愛は……
愛があれば大丈夫。
愛さえあれば救われる。
愛を抱く者の想いは報われるのか……
オチツケ! おちつくんだわたし!
「シューシュー」【くぅーくぅー】
……コメディは、寝ていても可愛いな。
老兵ベルキの槍によって転倒した私は、冬眠する相棒を愛でることで精神をなんとか安定させる。
「串刺し? 石突き? 柄? どれでぶっ殺しましょうかね~」
【甲羅に取り付かれたぞ! オオナタに向かっている! 貫くことを提案する! アルヴ!】
【駄目だ! 脇腹からでは見えない! お前達も巻き込む!】
【これであなた達も終わりです……無辜の民を殺し、陛下までその手に掛けた罪! ここで贖いなさい!】
しかし、冷静になっただけでは状況は好転しない。
体の各所から伝わる精気を聞くに、老兵は頭を目指して体を昇り始めたらしい。
恐らくあの穏やかな笑みを浮かべ私を狙っているのだろう。
どうにかして奴を倒さなければ。
えっと、確か背中にある『呪われた遺物』は……
髑髏を傾けながら老兵ベルキを迎撃するための方法を考えようとしたその時。
【拙い! 背を駆け上がるぞ! 止めろ! 同志達よ!】
背からゼミノールの叫び、
「到着ですね~♪ 串刺し? 石突き? どっちがいいでショウ~」
そして左肩からベルキ・シェロの死の宣言が聞こえる。
【生ベルキ様! こんな間近で見れるなんて、感激……!!】
ついでに同じく左肩からマリエル様の幸せそうな歓声も伝わってくる。
マリエル様……あなたは、ジフ様の御弟子様でしょう?
何、人間との出会いを喜んでるんです!?
直接言うと後が怖いから、心の中だけでツッコミながら左肩へ頭蓋骨を向ける。
そこでは、マリエル様が白濁した瞳を輝かせ、自らの真横に立つベルキを見上げていた。
……傍らのコメディは、未だ眠ったままだ。
コメディが起きていれば、毒牙の一撃で倒せるのに!
右手や武器――超大鉈だとコメディとマリエル様を巻き込む! 何かっ!? 何かないのか!?
異形の巨体は、離れた敵や大きな敵を相手にすることには適しているが、懐に入られると死角が多いし手加減が出来ない――自分で自分の体を傷つけてしまう。
誰だこの体を造ったのは! 近づかれると碌な攻撃が……あっ!
出来損ないの体を組み立てた人物を罵っていた私は、ある攻撃方法――ほぼ捨て身の――を思いつく。
「おや? 試すのに丁度よさそうですね~」
だがその攻撃を実行に移す前に、英傑の刃が振るわれる。
【アンスターは、正義は勝つんでブヒッ!】
……誇らしげにアンスターを讃えていた生首死霊魔術師にして偉大なるジフ様の弟子――マリエル様に。
【ブヘッ!? ハナナヘヘ?】
脳天から顎まで貫かれたマリエル様の鼻から乳白色の何かが零れる。
あまりの光景に私の動きは、呆けたように止まってしまう。
「んん~~音がいま一つですね~」
老兵は、不満そうに槍を引き抜き。
「今日は、石突きにしましょう」
半回転させ突き下ろす。
ボチュ!
熟れた果実のように直前まで喜色満面の笑みを浮かべていた愛国者は弾けた。
「やはり女性の頭は、刺すより砕く方がいい音出ますね~」
あ、あ、あぁぁぁ、なんてことをっ!?
止める間もなく行なわれた惨劇に私は激しく動揺する。
ジフ様にどうお伝えすればいいんだ!
頭蓋骨裏にマリエル様を弟子にした時のジフ様の喜ぶ姿が思い出される。
「しかし、少し腐ってましたか。響きが今一……」
なんていうことをしてくれたのだ! このジジイ!
ジフ様に怒られるだろぉぉぉぅぅぅがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
死なす! 潰す! 晒す! 堕とす! 消す! そして……
今この時、船長ガデム様の教えと私の心が真に一つになった。
【殺す!!】
溢れる殺意をそのままに老兵ベルキに叩きつける……黒く輝く頭蓋骨ごと。
「ひょ?」
ベルキは、首から打ち出された髑髏に笑みを消し、初めて驚きを示した。
反射的に自ら飛び込んできた獲物に穂先を向ける。
【コ・ロ・スッ!】
それでも私は、二つの銀の輝きから視線を逸らすことなく突っ込む。
黒輝の骨と白銀の刃が交差し……二本の槍は易々と髑髏を貫通した。
……砕けました。
相互理解を深める気がない、一方的な愛は悲劇を生むと考えます。
他にもいますね……妄信者。