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骸骨の夢  作者: 読歩人
第八章 御返し編
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調停者の提案

主役は、愚かな巨人と蛇骨の賢者……大鉈? 頭を使うときに壁は要りません。

 朝と昼の狭間――太陽が見上げるほどではないが普通に眺めることもできない高さになろうかという頃……


【お前達は分かってないっ!! 我らの誓いは、私達だけのものではなく誓いを果たせずに散った者達のものでもあるのだっ!! 恥を知れぇ!!】

【だからと言って、今まさに命奪われようとしている家族をほって置けるかぁぁぁぁぁぁ!! 女子供を見捨てて何が戦士の誓いじゃぁぁぁぁぁぁ!!】


 私の体――人間に殺され見世物にされた魔族達の亡骸――の話し合いは、『話』を超えて罵り合いになっていた。

 人間を狩ることを優先する攻勢派と仲間を救うことを優先する守勢派の溝は深くなるばかりだ。

 掴み合いまで発展しないのは、個々の配置的――攻勢派は主に上半身、守勢派は大体が下半身――に手が届かないからだろう。


 はぁぁぁーー……それにしても日の光が気持ちいい。


 いい加減、罵倒合戦を観るのも飽きた私は、日向ぼっこをしながら心の癒しを眺めることにした。


 そう! 体は骨だが頭脳は抜群! 名相棒コメディを!


「シャシャー、シャー?」【鉄巨人の、動きは?】


 私の視線の先で、コメディは首が前後逆の男――当然、死者――に何か尋ねていた。


「鉄巨人は、ノースイースト通りをこちらに向かって移動中。周囲には、歩兵も同行。ただ……」


 死に損なったばかりなのか声を出して話していた魂喰兵(ワイト)がそこで少し言いよどむ。


「シャシャ?」【ただ何だ?】


「……歩兵がおかしい。装備がバラバラ。後、やけに強い」


 尋ねる蛇骨に返された答えは、いま一つよく分からない内容だった。


 装備がバラバラ? 冒険者かなにかか?


「シャシャ? シャー……」【寄せ集め? あるいは……】


 コメディも分からないようだ。首……はないから全身を捻ってる。

 しかしコメディに悩む暇はない。


【こちら銀門橋、人間が大勢きた! 殺しきれない! 援軍欲しい! 敵は非武装!】

魔婆(ハグ)が西三区画に出現! 被害多数!」

「コッケーケ! コッケーケ! コッケーケ!」【友達飛んだ! 隣町飛んだ! 何羽も飛んだ!】

【撫でていい?】

「マリエル様、持ってきた」

【ワタシは、ニンゲンよ……ワタシは、ニンゲンなのよ……ワタシは、アンデッドしゃない】


 次から次へと報告、連絡、相談がやってくる。


 まったく……皆、コメディを頼りすぎである。

 少しは自分で考えるということができないのだろうか?

 私? 私はコメディの相棒だから問題ない。

 あっ、それとマリエル様、生首状態で意識があるあなたは間違いなく死に損ない(アンデッド)です。


「シャーシャー、シャシャシャー、シャー」【橋は逃がせ、走り疲れたら、殺せ】

「シャー、シャジャシャー、シャジャ」【ハグは、鉄巨人、誘導】

「シャシャ、ジャシャ」【鳥は、墓地に】

「シャー」【バカ】

「シャシャ」【よくやった】


 私がマリエル様に勘違いをどう伝えようか考えるうちにコメディは案件を処理していく。

 

 そしてコメディの仕事がほんの僅かな()を迎えた時、今まで何の意見も言わず、また求められなかった男が動いた。


【私は調停者(・・・)として提案する……皆】


 自らを愚かな巨人と名乗る朽ちた巨顔――ゼミノールの意思がゆっくりと光の波紋を描く。


【調停者として……】

【賢き巨人よ……分かった】

【テイアンヲキコウ、ヤサシキキョジン】

【眠いから公園行くニャ~】


 すると驚いたことに、それまで怒号と罵倒を吐き出していた『呪われた遺物』達が全て(・・)争いをやめ……ゼミノールの提案を聞こうと顔や意識を集中させた。


 干し首、じゃなくてゼミノール、こんなに影響力あるなら最初から提案(・・)をすればいいのに……


【私は、太陽が天に至るまで話し合いが終わらぬなら、優れた知恵を持つ古妖精(エルフ)を……宿木の槍を戦頭(いくさがしら)にすることを提案するつもりだった……皆】


 だった? 違うのか?


【しかし、私はより相応しい者を皆が話し合いをする間に見つけた。その者は、同志達が砂に水を掛けている間に数え切れないほどの人間(えもの)を狩り、多くの仲間を救っていた……同志達よ】


 光の波紋を抑えた枯れた巨人が首だけの体を甲羅の上でねじり私を……いや、私の横を見る。


 えっと? それって……


【ま、まさか我輩かニャ!?】


【違う……雨と幸運を招く猫】


 左手――豹柄の手の言葉をバッサリ斬り捨てたゼミノールが見つめるのは……


「シャ?」【なに?】


 我が相棒(コメディ)だ!?


【待つのだ! その蛇は新参者!】【黙れ! 調停者の提案を邪魔するな】【わきまえろ!】


 若干、騒がしくなる中、調停者ゼミノールは魂からの提案――それは願い――を天に向かって語った。


【私は、蛇骨の賢者、彼の者こそ誓いを果たすことのできる戦頭にして振るい手と考え、提案する! ……コメディ】


 ――静寂の後。


【馬鹿なっ!? 古妖精(エルフ)が蛇に劣るとでも言うのか!】

【エルフ、アタマデッカチ】

【蜥蜴がぁぁぁ!? 宿木の糧にするぞぉぉぉ!】

【調停者の提案だ。深く考え答えを出せ】

【ワシではないのか……さて? 獲物を狩り、仲間を救う……か】

【両方を成せるならそれが最も良い】

【それでは、我らの牙と爪はどうなる?】

【ワナ、ツカウ、オナジ】


 これまでで最大の喧騒と、意思と意見の交換が始まった。

 だが、その話し合いは、提案に対する賛否を論じると言うより落としどころ(・・・・・・)を探す気配が感じられる。


 それはそれとして……侮れんなゼミノール、コメディの力を見抜くとは何と深遠なる智謀の持ち主。

 コメディの凄さを知っているのは私だけだと思っていたのに……悔しいぞ!


 私が微妙で繊細な感情に揺れ動いていると相棒――コメディもそれを感じ取ったのか私を見つめてくる。


 なに? コメディ?


 問いかけるがコメディは、一回溜め息をついて顔を逸らし、未だ天を見上げる――まるで縋っているような――巨人を向き……一言。


「ジャジャ」【だがヤダ】


 さっぱり――どれぐらいさっぱりかと言うと暑い日の水風呂ぐらい――拒否した。何を? 勿論戦頭を。


 ところで……私を見て溜め息をついたのは何で?

さて、なぜコメディは断ったのか……


午前中の感染者……二百十六万人


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