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骸骨の夢  作者: 読歩人
第九章 はぐれ骸骨放浪編
170/223

誤算

予定通りに進まない計画。


期待ほど効果が無い商品。


誰もが経験したことがあるでしょう。

 暇だ。


 私は、西から差す夕日を浴びながら要塞に向けて飛んでいく石を眺めていた。

 コメディの命令で王都から運ばれていた攻城兵器――数百台の投石機(カタパルト)がアイギス絶対要塞線を攻撃しているのだ。

 私が昼に放った雷や風と異なり、木の軋みと共に放たれる石弾の群は青い光の盾をすり抜け要塞に命中している。


 ただ少し問題がある。


 まず私が暇なこと。私の手……猿と猫の手では投石機(カタパルト)を扱えないのだ。


 次に要塞を落とせそうに無いこと。いや、攻城兵器が対魔術装甲陣とやらを突破するのは確かなのだ。

 ただ……


『こちら着弾観測班、第八投射着弾…………少し凹んで罅割れできた……コメディ、まだ続ける?』


 水晶玉から届く報告は、石弾の破壊力不足を告げていた。

 訂正。小さな問題ではなく。大きな問題だ。

 王都から運んできた組み立て式投石機(カタパルト)、移動に便利で数も多いと利点もあるのだが……なんと言うか弾がショボイ。精々頭蓋骨程度、私の頭と同じぐらいだ。

 それでも普通の屋敷や石垣なら集中投射で瞬く間にボロボロになるだろう。

 しかし私達の進むべき道を阻むアイギス絶対要塞線は、いうなれば人造の山脈。


 山に石ぶつけて壊れるだろうか?


 答え。壊れない。


 そう。全然壊れる気配がないのだ。

 精々表面に小さな亀裂を生じさせる程度。

 人間達の軍も脅威ではないと判断したのか要塞の中に引っ込んでしまった。

 周囲の魂喰兵(ワイト)達も、『どうする?』と書かれた顔をこちらに……コメディに向けている。

 そんな視線を感じているはずのコメディはというと。


「シャー。シャジャシャジャーシャシャシャ」【続けろ。それとできるだけ満遍なく当てるように】


 蛇骨の賢者は、攻撃続行を指示する。

 その精気の波紋からは、焦りなどは感じられない。

 だが、その命令には私にでも分かる大きな誤りがあった。

 『満遍なく当てるように』――攻撃の分散、一撃一撃がほとんど効果が無いのにそれこそ無駄骨になる。

 

 コメディは一体何を考えているのだ? 攻撃を分散するなんて……冬眠からまだ完全に目が覚めてないのか?


【コメディ、()大丈夫?】


 心配になった私は、頭蓋骨を回転させながら尋ねた。


「…………」


 返事が無い。聞こえなかったか?


【コメディ~頭は大丈夫?】


「………………」


 うむ。耳まで遠くなったのか? それとも寝ている?


 仕方が無い。ここは私が代理として全軍に突撃命令を……


「ジャシャー! シャー!」【バカスアナ! やめろ!】


 私の考えを呼んだようにコメディが叫んで制止してくる。


 伝えようと思うときは伝わらず、伝える気が無いときは伝わる……これが以心伝心という奴か!?


【少しいいかね? オオナタのように突撃を進めるわけではないが……なぜ無駄な(このような)攻撃をさせているのだね……コメディ】


 私がコメディとの絆の深さに感動していると愚かな巨人ゼミノールの問いかけが青い波紋と共に伝わってきた。

 夕日と交わり紫光となるそれは、コメディを除く全ての死者の問いでもある。


「シャシャー……ジャシャシャーシャー」【待てば分かる……次の石弾には腐肉を擦りつける】


 賢蛇の返事は、答えではなく……更なる疑問を呼ぶものだった。


 石弾に腐肉? 腐肉って魂喰兵(ワイト)達の? 何でまた……いや、もしかして……


 悩む私の頭蓋骨に生前おやっさんから聞いた恐ろしい話が蘇る。

 なんでも聖一教が行なう戦――聖戦では、篭城した敵に糞尿、病死した屍骸などを投げ込んで城内に疫病を発生させることがあるそうだ。

 そして教敵とされ神官の助力を得られない城側は、奇跡で病を癒すこともできずもがき苦しみながら死んでいったらしい。


 コメディ……恐ろしい子!


 ピシャーーーン!


 コメディの陰険悪辣極悪非道な作戦を知り黒目蒼白になる私の背後で、雷鷲(サンダーイーグル)達が気を利かせて雷を落としてくれる。

 いい仕事だ……私の受けた衝撃を上手く表現している。


【腐肉を石弾につけた程度では、病は流行らんぞ。飲み水や食料に混ぜるならともかく……それに病が蔓延するのを待つ時間も無いのではないのかね……コメディ?】


 水や食べ物? 確かに城壁に血や肉がついたぐらいじゃ疫病は流行らないような。それに時間とは……?


【確か探し人がタイラントだったか……そこに居るのは十二月二十日なのだろう? 今日はもう十二月の十七だったはず。このままでは会えなくなるぞ……コメディ】


 あっ!


 調停者ゼミノールの言葉に私の背筋が凍った。忘れてはいけないことを忘れていたことに気付いたからだ。

 震える手で腰の熊手から地図を受け取り確認する。


 『十二月二十日(・・・・・・) 第七席ジフ・ジーン及び第九席アーネスト・エンド 公演中』場所は、タリア王国(・・・・・)北部のタイラント。


 そして今は、十二月十七日。場所はアンスターとスチナの境界。まだタリア王国にさえ入っていない。

 ここまで来るのに二十五日。途中、マリエル様のお墓を築いた一週間を引いても十八日。残る距離からして後五日は掛かるだろう。


 ……このままではジフ様に会えない……いや! 諦めては駄目だ!


「シャーシャシャシャシャシャシャシャ……ジャシャシャシャーシャ」

【少々遅れても行き先を聞けば問題ない……できれば会いたくないし】


 この要塞を今すぐ突破して。ただひたすらに進めばきっと!


「シャシャシャジャシャシャッ!? シャ!」【それに罅から入った黴で魂喰兵(ワイト)がぁ!? 待てっ!!】


 調停者に自らの策を説明しようとしていた蛇骨の賢者は、魂喰兵(ワイト)達の異変に気づき止めようとしたが……


【行くぞ! ジフ様の下に!】


【【【【【【【【【【ジフ様の下に!!】】】】】】】】】


 それより一瞬早く馬鹿な巣穴の号令が響き渡り、陰の精気が天地を揺るがす。


 突撃が始まった。

誤算の原因は、誤解であることが多いです。


今回の大鉈とコメディのように……

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