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骸骨の夢  作者: 読歩人
第八章 御返し編
148/223

進む先……

旅行の日に雨って嫌ですよね。


雨が降って延期とかならまだしも、雨の中でバーベキューとか……

【覚悟はできたかな……同志達よ】


 調停者ゼミノールが私の体――それを構成する死者達に問い……


【うむ……】

【いっけまーーーす】

【良かろう】

【眠いニャ~早くするニャ~】

【今度こそ心を一つに】

【ヤッテヤル! ヤッテヤルムン!!】


 勇ましく、それでいて隠し切れぬ緊張を漂わせ狼が、熊が、無数の獣達が応じた。

 その様子を私やコメディも真剣に見つめる。

 なぜなら彼らの団結と連携が私達の運命を決めるからだ。


【では……もう一度立ち上がれ! ……同志達よ!】


 朽ちた巨人の号令に、怨念の塔が立ち上がる。

 比喩でもなんでもない、本当に立ち上がった……何十という脚を伸ばして。


【【【【【【うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!】】】】】】


 ただ立ち上がっただけなのに皆さん凄い気合の入りようだ。

 黒い精気があふれ出し、周囲一帯を闇が覆う。


【先ずは右前足を前に! ……同志達よ!】


 運命の一瞬が訪れる。


【【【【【【ダァァァァァァァァァ!!!!!!】】】】】】


 獣達のが踏みしめる大地は、あまりの力に震え、踏み出す一歩は虚空を裂く!!


 そして……


 トン!


 一歩が踏み出された。


【【【【【【………………】】】】】】


 私も、コメディも、ゼミノールも、全員が息を止め、体が安定(・・)するのを待つ。

 正確に表現するなら、こけたとき素早くつっかい棒――超大鉈を地面に突き立てられるように握り締めている。


 一呼吸……


 二呼吸……


 三呼吸……


 体は傾かない。

 滑るように横転することも、前のめりで前転することも、宙に舞い上がって二回転半を連続ですることもない。


 成功したのだ!

 私達はついにやったのだ!!

 ついに初めの第一歩を踏み出したのだ!!!


【まさか移動でこれほど苦労するとはなぁ……同志達よ】


 そう。人間達の精鋭部隊――コメディがそう言っていた――を粉砕した私達は、戦頭の件を一時脇において、とりあえず王城に向かうことになった。

 ゼミノールが『獲物がなくなる』と言った途端、そういうことになったのだ。

 しかし、一時的とはいえ意見一致を見た私達を思いもよらない事態が襲った。

 この問題に比べれば、黒煙に包まれる王城を見たマリエル様が『これはユメ。ワタシはオウチの……』と症状を悪化させたのは些細なことといえる。


 その問題とは何か?


【歩く……ただそれだけの何と難しいことか……同志達よ】


 そう。歩けなかったのだ(・・・・・・・・)


 そもそも私の下半身……腰から下は巨大な亀の甲羅を無数の獣系魔族――フワフワモフモフ多し――の亡骸が支えているのだが……まず、脚の長さがバラバラだ。虎馬(トラウマ)――黄色と黒の縞模様が特徴的な魔獣――の脚は人より長く、一方双頭蜥蜴(ダブルリザード)の脚は犬より短い。

 これでまともに歩けるはずがない、というか地面に脚がつかない者が多い。

 先ずは脚の長い者は、短いものに合わせて膝を曲げて立つようにして調整をした。

 それからも歩幅を短いものにあわせるようにとか、脚の数が違う者はとか。

 そんないくつもの努力の結果……


【やったぁぁぁぁぁぁ!!】

【ヤンタンダ!? オレタチハヤッタンダ!!】

【もうすぐ夜だな……王城につくのはいつになるやら……】

【さぁ? 明日にはつくんじゃね?】


 感激のあまり涙――黒い精気の雫だ。石畳が溶けている――を流す者までいる。

 この一歩は小さいが、私達にとっては偉大な一歩である。


 だが……


「化け物がぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァ!!!!」


 感動に包まれる私たちに、突然怒りに満ちた声が叩きつけられた。

 視界の端、狭い路地より剣を持った何者かが飛び出してきて……


【宿木よ】


 トスッ!


 木の枝のような……いや、木の枝そのものの槍に顔面を穿たれた。

 当然、致命傷。


 へっ?


 私は、崩れ落ちるその襲撃者――犬耳を生やした魔族(・・)をポカンと見つめる。


人犬(ワードッグ)の警吏ですか……文字通り人間の犬になるとは】


 そう言ったのは、自らを伸ばし魔族を貫いた……宿木の槍だった。

 言葉だけを聞けば侮蔑しているように聞こえるが、そこには負の感情を通り越した何かが……てっ、そうではなくて!!

 あれ!? なんで?? 魔族を殺しちゃうんですか? しかも犬耳!!? もったいない!!!?


人犬(ワードッグ)か……血を守るためとはいえ、憐れなものだ】

古妖精(エルフ)、手間を取らせた。次に現れたら俺が噛み殺す】

【いいのですよ。人狼(ウェアウルフ)、私達にも混ざり者(ハーフエルフ)がいますから】

【なにが名誉人間だ……今こそ、人間達を根絶やしにすべきときに】


 しかし、驚き慌てるのは私だけで他の者は――狼まで――至極当然寧ろ自分が、と語り合っている。


 なんで? いきなり襲い掛かってきたけど……殺すのはやりすぎじゃぁないですか? 別に人間(てき)じゃないんだし。


 任務以外の殺害に動揺する私を更なる衝撃が襲う。


【き、緊急! 第十三教会デ保護シテイタ魔族ガ襲ッテキタ!】

【王城から偉そうな人間達が脱出!! 魔族の兵隊が邪魔して殺せない!! ……魔族どいて! そいつ殺せない!!】

【猫耳少女を愛でてたら泣かれた……なんで? 指一本触れてないのに……紳士なのに】


 それは、王都の各地で任務に従事している魂喰兵(ワイト)達からの……緊急事態を告げる連絡だった。


 魔族が攻撃? それに人間を守る? 確かに歌姫達がいたが……こんなに沢山? 一体何が起こってるんだ……!?


 初めての一歩を踏み出した私達の頭上に不吉な暗雲が立ち込め始める。


【雨! 雨! 降れ! 降れ! ニャ~! ニャ~! ニャ~!】


 ……雨豹(ヤガー)の手が招いた雨雲だった。

ついに初めの一歩を踏み出しました。


しかし、進む先には暗雲が……


夕方までの感染者……四三二万人(街から逃げたもの除く)

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