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骸骨の夢  作者: 読歩人
第九章 はぐれ骸骨放浪編
159/223

自覚なき責任者

無責任とは異なります。


無責任な者は、責任を知った上で責任を果たさない者です。


自覚なき責任者は、自分に責任があることさえ理解していません。


 自慢ではないが私はこれまで多くの難問、強敵に遭遇し、その全てをジフ様への忠誠とジフ様への奉仕とジフ様への依存とジフ様への献身と……とにかくジフ様のために突破してきた。


 夜の森で死に損ない(なかま)の材料を探したこともあった。

 文字通りの火の雨を降らす要塞にも立ち向った。

 あの(・・)勇者にも挑んだ……二回もだ。


 何が言いたいかというと……私は、豊富な経験と高い能力を持った優秀な骸骨兵(スケルトン)だと言いたいのだ。


 そう! 骸骨の()なのだ!


「我らを導いてくだされっ! 解放の神よ! 調停者よ! ”狩猟の平原”に!」


 よって今にも天に召されそうな人狼(ウェアウルフ)の御老人に神として崇められたり。


「御願いです! この子だけは助けてください……御願いします……邪神、様」


 さらに聖一教の聖印を握り締めた鳥人(バードマン)の女性に邪神――魔王に次いでのヤラレ役――呼ばわりされて懇願されたり。


人間(きゃく)皆殺しにしやがって! 何してくれてんだっ! 責任取れ!!」


 あまつさえ強面の半妖精(ハーフエルフ)に商売の邪魔をしたと脅迫される義務はない。


 更に今上げた三者以外にも私の前には怯えたり、怒ったり、讃えたりしている魔族が何百、何千といる。

 彼らは人間殲滅の間、教会などに避難していた魔族らしいのだが、なぜか私の前に立ち塞がり文句というか、頼みというか……いろいろ要求してくるのだ。


 私は、早くジフ様の下に行きたいというのに。

 こういう直訴は、私ではなくもっと偉い方……ジフ様にしてもらわないと。


 ……あぁ! 早くジフ様に会いたい!

 そして眼前の厄介な問題を御任せしたい!

 ジフ様ならパパパッと解決してくださるはずだ!


「シャーシャ」【逃避するな】


 私が踊りながら民衆の訴えを解決していくジフ様を妄想してたら、コメディから恒例の冷たいツッコミが入った。


【逃避してない。ジフ様ならこんな訴えなんか一瞬で片付けることできるぞ】


「ジャジャシャ」【まずジフいない】


【それは……】


 毎度の事ながら私の反論は、ザッパリと切り落とされる。

 

「シャジャ-シャシャシャー」【それにジフにそんな力無い】


【いや! ジフ様なら……】


「シャシャ?」【根拠は?】


 非情なる追い討ち……なんかコメディのツッコミ、切れを増しているような気がする。

 離れ離れの間、なにかあったのか?


【仲が良いのも結構だが、彼らをどうにかせねば王都から出ることさえできない……オオナタ、コメディ】


 そんな嬉しいこと――仲が良いの部分だ――を言ってくれるのは、私の体をなす古の魔族が一体、ゼミノール。

 彼は、私の下半身である亀の甲羅に張り付いた干し首を回しながら続ける。


【怯える者、許しを請う者はいいとして……崇める者と怒る者は難物だ……オオナタ、コメディ】


【邪魔なのは同じじゃ?】


「シャー、シャーシャシャシャ」【怯える者、謝る者は進めば逃げる】


 頭蓋骨を傾げる私にコメディが説明してくれる。


「シャーシャ、シャシャシャー」【崇める者は、勝手についてくる】


 ほうほう。


「シャー、シャシャシャシャーシャー」【怒る者は、先の童と同じく悪さをする】


 なるほどなるほど……確かに邪魔だな~……はて?


 目の前の魔族達の厄介さを新たな認識した私は、そこである疑問を覚えた。

 早速、コメディに尋ねる。


【コメディ、質問】


「シャー?」【なんだ?】


【なんで怒られたり、崇められてるの?】


 疑問……それは私達には、怒られたり崇められたりする理由が無いことだ。

 私が殺した人間は、国王も含めて精々百人足らず。

 壊した建物も博物館とその周囲ぐらい……後は城を少しだけ削ったかな?

 『人間(きゃく)を殺した』『邪神様』とか言われるほどのことではない。

 彼らが抗議すべきは、私達を置いて今もジフ様の所に向かって歩みを進める魂喰兵(ワイト)達であるべきだ。


 しかし私の問いに対するコメディの返事は、


「シャ」【バカ】


 短く、それでいて心の底からの思いがこもった一言だった。


【君は、自分の置かれている状態が理解できていないようだ……オオナタ】


【こんな馬鹿にアンスターが……】


 愚かな巨人ゼミノールまで沈痛な面持ちで語り、生首死霊魔術師(ネクロマンサー)のマリエル様さえわざわざ一瞬だけ正気に戻って罵ってくる。


【この王都を滅ぼしたのが自分だという自覚があるかね……オオナタ】


 はい? 私が滅ぼした? なんの御冗談で私がやったのは……


【正確には、そう思われているというべきか。この巨大な体と周りの死に損ない(アンデッド)の態度だよ……オオナタ】


 巨体……それは分かる。数え切れないほどの『呪われた遺物』を繋ぎ合わせたこの体はそこら辺の屋敷より大きい。恐らくは、巨人や竜などの大きな魔族に匹敵する。

 大きいということはそれだけで目立ち注目される。

 しかし、周囲の態度とは?


 私は、頭を巡らし周りを確認する。


「コメディ、海に逃げた軍艦が巨大な海月(クラゲ)に沈められた」

「暴れた魔族達どうする? まだ縛っとく?」

【名誉人間大臣クウォルフの殺害未だならず! 追跡を続ける!】


 周りの態度といっても私の左肩(・・・・)にいるコメディに報告や連絡をして指示を仰いでるだけだが……あっ! まさか!?


【分かったようだね……オオナタ】


 干乾びた顔に更なる皺を刻みながらゼミノールは嬉しそうに言い。

 私もそれに応える。


【コメディが原因なのか!】


 なるほど納得。魂喰兵(ワイト)達に命令していたのもコメディだし……そりゃー邪神だ、解放神だと崇めるわけだ。

 あれ? コメディ、ゼミノール、マリエル様の視線が勇者の剣のように鋭く、万年氷の如く冷たいのだが……


【【【バカ】】】


 万の魔族に囲まれ、死者の軍勢を指揮する異形の巨怪……その天辺に位置する赤き頭蓋骨に三者の口から一つの言葉が告げられた。

前者はどうしようも無いですが、後者は自覚さえできれば変われます。


……自覚させるのが一苦労とか思ってはいけません。

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