幽霊船に乗って
幽霊船編の開始です。
黒い雲、荒れる海、朽ちた甲板。ジフ様、私は今、地獄でがんばっています。
「こら! 見習い、手を休めるな!」
船長帽子被る軍服姿の赤黒い骸骨兵が怒鳴っている。五月蝿い奴だ。ジフ様の命令が無ければ、誰が甲板掃除などするか。私達は戦って、成果を上げるて出世するためにきたのだ。この眼帯骸骨め!
「精気と共に考えていることが漏れているぞ! 見習い! 何が出世だ! 上官は、役職または尊称をつけて呼べ!?」
赤黒い骸骨兵・・・・・・幽霊船パゾクの船長ガデム様は、私を片手で持ち上げると甲板に叩きつけた。四度目の分解を経験しながら私は、ジフ様の最後の言葉を思い出す。
『絶対に成果を上げろ! 期待しているぞ! 必ず出世するんだ!?』
ジフ様、私はがんばっています。しかし砕け散りそうです・・・・・・
ジフ様の期待に応えるため、東の海岸に向かった私達を持っていたのは、藻に包まれた帆船と眼帯骸骨、いや、船長ガデム様だった。乗船した私達に船長ガデム様は命令した。
「ワシの名はガデム。船長ガデム様かキャプテン・ガデムと呼べ。ようこそ見習い骸骨水兵の諸君。まずは甲板の藻を掃除しろ。道具は、そこらに埋まっている」
私達は、戦いにきたのですと訴えたが一瞬で分解された。それを三回繰り返すと後は、黙々と甲板掃除をしている。船長ガデム様め大人しくしていればいい気になりやがって・・・・・・
「見習い、何度も言うが精気と共に考えが漏れているぞ。ユウの奴め! こんなド素人達を派遣するとは。何を考えている?」
船長ガデム様は、私の頭蓋骨を軍靴で踏みつけながら顎骨に手をやり考えこむ。
踏むな! 蛇骨兵達も無視してないで助けてくれ!
蛇骨兵達は、巻き込まれたくないのか私の声が聞こえないのか黙々と掃除を続ける。
「アホか? 話したいなら骨を震わせて音を出せ。震骨話も使えないのか? 精気の伝え方も下手だし。本当にド素人だな。こりゃ船を襲う前に教育が必要かね?」
船長ガデム様が、私の頭蓋骨を解放し掃除が終わり藻の無くなった朽ちた甲板を船尾に向かい歩いていく。すると船尾にある船内への階段から、誰かが上がってきた。
「キャプテン・ガデム、こんばんは」
黒い雲が月の光を遮る薄暗い甲板の上に、優しい声が広がる。
「そちらの方々が、新しく乗船された骸骨水兵さんですか?」
うっすらと蒼い光を纏い、足まで覆う黒いドレスが闇に沈むことなくはっきりと確認できる。
「おお。これはマダム・ケルゲレン、こんばんは。ええそうです。これからみっちりと教育する予定です」
その細い指先の白磁のような白さは生きている人間では、絶対になしえない。
「見習い達! こちらのレディは、マダム・ケルゲレン。大切な賓客だ。決して失礼なことをするな!」
「キャプテン・ガデム。賓客だなんて・・・・・・私は、幽霊船パゾクの死霊魔術師。ケルゲレンと御呼びください」
黒いドレスから覗いたなめらかな肩甲骨も、指先と同じように白く闇に映える。
「皆様、はじめまして。死霊魔術師3745席のケルゲレンといいます。宜しく御願い致します」
ケルゲレンは、満月のように美しい頭蓋骨を私達に向けて、眼窩に蒼い光を瞬かせた。
「考えが漏れてるんだよ! 様をつけろと言っただろうが!!」
私は、船長ガデム様に蹴られて空を舞った。なぜか海が近づいてくる。
ボチャン
「キャプテン・ガデム、何をしているんですか!」
水の中に沈む私の頭蓋骨に、死霊魔術師ケルゲレン様の声が微かに聞こえた。
派遣先での仕事は掃除から。