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骸骨の夢  作者: 読歩人
第八章 御返し編
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名誉人間

名誉……自他共に認める尊厳と誇り。

【そもそも名誉人間が生まれたのは、人間達の欲望と傲慢が原因なのだ……コメディ】


 愚かな巨人ゼミノールは、干乾びた顔に更なる皺を刻みながら語る。


 名誉人間――魔族でありながら人間の味方をする者達。

 その存在が、死者の支配する王都で反撃の狼煙を上げたのだ。

 小は泣き叫ぶ猫耳少女、大は人間を守りながら魂喰兵(ワイト)軍団を駆逐する人狼(ウェアウルフ)の一群……予想だにしない攻撃によって何百という仲間が倒され地に伏した。


 おのれ! 猫耳少女の泣き顔なんて反則だ!! 私も見たい!! ……ジフ様へのお土産に一人……駄目だ!! 私は紳士だ!! でも……おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!?


「シャーシャー?」【欲望と傲慢?】


 苦悩する私の横からコメディが尋ねた。

 名誉人間への対応に”情報”を求めたのはコメディ。

 応えるは、調停者ゼミノール。

 そういう訳で私達は、王城――最大規模の抵抗が起こっている――へと急ぎながらゼミノールより名誉人間について説明を受けているのだ。


 ちなみに『右! 左! 右! 左!』と、一歩一歩、歩いているわけではない。

 現在は、背中の雷鷲(サンダーイーグル)の羽扇五枚――憑いている霊は兄弟らしい――が風の魔術で運んでくれている。


 ……猫の手が雨を呼んだのを見て『あっ! 俺達空飛べる!』と長男羽扇が言った瞬間の怒気と脱力感は……言葉では言い表せない。

 

【きっかけは、人魚(マーメイド)の虐殺だった。

 それまでも多くの魔族を根絶やしにしてきたアンスターの人間達は、不老の力を持つ人魚(マーメイド)の肉を求め欲望のままに戦を仕掛けた。

 ……いや、あれは戦とは呼べまい。北の海……確かスチナだったか? そこで狩られ、逃れてきた人魚(マーメイド)達は、元々数が少なく戦う術を持っていなかった。

 彼女らの崇める神や半魚人(マーマン)の助力も虚しく人魚(マーメイド)は幼子一体残さず……そう卵すら残さずに完全にこの世界から消えてしまったよ……コメディ】


 愚かな巨人は、当時の悲しみを思い出したのか僅かに首を振るわせる。


 しかし……『この世から消えてしまった』か、一体残らず殺すとは凄まじいな人間の欲望は……


【貴重な秘薬の元を失った人間は悔やんだ『あああ! しまった! 少し残しておけば良かった!』と……そして始まったのが”保護”と”管理”だ。

 有用な魔族を守り(・・)、人間に役立つように教育(・・)しようとしたのだ……傲慢と思わんかね?

 魔術の才を持つ古妖精(エルフ)躾ければ(・・・・)従順な人狼(ウェアウルフ)、美しい羽根の鳥人(バードマン)、男に一夜の極楽を見せる蛇女(ラミア)……選ばれた魔族は保護され、管理しやすい砂漠や孤島に移住させられた。

 ここからが人間の真の業だ。

 祖先の大地を奪われた同志達は、それを上回る艱難辛苦を味わい続けることになる。

 古妖精(エルフ)は、人間との間に無理矢理半妖精(ハーフエルフ)を作らされた。

 人狼(ウェアウルフ)蛇女(ラミア)は、奪われた赤子を人間に尽くすように育てられ……人犬(ワードック)や愛玩奴隷にされた。

 鳥人(バードマン)は、成長すると空を飛ぶことなく羽を奪われた。

 人間達にとって都合がいいように貶められた民、それが名誉人間なのだ……コメディ】


 前言追加……人間の傲慢はもっと凄まじい。


「シャシャ……」【家畜扱い……】


 コメディがとても短く纏めてくれた。


【違います!!】


 しかし、コメディの結論に異を唱えるものが現れた。


 ん? コメディの言葉を否定するとは……一体誰だ!?


【アンスターは、彼らを人間として扱っています! 家畜扱いなんかしてません!】


 再び叩きつけられた精気の源は……


【アンスターは、自由と正義を愛する公平な国です!】


 無数にある腕の一本に抱えられている女の生首――死霊魔術師(ネクロマンサー)マリエル様だった。


【国を愛し、共に暮らそうとする者を貶めたりなんかしません!】


 はっきりと自らの意見を述べるその白く濁った瞳は、青い光を爛々と放ち、先ほどまでの呆けたようすは微塵も残っていない。


 ふむ? 何が原因か知らないが正気に戻られた……良かったですね。マリエル様。


 だが、喜んでいるのは私だけで他の方々は違うようだ。


【貴様、アンスターの人間かぁぁぁ!】【『人間として扱う』だと? 人間と同じに扱われて誰が感謝すると思っているんだ!!!】【ふざけるニャ!】【ワシの一族は、黄金猿と呼ばれて全て狩られたがの~?】


 私の体中から憎悪の精気と共に殺意が染み込んだ言葉が溢れてくる。

 恐ろしいほどの圧力だ……もっとも対するマリエル様も負けてはいない。


【アンスターの国民として扱ってもらえるのに何が不満なんですか!!

 魔王が現れても名誉人間として、魔族を受け入れるこの国の素晴らしさが分からないんですか!?】


 生首から拡がる精気は、心の底からの思いを包み隠さず伝えていた。

 彼女は言葉のとおり本気で思っているのだ『アンスターの民であることを喜べ』と。


 マリエル様、三流国(アンスター)の国民になれたから喜べってのは、無理がありますよ?


「シャシャ」【バカエル】


 コメディが新しいツッコミを披露した。

なぜか尊厳も誇りも関係ない使われ方がされている気がします。


名誉白○、名誉アー○ア人……どちらも政治な使われ方です。


感染者……マイナス百八体(王都内のみ)

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