交渉
ジフ様は、優秀な部下を持っています。
「御許しください! 申し訳ありません! 今は反省しております! 猛省であります!」
ジフ様は、全力で謝罪している。
斯く言う私も謝罪している。
むしろ部屋にいた全員が(死体兎&死体栗鼠達も含めて)、謝罪している。
その謝罪を受けている死霊騎士は、頚骨の接続が悪いのか両手で頭蓋骨の位置を微調整している。
死霊騎士に勝利した後、ジフ様は、顎割れ死体騎士に平手打ちを受けると床に転がる死霊騎士の頭蓋骨を見て気絶された。頭蓋骨なんていつも見ているのになぜ気絶されたのだろうか?
顎割れ死体騎士は、死霊騎士の頭蓋骨を戻すと丁寧に謝罪し、ここ数日ジフ様が人間の襲撃のために狂化していることを説明した。狂化って何だ?
そしてジフ様を起こすと、なぜか全員で謝罪することになった。
「つい出世に目がくらみやってしまいました! 山よりも深く、海よりも高く反省し・・・・・・」
「事情は、死体騎士殿から聞いている。狂化していたのならあの力もうなずける」
死霊騎士は、接続を諦めたのか、頭蓋骨を脇に抱えるとジル様の謝罪を止めた。
「へ? 狂化ですか?」
「ジフ様。ジフ様ハ、人間達トノ死闘デ狂乱状態ニナッテイタノデス。普段ノ数倍ノ精力ト引換エニ冷静サヲ無クサレテイタノデス」
「そ、そうだったのか? 気づかなかった」
「ジフ様、狂化シタ本人ハ気ヅカナイモノデス」
なぜだろう? 顎割れ死体騎士が、『ちょろいもんだぜ!』という顔をしている。
それに気づかずジフ様と死霊騎士が話を進める。
「ジフ殿、幽霊船の件だが」
「へ?」
「だから先ほどの幽霊船を紹介する件だが」
「しょ、紹介していただけるので?」
「ああ。紹介しよう・・・・・・ところで何でもしてくれるというのは本当か?」
「何でもといいますと?」
「何でもするから紹介してくれと言っていただろう?」
「あっ!はい! 致します。なんでも致します!」
「本当だな? ならば、ノルマ分の戦力を提供してもらいたい」
「はい。それぐらいでしたら喜ん・・・・・・申し訳ありません。蛇骨兵を除くと死体騎士を入れても二十七体しか死体兵と骸骨兵がいません・・・・・・少しだけまけていただけないでしょうか?」
「ノルマとして提供してもらうのは、死体獣や骸骨獣でいい。首席殿にも私から話をしておこう」
「本当ですか!? それでしたら・・・・・・・すいません死体獣も二十四頭しかおりません。足りない分は死体兵でよろしいでしょうか?」
「いや。拠点の戦力を下げるのは良くない。死体獣ならそこにいるだろう」
死霊騎士の視線の先には、また踊りを踊り始めた死体兎&死体栗鼠達がいた。
気のせいだろうか? 死霊騎士に向けて耳や尻尾を振っているように見える。
「そのかわ、ゴホン。立派な死体獣で問題ない」
「ほ、本当にそれで? それでしたら大丈夫です・・・・・・死体獣と骸骨獣、こちらの方が、今日からおまえ達の主だ! いいな」
ジフ様が死体獣達に命令すると、死体獣達は死霊騎士に集まっていく。死体兎&死体栗鼠達にいたっては、死霊騎士の肩や膝の上に登って喜びの踊り始めている。死霊騎士も心なしか喜んでいるように見える。怖い顔に似合わず動物好きなのだろうか?
その後、死霊騎士は、懐から出した水晶玉で遠話をすると、ジフ様のノルマと報告の件を死霊魔術師首席に連絡して丸く治め、幽霊船の件も同じように段取りをつけた。
「三日後の晩、ここから東にある海岸に、私の友人が船長をしている幽霊船パゾクが現れる。船長の名は、ガデム、歴戦の古強者だ。骸骨水兵が足りない間、蛇骨兵を使ってくれる。奴の船で成果を上げれば、死霊王様の御耳にも届きやすいだろう」
死霊騎士は、最後にジフ様にそう言うと、その肩に死体兎&死体栗鼠達を載せて”骸骨洞窟”を去っていった。
翌朝、ジフ様は、”骸骨洞窟”の前で訓辞をしている・・・・・・
「いいか! 幽霊船に乗ったらガデム船長の命令を聞け! 絶対に逆らうなよ!そして戦闘では、一人でも多くの人間を殺せ! 骸骨水兵が揃うまでに成果を上げるんだ!?」
・・・・・・私と蛇骨兵五体に対して。
急に『一体でも多いほうがいい。大鉈、おまえも蛇骨兵だ』と言われたのだ。
「一に出世! 二に出世! 三四も出世! 五も出世だ! 私の夢のため、おまえ達の骨に魂に刻み付けろ!」
ジフ様との別れが迫る。
ドナ~ドナ~




