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骸骨の夢  作者: 読歩人
第八章 御返し編
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手段と目的

優先されるのは、目的です。


手段自体が目的になるとそれは、手段ではなく別の何かになります。

『だがヤダ』


 コメディから放たれた拒絶の意思……その返事にコメディを戦頭(いくさがしら)に望んだ調停者ゼミノールは巨顔を曇らせた。

 朽ちた顔に浮かぶのは、驚きや怒りではなく疑問。


【何故断るのか……教えてもらっていいだろうか? ……コメディ】


 ゼミノールは、断られた理由を尋ねたが……コメディが応える前に私が颯爽と会話に割り込んだ。

 より重要なことを尋ねるために!


【コメディ!! さっきの溜め息はなにぃぃぃ!?】


 そう。より重大な案件――コメディが私を見つめて溜め息をついたことである。


 疲れているのだろうか?

 それとも倦怠期?

 まさか飽きた!?


 様々な不安が私に襲い掛かっていた。

 頭蓋骨内に妄想したジフ様に『ジフ様! どうぞ御助けください!』と祈ってしまうほどだ。


「ジャシャ」【黙れ】


 はい。黙ります。


 一言で私を沈黙させたコメディは、口を動かさず陰の精気のみで語り始めた……


【ゼミノール……オマエタチと、目的が、違う】


【目的は同じはずだ。人を狩り、仲間を救う……コメディ】


【目的は安全。そのために、テキを狩る。そして、魔族を、助けてるのは……スアナ】


【同じことではないかね? 後、スアナとはオオナタのことだね。彼が助けるとは?……コメディ】


 そうなのだ。何故か知らないがコメディは、私のことをスアナと呼ぶ。

 いや、そうじゃなくて私が魔族を助けるとは一体?

 魔族を助けた記憶はないのだが……そりゃぁ目の前で困ってたら助けるけど。

 ……特に獣人は。


手段(・・)と、目的(・・)は、違う。似ていても、異なる】


 狩りが手段で、目的が狩り? 目的が手段で、狩りが狩り……なんなのだ?


【ワイトは、スアナ。スアナは、ワイト。だから、魔族を助ける】


 何時ものように、悩む私を置いて話は進む。

 たまには私にも分かるように話して欲しい。


【つまり……君にとって人間を狩ることは手段だから、狩ることが目的の私達の戦頭になれないということかね……コメディ】


 なるほど! ゼミノール教官、説明ありがとうござい、まし、た……? 結局どういうことだ?


【少し違う】


 ん? 違うのか……


【狩りは、もう終わる。オマエタチはいらなかった】


 コメディは、そう伝えながら口を大きく開け牙を見せつけた。


【蛇の狩りは、牙を見せる前に、終わってる】


【狩りが終わる? しかしまだこの街には、人間が生き残って……】


 そこで巨人は、言葉を止めた。

 気づいたのだ。

 近づいてくる何者かの気配に。


 勿論、私も気づいた。


 ズシン! ズシン! ズシン! ズシン!


 ……なにせ派手な揺れと騒音付だ。

 視線を向けると建物越しに巨大な白い何か……鎧を着た巨人か?

 とにかく大物が私達を目指し進んできている。

 黄色い星の印――アンスターの国章だ――が額についているからたぶん敵だろう。


「見つけぇたよぉぉぉぉぉぉ!! 骸骨ぅぅぅゥゥゥゥゥゥ!!!!!?」


 さらに間の悪いことに呼んでないのに恐ろしく厄介な怪物まで現れた。

 右側の建物の屋根の上に舞い降りたのは、一人の老婆――魔婆(ハグ)シスムだ。

 赤く染まった目とその下の隈は、徹夜の疲労を如実に表している。


 たぶんめっちゃ怒ってるよな。


「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉうぅぅ回収なんてどうでもいい!! さっさと灰にしてあたしゃ寝るよぉぉぉ!!」


 赤い精気を昂ぶらせシスムが宣言する。


 やっぱり怒ってる。血管が浮いてるし。


 しかし、それに異を唱えるものが、いや、者達がいた。 

 私達ではない。

 勇気ある者――彼らは、白い鉄巨人を先導するように姿を見せた。


死霊魔術師(ネクロマンサー)シスム! 国王よりお前に出頭命令が出ている!

 ここは、俺達に任せて王に申し開きをしてこい!!」


 そう言い放つのは、集団の先頭に立つ男。

 着崩した礼服に、それに似合わぬ両手持ちの戦斧(バトルアックス)持っている。

 無精髭を擦りながら人間の男は続ける。


「このデカブツは、この俺! 大地の勇者ドムが始末しといてやる!」


 はぁ? 大地の……勇者!?


 いきなりの自己紹介に驚いていると。


「勝手に決めないでください。王都を救うのはこの僕……天空の勇者ミラスと決まっているのですから」


「坊主こそどいてナ。国家公認勇者ハ、この海神(わだつみ)の勇者グラコスのもんダ」


「皆さん……協力して戦おうじゃないか……こっのわたぁぁぁぁぁぁしっ陽光の勇者デューランの旗の下に」


「何だと! あたしが……」


「いや! 我こそが……」


 そんな風に『勇者』『勇者』と主張しながら進み出るのは、キンキラ優男、恰幅のいい槍兵、半裸マント……他十数名の統一性のない――とても個性的な人間達だった。


【幽霊少女レレレのレミ! ただ今参上です!!】


 終いにはゴツイ箒片手にレミ嬢までが……崩れた博物館の上で、決め姿を見せている。


 鉄巨人に、魔婆(ハグ)に、勇者を名乗る仮装集団、おまけに幽霊少女。


 急に混沌としだした戦場。その時、私の傍でコメディが呟いた。


「シャジャシャ」【これで終わり】


 そして……攻撃が始まる。


隕石雨(メテオレイン)……」

斬艦刀(ザンバー)……」

「「「「見よ勇者の……」」」」

【一番! 滅びの子守唄……】


 街を轟音が駆け抜けた。

狩り……戦いは本来、手段でしかありません。


果たすべき目的が消えると意味を無くします。


コメディの犠牲者……??(次回で)

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