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骸骨の夢  作者: 読歩人
第八章 御返し編
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動かざること山の如し

山亀(下半身部分)のことじゃないです。

「コッケー」【ジフ様ー】

「カァァー」【ジフ様ー】

「ポッポー」【ジフ様ー】


 空が……青いな。


 見上げる空を鶏が、烏が、鳩が……一羽、二羽、三羽と飛んでいく。


 あれはニワちゃんかな? 友達ができたのか……良いことだ。


「「「「「「「コッケー」」」」」」【【【【【【ジフ様ー】】】】】】


 ……とても沢山友達ができたようだ。本当に良いことだ。


 自由に街の上空を舞う魂喰鶏(ワイトチキン)達を眺めながら私は考える。


 なぜ鶏は空を飛ぶのだろう……鶏って普通、飛ばないような……? ……まぁ、いいか。


 些細な問題から目を逸らした私は再び『なぜ鶏が空を飛ぶのか?』という命題に意識を戻す。

 そしてそんな風に世界に満ちる深遠なる謎を探求する私の傍ら……というか私の体ではより複雑で混沌とした話し合いが行なわれていた。


 その命題は『どこにいく?』……別に昼飯を食べる食堂を決めようとしているわけではない。

 人間と死に損ない(アンデッド)が、死の舞踏を踊るここアンスター王都にて、どこに向かうべきかを相談しているのだ。

 大体、死に損ない(アンデッド)は食べ物を食べられないし。

 魂? あれは別腹だ。


【人間を狩る! それこそが我らの望みであり果たすべきことだ!】


 私――巨人を軸に様々な亡骸を組み上げた体――の上半身に巻きつけられた狼虎(オオガー)の毛皮が具体的な場所も上げずに叫び。


【ソノトオリダ。ワレラノチカイダ】

【”狩猟の平原”へ】

【斬り裂く】


 甲羅に並ぶ猪の顔と蜥蜴の顔が頷き、上半身に生えた腕に握られる剣からも同意の意思が伝わる。


 彼らは、見つけた人間を全て狩ることを主張している。

 ……見敵必殺サーチアンドデストロイ、非常に分かりやすい。


 ”狩猟の平原”とは、彼らにとって聖一教で言う天国にあたるそうだが……死に損ない(アンデッド)には関係ないことだ。

 彼らの曰く『生前に狩ると誓った獲物――人間――を狩らなければ”狩猟の平原”にいけない』……らしい。


【待て! 私は同族を守るために人間を獲物に選んだ……人間に襲われている同族を見捨てることはできん!】


 別の意見を主張しているのは、亀の甲羅を支える人狼(ウェアウルフ)

 人間を狩るより魔族を助けるようと主張している。


【ワシもその意見に賛成じゃ】

【私もです。これ以上、家族を失うのは耐えられません】

【ギルギルガメガメ】


 こちらにもそれなりの賛同者――猿の手や宿木の槍に山亀(マウンテントータス)の甲羅――がいる。


 しかし亀なのになぜギルギル話すのだろうか? 亀語か?


【人間を一人残らず狩れば仲間も守れる!】

【そのあいだ、かぞく、へる。いやだ】

【多少ノ犠牲ハ狩リニツキモノ】

【滅びそうな一族もいるのですよ!】


 話し合いは、大きく『攻め』と『守り』の二派に別れ、それぞれの中でもさらに色々な――『王城に向かいながら狩る』『公園で昼寝するニャ~』『奴隷になっている土竜人(ワーモール)を助けたい』『名誉人間になっている馬鹿を殴りたい』――意見がある。


 しかし……最初は、『魔王のところに持っていって欲しい』とか言っていたのに、いつの間にか自分達で動く気満々になっている。

 体が無くて何もできない辛さは、私にも分かるから文句は言わないが……話し合いの始めに多方より『お前には関係ない』と言葉をいただいたし。


 いいもん! いいもん! コメディが相手をしてくれるもん!

 なぁ~コメディ!


 私はこの疎外感を共有できる相棒に話しかけようと頭蓋骨を向ける。


「シャーシャー、シャーシャー、シャーシャ」【ノースウエスト、サウスイースト、挟み込め】

【こちら第二十四教会を再奪取。指示を!】

「ジャー、シャシャ」【魔族を、避難させろ】

【武器庫より装備の搬出及び装備完了】

「シャ、シャー、シャー」【橋、港を、確保】

【工廠で土竜の魔族と猫耳の魔族を助けた。どうするコメディ?】

「ジャシャーシャーシャ、シャ」【第三教会、いけ】

【鉄巨人強い! 仲間どんどんやられてる】

「シャシャシャー。シャーシャ」【相手にするな。城落とす】

【攻城兵器見つけた。場所はギルティ商会、第百八倉庫】

「シャジャーシャ、シャシャーシャ」【三区画内の、ワイト集めろ】


 コ、コメディ?


 コメディは地面に地図を広げて死者達――彼らは魂喰兵(ワイト)というらしい――に矢継ぎ早に助言……もとい指示、命令していた。


 広げられた地図には、駒がいくつも置かれ、魂喰兵(ワイト)によって矢印と×印が書き込まれており、報告のたびに駒は数を増やし地図の右上――北東――から左下――南西――へと徐々に徐々に動いていく。


 二十四個の教会と墓地、三つの魔術学院、軍司令部に五つの駐屯地、議事堂、工廠、倉庫、八本の橋に転移門、数え切れない港と通り……×印が書き込まれている場所だ。


 矢印は、地図の中央と外に向かって伸びている。中央は当然王城――王星(ザ・スター)、アンスター王国の真の中心。

 そして地図の端に伸びる矢印には、一つ一つ別の言葉――『将都カルン』『将都ロッスン』『商都ヤー・クニュー』……と読める――が書き込まれていた。


 邪魔したら怒られそうな気がする。いや! 絶対に怒られる! 気配で分かる!


 コメディに遊んでもらうのを諦めた私は、なぜ鶏は空を飛ぶのかを骨久(コツコツ)と考えることにした。


 そして……


【………………】


 愚かな巨人――ゼミノールは、同志達の話し合いに参加することなく、ただ静かにそんな私達を見つめ……しかし、心の中である決断を下そうとしていた。


 そう。動くことなくただ静かに……

船頭多くして……本当に何も動きませんでした。


しかし、見る人は見ているものです。


感染者(コメディの戦果)……百八万人

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