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骸骨の夢  作者: 読歩人
第八章 御返し編
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人間のために 国のために

人間なら国のために戦え!


勇ましい言葉です。

【アンスターの国王……最初の獲物にこれほど相応しいものが他にいるだろうか……同志達?】


 滴るほどの想いを込めて朽ちた巨顔――ゼミノールが問いかける。


【否!】【狩る! かる! カル!】【寝ていいかニャ~】【パァァァァァァーーーフェクッ!?】【妻よ! 娘よ! 恋人よ! 愛人よ! 今こそ約束を果たそう!!】【悪……即……狩……】【パパの仇】


 応じるは、数百年の間”狩り”を望み望まれた(まこと)古強者(ふるつわもの)

 生前の誓い……一族の敵討ち……自らの復讐……眼前の獲物に余計な飾りを捨てさった彼らの叫びは……


【【【【【【ボッゲッケケケぬわーーーヒャ!!!?!!】】】】】】


 瞬く間に混ざり合い、何を言いたいのか分からない謎の絶叫になる。


 早い話が、箍が外れたのだ。

 ……いい年してみっともない。私のように常に優美(エレガント)な行動を心がけて欲しいものだ。


「待っ! あっ!」


 異形の狩人は、しがみついていた人狼(ウェアウルフ)の女性を振り飛ばし……


【おおおぉぉぉ狼耳がぁぁぁぁぁぁ!! モフモフが遠くへぇぇぇ!? 癒しががががががが!!】


 優美(エレガント)さの欠片もない叫びを伴奏に、偉そうな人間――国王らしい――を狩ろうと突き進む。

 そしてそれを阻むのは、彼女が守ろうとした者達、名誉人間と呼ばれし魔族。


「アンスターの栄光! 我らの名誉! やらせるわけにはいかん!」


 人間の主君に襲い掛かる怪物を阻まんと剣を、槍を、弓を、拳を、足を、体を武器に立ち向う。

 名誉人間――人間と認められた魔族として、責務を果たさんと。


「おう!」「奴が親玉だな」「殺された人々の仇……」「本来の任務を忘れるなよ」


 人狼(ウェアウルフ)の剣士が地を這うように無数の獣に斬りかかり。


 半妖精(ハーフエルフ)の弓兵は遥か高みの赤い骸骨を矢で狙う。


 人猫(ワーキャット)の軽装兵の脚は、迫り来る巨体を瞬く間に駆け上がり。


 鳥人(バードマン)の飛行兵から放たれる投槍は、逸れることなく朽ちた巨人に迫る。


 それは人の身ではなし得ない技であり、攻めであった。

 勇者と呼ばれる一部の例外を入れてもまだ後れを取ることはないだろう。


 しかし、彼らは知らない……対峙するのが自らの祖先であることを……


 だが、彼らは知っていた……立ちはだかる者が道を違えた子孫であることを……

 

【駄目っ! 逃げて! 陛下を連れて逃げてぇぇぇェェェェェェーーーーーー!!】


 結末を一瞬早く――しかし絶望的なほど遅く――悟ったマリエル様が、届くことのない言葉を叫ぶ。


「シャシャー」【平和の結末】


 蛇骨の賢者は予言した。


 平和。


 人間達の平和。


 魔族を狩り、虐げ、繁栄してきた人間達が望んだ平和。


 名誉人間の――仮初であったにしろ――未来が見え始めた平和。


 ……その終わり。


【牙の使い方も知らんのかぁぁぁぁぁぁ!!!!】


 怒れる古狼の顎は、無謀な突撃をした剣士を噛み砕き。


【伸びろ】


 宿木の槍は、呟くだけで矢も、弓も、そして無知なる射手をも貫く。


【ニャ!?】


 雨と幸運を招く猫は、反射的に手で子猫を叩き落す。


【【【【【名誉挽回! 汚名返上! 兄弟連携! 矢返しの風!】】】】】


 五色の羽扇は、矢どころか投槍を跳ね返す……投手に向けて。


【汝に不幸を】【一枚が、二枚。二枚が、四枚。四枚が、八枚……そして十六枚下ろしでごさい!】【星よ、雷となれ】【ワレラノカリヲ、ジャマスルナ!】【不味い! 濁った血だっ!】


 私と繋がることで死後の狩りに身を投じた魔族の亡骸達もそれぞれに刃を振るう。


「きっ、ぎっ、ギュア!?」「陛下だけはぜっ!!!!?」「マリーちゃん!!」「引かん! 譲らん! 通さん!」「名誉あるアンスター国民としぃぃぃデゴ!?!?」


 その一撃、一撃が容易く、当たり前のように人間である魔族を屠っていく。


 それも当然だ。

 彼らは、人間と争って、戦って、殺しあって……死してもまだ戦場に戻ってきた眠ることのできない者達だ。

 一体、一体が数百年の時で磨耗することない精神と朽ちることない依り代を持った生きた……いや、逝きた伝説といっても差し支えない。

 そんな準備万端整えても戦うことを避けるべき相手なのだ。

 少しボケてたり、お馬鹿なのは目を瞑って欲しい。


 そんな訳で……自分達が獲物であることに気づかなかった未熟な狩人達は、


【あぁぁぁぁぁぁーーーモフモフがぁぁぁぁぁぁ……】


 私が止めようとする間もなく。


「シャシャー」【後は一人】


 コメディの予言のままに。


「あっ、ア、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!?」


 狼耳を掻き毟る女が叫ぶ中。


【そ、ん、な……こ、こまで一方的に……!】


 マリエル様の驚きのとおり。


「ハーフェルの進言で組織したが、転移門まで持たずに全滅か……予算の無駄だったな」


 主に『無駄』と評価されながら。


「へ、陛下……お逃げェ…………ク…………」


 ――最後の一人が、私の脚に踏み潰された。


 人間として生ききった……誰一人、降伏も、逃亡もすることなく。


 ――誰が認めずとも私は認めよう主のために戦った彼らの名誉を。




 それにしても猫耳は惜しい。

しかし、それを強制的に教育し実行した国は……


ただ悲しいだけです。

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