正しい要塞の潰し方
真っ直ぐ進んでぶん殴る……ではありません。
早く突撃したい。早く早く突撃したい。早く早く早く突撃したい……
暗雲広がる曇天の下、人間どもの軍と灰色の要塞を前に私は辛抱強く待っていた。
何を? 勿論、コメディの突撃命令だ。
先に突撃した仲間――魂喰兵十万体が焼き払われたことで人間の軍とアイギス絶対要塞線は、私の中で邪魔な敵から即殺の敵にその存在を変えていた。
『殺せ! コロス! 殺せ!』船長ガデム様の大声と憎悪の念が混じり合い全身から闇色の精気が立ち昇る。
コメディ、まだ? まだ駄目?
「シャ、シャ」【鳥、雷を】
焦れる私の傍らでは、コメディが雷鷲五兄弟に淡々と命令を下している。
【【【【【承知! 雷は我らと共に!】】】】】
暑苦しい叫びに応え、空を覆う黒雲より天地を切り裂く金色の矢が放たれ……
ゴォォォォォォン!
視界が白く染まり少し遅れて雷鳴が轟く。
そして天よりの裁きを受けた要塞は、
「シャーシャー」【これも効果なし】
無傷。これまでと同じように青い光の幕――陰の精気が雷を吸収していた。
対魔術装甲陣、ジフ様が潰した要塞――この件でジフ様は、要塞潰しと呼ばれるようになった――と同じ特殊な要塞らしい。
『呪われた遺物』達の放つ攻撃を全く寄せ付けない。
私もジフ様と一緒にこの対魔術装甲陣と戦ったことがあるのだが……以前は、火の雨を受けて碌に攻撃する間も無かっためここまで頑丈だとは知らなかった。
こんな要塞を素手で殴り壊したジフ様は凄い!
【豪雨に竜巻、そして雷も。これで我らの先手は全て防がれた……そろそろ直接斬りかかるかね? ……コメディ】
調停者ゼミノールも私と同じく突撃を望んでいるようだ。
イジス要塞を攻めた時も――嵐で半壊させてからとはいえ――最後は直接超大鉈を振るうことで落としたし……今回も同じ手でということだろう。
「シャ」【まだ】
しかし、蛇骨の賢者はその提案を早すぎると却下してしまう。
【早く突撃】
コメディの慎重すぎる態度に自分でも気付かず苛立っていたのか、私は少々強めに意思を伝えてしまう。
すると、コメディが久しぶりに――大体十日ぐらいだろうか?――私を真っ直ぐ見つめてくる。
「シャ……ジャシャシャー」【バカ……焼かれたらどうする】
蛇のように冷たい言葉と共に。
あぅ! 久々の会話が初っ端なから罵倒だと堪える……とっ、凹んじゃダメだ凹んじゃダメだ。
ここは、堂々と『ジフ様直伝要塞攻略法を試すべきだ』と伝えて。
「シャ」【駄目】
……言葉にする間もなく却下……コメディ、もしかして読心術とか使えますか?
「シャーシャジャシャー」【スアナの考えぐらい分かる】
さいですか。
【しかし私達が無理となるとどうしようもないぞ。他の者達では何百万いようとあの炎の滝で焼かれてしまう。もしや迂回でもする気かね……コメディ?】
迂回? それはヤダ! 目の前の人間と憎き要塞をほって……あまつさえ遠回りなんて!
「シャ。シャシャシャ」【待て。もう直ぐ届く】
その言葉と共にコメディの周囲に配された水晶玉の一つが輝いた。
遠話だ。
『癒しが欲しい』
……コメディ……待てってこれを?
「シャ。ジャ」【違う。切るぞ】
再び冷たい御言葉。前半が私に後半が水晶玉に向けてだ。
『御免』【御免】
遠話相手と一緒になぜか私も謝る。どうしてだか私にも分からない。水晶玉の向こうの誰かが他人の気がしなかったのだ。
「シャシャシャ?」【持ってきたか?】
『持ってきた。組み立て中。もう直ぐ終わる』
あ~何を持ってきて何を組み立ててるんですか?
【なるほど。王都で使ったアレか……コメディ】
ゼミノールは何か分かったようだ。満足げに頷いている。
愚かな巨人とか自称しているのになぜそんなに賢いのだ。
……私にも分かるように教えてください。
「シャシャ」【攻城兵器】
『準備完了』
答えは、石と共に飛んできた。
……何百個も。
他にも内応とかありますが、今回は殲滅戦なので却下(そもそも言葉が通じませんし)。
ちなみに攻城兵器はアンスター王国製……その効果は次回にて。