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骸骨の夢  作者: 読歩人
第九章 はぐれ骸骨放浪編
161/223

馬鹿な骨は使いよう

馬鹿と骨ではありません。


馬鹿=骨ですので。

 馬鹿な死か~そうかぁ……私は、馬鹿で、死だったんだ…………けど? 私が死とは一体? 


 最高の相棒コメディによる自分への批評を深く噛締める私の隣で、その相棒が干首と生首の二人に更なる問いを受けていた。

 問いの内容は、私を『死』と評したことについて……


【死……それが死者という意味なら確かにオオナタ君は、死に損ない(アンデッド)だ。しかしそれは私も君も同じだろう……コメディ】


 干首――愚かな巨人ゼミノールは落ち着いた声で問い。


【あなた達、死に損ない(アンデッド)は、そもそも死しか生み出さないじゃない! 全員、血も涙も無い怪物じゃない!】


 生首――死霊魔術師(ネクロマンサー)マリエル様は、跳ね上がる声で問う。


 ゼミノールはともかく、マリエル様……もしかして死に損ない(アンデッド)が嫌いなんですか?

 言葉の端々から嫌悪感が感じられるんですが。


「シャ」【違う】


 コメディは、まず朽ちた巨人に鎌首を向ける。


「シャシャ、シャ。シャシャ、シャシャ、シャシャー……シャシャー」

【スアナは違う。考えない、悩まない、意思が無い……者じゃない】


 コメディ! 酷い! 私だって考えたり、悩んだりするし、意思もあるぞ……たぶん。


【……昨日からオオナタ君と共にいるが、私には彼が意思の無い者には見えない……コメディ】


 うん。干し首、良いことを言う。


「……シャシャ」【……スアナ】


 ゼミノールの反論にしばし黙っていたコメディが私に話しかけてきた。


「ジャジャ、シャジャシャシャジャシャ?」【ジフが、魔族を殺せと言ったらどうする?】


【それはどういう……】【魔族を?】


 訝しげに口を開くゼミノールとマリエル様を遮るように私はコメディの問いに応える。


【殺す】


 考えることも悩むこともなく当然のこと(・・・・・)として……


 だってどこに考え、悩む必要がある?

 ジフ様が、死に損ない(なかま)にしろと望めば殺すのは当たり前のこと。

 そこに私の意思が入り込む余地など欠片たりともあるはずが無い。


「シャシャ?」【魔王は?】


【殺す】


「シャシャ?」【天使は?】


【殺す】


「シャシャ?」【神は?】


【殺す】


「シャシャ?」【世界は?】


【殺す】


 蛇は問い続け、死は応え続ける。


 この世の全て、森羅万象に死を贈ると。


【…………そういうことなのだな……死、なのだな……コメディ】


【こ、こん、な、こんな怪物、一体誰が創造(つく)ったんですか!!?】


 干し首と生首は等しく震える口で言葉を紡ぐ。

 これがただの骸骨兵(スケルトン)の言葉なら笑って無視すればいい。

 『たかが骨が戯言を』と。

 しかし今、彼らの眼前にいるのは、たった一晩で人類最大最強国家を一方的且つ圧倒的に蹂躙した存在……しかも彼らはそれをすぐ傍で見て、聞いていた。


「シャジャシャ」【これがスアナ】


 朽ちた巨人と死霊魔術師(ネクロマンサー)が十分に理解したと感じたのか蛇骨の賢者は、馬鹿げた死から視線を逸らした。


 ん? コメディもう終わり?


()が我らが末と共にいるのが好ましくないことは分かった……同志達よ】


 調停者ゼミノールが、私の体――人間に殺された魔族達の怨念に語りかける。


【世界を殺す、か……正気ではないな。しかし、人間さえ狩れれば問題は無い】


 宿木の槍は、自らの望みを伝え。


【永遠に寝られるのならそれもいいニャ】


 猫の手は、投げ遣りだ。


【末には、末の狩りがあり。我らには、我らの狩りがある。元よりここに留まることも無い】


 猿の手は、魔族を撫でるように腕を伸ばし応じる。


【シュリョウノヘイゲンニ! ニンゲンヲカレ!】


 鱗の盾は、話を聞いているのかいないのか。


【神を殺すか……面白い。我らの狩りが終わったら手伝ってやろう】【それも良いな】【神狩りか】


 狼の言葉に熊や虎が猛る。


 他の『呪われた遺物』達も概ね意見は同じようだ……即ち、狩りのために進むべし!


 そして最後に背中から五つの意思が拡がった。


【【【【【我らは風と共に去りぬ】】】】】


 五枚の羽扇が渦巻く風を呼び異形の巨体――まぁ、私の体だ――をゆっくりと……だが確実に宙に浮かばせる。


【ちょっ! 待ちなさい! こんな怪物をどこに…………はっ! このまま行かせればアンスターは助かる? ここはこのまま行かせるべき?】


 マリエル様、興奮して本音が漏れてますよ。

 なんだろう……なんとなく誰か様に似てきている気がする。


 まぁ、誰もマリエル様の声に耳を傾ける様子は無い。


「こらっ! 商売どうしてくれるルワアァァァ!!?」「空から竜巻が! 御鎮まりください神よ!」「皆! 逃げて! ここは危険よ!」「天変地異……これが邪神の力なの……」


 私を囲んでいた魔族の方々もあるものは風に飛ばされ、またあるものは地に伏し、他の者も逃げ出したり呆然としたりで忙しいそうだ。


 砂塵を巻き上げ建物を揺らしながらようやく私は動き出す……ジフ様の下へ向けて。


「シャシャーシャシャ」【これで魔族(めんどう)から逃げれる】


 馬鹿()の説得に成功した賢蛇は、密かに呟いた。

嘘も方便のほうが正しいでしょうか?


コメディがスアナをどう思ってるかは……

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