明する間もなく白っぽい何か……泡状になった唾に包まれてしまう。 


【わ、私は確かに紳士だが幼女の唾で喜ぶような訓練された紳士ではない! 決して喜んで……】


 色々な意味で誤解を解くため私は必死に弁解するが……


「……焼け死ね変態」


 少女の冷たい言葉が泡を熱い炎に変えた。


【だから誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁガギャァァァァァァァァァーーーーーー……】

大鉈は立派な紳士です。


誤解なきよう。

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