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骸骨の夢  作者: 読歩人
第九章 はぐれ骸骨放浪編
162/223

巨大要塞”イジス”

 王都から逃亡……もとい、出発したからって直ぐにジフ様の元につけるわけじゃありません。


予定通りに行かないから予定なんです。

 ロッキー山脈――世界大陸ドーマンの東部を南北に隔てる峻厳なる山の連なり。


 しかし、人はおろか竜さえも阻む天然の要害には、たった一つ、ただの一つだけ人智にて挑みそして潜り抜けることできる道があった……無論、それさえも万年雪と氷雲の洗礼があるのだが。


 何にしろ……人が通ることができるということは、そこから誰かが襲ってくることを――たとえそれがどんなに小さな可能性であれ――考えなくてはならない。

 結果、ロッキー山脈の北に覇を唱えるスチナ王国は、魔術の粋を凝らした難攻可落――不落ではない。先月一人の死霊魔術師(ネクロマンサー)によって陥落した――の地下要塞を造り、南の雄アンスター王国も対になるように山を削り十二の要塞群を建造することになった。


 その要塞達をアンスターの民は、畏敬を込めて呼んでいた――巨大要塞”イジス”と……


 三年前まではアンスター王国で最も有名且つ最大規模の軍事拠点であり、悪の魔術国家討伐の橋頭堡として建国期から幾たびもの戦火を乗り越えてきたアンスターの盾である。


 長年の仇敵スチナ王国が滅び、兄弟ともいうべき魔術要塞を下した後も北からくる脅威――魔王軍に備えて油断することなく物資を蓄え戦力を維持していた。


 (まさ)しくその備えは無駄ではなかった。


 七日前、勇者の死霊王討伐に沸く国内を襲った災禍――死に損ない(アンデッド)による広域同時侵略によって王都をはじめ主要な都市と城砦が沈黙していく中”イジス”は、その襲撃に耐えたのだ。


