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骸骨の夢  作者: 読歩人
第八章 御返し編
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守りたいもの

名誉人間――魔族達の守りたいものは……

 王星(ザ・スター)――ほんの少し前まで人類最強国家を名乗るアンスターの中枢として威容を誇っていたその場所は今……


「もう人間に従う必要はないんだぞっ!」


「ゾこぉぉぉどっけぇぇぇェェェェェェ!!」


 魔族と魔族が争い。


「待ってくれ! 彼らは私達が説得する! だから待ってくれ!!」


「なんで? 説得? ……どうしよう、コメディ?」


 生者と死者が話し合う。


 半分は戦争で半分は平和……そんな混沌空間に変わっていた。


【何これ?】


 いろいろ間違っている光景を前にして、常に冷静な私も流石に凍りつく。

 ……凍りつくといっても固まるという意味で、涼しい訳ではないからやはり冷静ではない。

 うむ! やはり冷静ではないな。


「あんたがボスかっ!?」


 冷静に冷静でないことを把握していると、女の人狼(ウェアウルフ)一体、駆け寄ってくる。


「待ってくれ! あいつらは騙されてるだけなんだ! 殺さないでくれ!!」


 その女人狼(ウェアウルフ)は、怪我――片方の狼耳が斬れてる――で頭を血に染めながらも訴えてきた。

 必死なのだろう、自らの何十倍もの巨体――私に近づきながら恐れる様子さえない。


 まぁ、それはともかく……あいつらって誰? それにあなたはどちら様? それより耳の傷は大丈夫ですか? 後、誰を殺せばいいの?


 類は友を呼ぶ――混乱に混乱が加わり私の空っぽの頭脳は……


「少しでいいんだ! 時間をくれ!」


 更なる負荷に……


「友人なんだ! 助けたいんだ!」


 ……ある決断を下した。


 はっきり宣言しよう! これ以上の正しい選択はないと!!


 私は尚も声を嗄らしながら叫ぶ魔族から視線を逸らし――左肩を、正確にはそこにとぐろを巻く相棒(コメディ)を見る。


「シャ?」【なんだ?】


【訳が分からないから教えて】


「………………」【バカバカバカ……】


 あぁぁぁ!? コメディの虚ろな視線と無言の威圧と魂からの罵倒が痛い!? ……でもちょっぴり……いや! いや! 私は先輩と違って特殊な趣味はない! 本当だ!?


「シャーーーーーー……ジャジャシャ」【ハァーーーーーー……バカばっか】


 深く、とても深く溜め息をついた賢蛇は、私と……私と同じく状況が理解できず呆然とする生首死霊魔術師(ネクロマンサー)マリエル様を見てから口を開いた。


 三、ニ、一、ポカ~ン! なぜなにコメディ始まります!


「ジャシャ、ジャシャ、シャジャジャシャシャー?」【バカスアナ、バカエル、なぜ魔族が争うか分かるか?】


【分からない】

【……ア、アンスターを守るために決まってます! それと私はマリエルです!?】


 マリエル様より私のほうが早く答えたぞ……クックックッ! コメディ褒めて!


「シャ。ジャ、シャ……シャシャー」【違う。が、守るため……それはあってる】


 あれ? マリエル様のほうが正解っぽい?


「シャーシャシャ、シャシャシャシャー」【少ない魔族は、人間守ってる】


 確かに武装した魔族は、百人足らずで円陣を組んで中心の人間を……人間! 『殺せ!』了解です。


 私は、人間――冠を被った偉そうな奴である――に超大鉈を投擲しようと腕を振り上げる。

 しかし……


「待ってくれって言ってるだろぉぉぉぉぉぉ!!」


 ちょっ!?


 狼耳の女が体を支える脚にしがみついてきた。その力は大したことないが、モフモフ感が著しく集中力と殺戮衝動を削いでしまう。


 モフモフ、モフモフ、モフモフ、モフモフ……てっ! なぜ邪魔する! 魔族そこどいて! 人間殺せない!!


「シャーシャシャ、シャシャシャシャー」【多い魔族は、魔族を守ってる】


 私がワタワタしてる傍らでコメディが説明してくれる。

 コメディの言うとおり非武装の魔族達は、門や場内の至る所で人間を殺そうと――つまりは武装した魔族に突っ込もうとする魂喰兵(ワイト)を押し留めようとしている。

 押さえつけたりはしても、暴力は振るわず言葉で止めてくるため死者達も困っているようだ。


「彼は人間に洗脳されてるだけなんだ! 時間をくれ! 人間は、国王は、引き渡すから!!」


 涙目で言われても……非常にやりにくい……どうしよう、コメディ?


 そんな冒頭の魂喰兵(ワイト)と同じような反応をする私とは違いマリエル様は、個性的な反応をする。


【陛下を引き渡すですって!? 何を考えてるのあなたっ!!】


 激しい怒りを見せたのだ。


 コメディの話を聞いていなかったのかマリエル様。

 彼らの目的は、魔族を守ることだと説明してくれたじゃないか……国王だろうが、陛下だろうが、人間はどうでも…………あの偉そうなの国王なのか……国の王。一番偉い人……殺したら――成果を上げたらジフ様喜んでくれるだろうか?


 だが、いや、当然というべき人狼(ウェアウルフ)の叫びに反応したのは、マリエル様や私だけではなかった。


【国王だと!?】【カル! カル! カル!】【ヒヒッヒッヒ】【獲物がなくなるどころか……最高の獲物が残ってるじゃないか!!!!】【あれが……敵】


 今まで沈黙していた体中の死者が、歓喜と共に動き始めたのだ。


 ブワッ!


 背中の羽扇が風を起こし異形の体を宙に浮かせる。


【押しつぶす気か?】【私が宿木で貫きましょう】【マテェェェワレガカミコロス】【全員で一度にやれば良い】【火焙り、皮剥ぎ、八つ裂き、串刺し……どれも捨てがたい】


 皆さんとても物騒なことを話し合いながら武器を構え、牙を剥き、爪を伸ばしている。

 そして彼らには、人間を庇う魔族も、そんな更に魔族を庇う魔族にも、気を回すつもりはないようだ。


「待て! 待ってくれっ!?」


 全身で制止する狼女を引きずりながら復讐者はゆっくりと動き始めた。

 人間へ、そして人間を守る魔族達に向かって。

サブタイトル……『なぜなに? コメディ劇場!』にしようか悩みました。


ゴホン! 同じように育っても、同じように考えるとは限りません。


 もちろん人間も同族もどうでもいいと考える魔族もいますが……彼らは話に絡まないので割愛しました。

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