 無論、理由は他にもあった。


 一つ、とある死霊魔術師(ネクロマンサー)に魔術要塞が潰され再び最前線となったため、魔術師を含む戦力の増強が行なわれたこと。


 二つ、人里はなれた山間部という場所故、最初の襲撃まで時間的余裕があり戦況を把握できたこと。


 三つ、これも場所的要因だが山脈中腹とはいえ空気は冷たく、それが自ら熱を生み出せない死に損ない(アンデッド)を凍えさせ動きを鈍らせたこと。


 四つ、完全な軍事拠点ゆえ民間人――不穏分子たる名誉人間を含め――による混乱が最小限に抑えられたこと。


 五つにして最後、要塞に集った兵士達は教えられていた。


『我らはアンスター守る二枚(・・)の盾の一枚であり絶対に敗れない、敗れてはならない。だからこそ、我らが敗れない限りアンスターは安泰である』


 この言葉を信じたこと。


 それら全てを以ってしてアンスターの堅盾”イジス”は、王都陥落から七日七夜を耐えた……耐えてしまった。


 八夜目にして自分達が出会うことになる現実を知らずに……




~~~~~~~~~


【邪魔】


 月の見えない暗き闇の中……その一言と共に振るわれた巨大な鉈は、火の雨を降らす城壁を一撃の下に切崩し、隠れていた魔術師達諸共瓦礫に変えた。


「ゴガァァァァァァァァッーーーーーー!」「こ、こえが邪、し、神ガッ!」「なぜだ! なぜ効かない!?」


 私――大鉈、この度ジフ様に会い()代表に就任――は、闇の中に浮かぶ赤い人影、しぶとく生きている人間(てき)目掛けて得物を突き出す。


「アゴアッヘッ!?!」


 鋼と岩に挟まれた肉がプヂッと弾ける手応えを感じながら私は自分の背に話しかける。


【次……右斜め】


【【【【【任せろ! 風は我らと共に!】】】】】


 応じるのは、背中に背負った五枚の羽扇……に宿った雷鷲(サンダーイーグル)の兄弟の霊だ。

 彼らは、風を起こし私の体――今壊した城壁に匹敵する巨体を浮かばせ私の望む場所へと運んでくれる。


 この風による移動にも随分慣れたな。

 まぁ、それもそうか……なにせこの一週間ずっとだ。


 面倒な……ゴホン、ゲホン……慕ってくれる魔族達を振り切り王都を後にした私達は、昼も夜もジフ様の居る場所タリア王国タイラントを目指して彼らの風で飛び続けた。


「シャ、シャー」【スアナ、神官】


 ちっ! 奇跡は嫌いだ!


 左肩で寒そうに骨を縮めるコメディの注意に振り向くと崩れた城壁の影で、今まさに白衣の神官が両手を突き出していた。


【汝らに不幸を】


聖なる(ホーリー)ッダサラッガ!」


 だがその奇跡は、明後日の方向に飛んでいく。

 神官にとって不運なことに足元が突然陥没し仰向けに倒れてしまったのだ。


【ふん!】


「カミヨォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンカンデ!?」


 すかさず神官に起き上がる隙を与えることなく超大鉈を投げて止めを刺す。


【若いの、まだまだのようじゃの?】


 他に伏兵が居ないか見回す私に語りかけるのは、私自身の右腕――猿魔大王セイテンの手。

 穏やかながら強い芯を持つ老いた彼の声に、からかう響きはない。

 不幸を与えるという『呪われた遺物』らしい力で私を助けてくれたことから分かるとおり好々爺だ。

 これでアンスターでは、最凶の魔王と呼ばれていたのだから……未だに信じられない。


【今までに潰した要塞は十一個目、この御嬢さんの自慢話が正しいならこの要塞が最後の一つだな……オオナタ】

【……なんで話しちゃたの私? 蛇に挑発されたからってなんで……?】


 世にも珍しい話す干首と生首は、愚かな巨人ゼミノールと死霊魔術師(ネクロマンサー)マリエル様。

 ゼミノールは、私の体を成す『呪われた遺物』達に調停者とも呼ばれ一目置かれている存在だ。

 それでいて偉そうにすることなくこの一週間、私の話し相手をしてくれた。

 逆にマリエル様は、少々偉そうというか――まぁ、偉いのだが――相手を見下すような言動が多い方だ。

 コメディとは良く喧嘩をしている。


 ……相手をしてもらえるなんて羨ましい。


 そんな風に一週間の旅を思い返しつつも私の攻めは止まらない。


【雷を有れ!】【宿木の枝よ貫け】【回転螺旋衝角突貫!】【突貫!】【雨、雨、降れ、降れ、もっと降れニャ~】


 雷撃が、槍が、角が、雹交じりの雨が……城壁の穴を広げ隈なく焼き、潰す。


 同時に地を埋め尽くすジフ様に会い隊、会員番号二から一千万番ぐらいの魂喰兵(ワイト)が後から後から押し寄せてくる。


「この数は……まさか本当に全土が……?」「馬鹿野郎! 考えるな! 目の前のコギャ!!?」「はっはっはっはっはっはっはっはっはっ……」「いやだ! いやだ! いやぁだ!! いやぁぁだぁ!!」「諦めるな! 正義は我らにあり! 必ず勇者様が助けに来てヌワアアアアアアアアア!!!」「こちらアリエス、ビスケスからタウラスまでが一夜で陥落。敵は、天にも届く巨大魔族。雷と風を操り城壁を一撃で破る……後は頼むぞ」「自由と正義の炎を絶やすな!」


 砦内の人間(てき)も果敢に交戦するがその士気と力は既に限界に達しているように見える。


【消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!】


 私は一気にけりをつけるため突撃した。

それは相手にも言えること。


第一の関門ですからあっさり突破。


次の関門は……

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