最初の一歩――いざ、戦場に――
これからがニュー大鉈の本当の戦いです。
最初の敵は……
亡者の魂を捕らえ、偽りの栄光を飾る博物館を破壊し外に飛び出した私は……
【ジィィィィィィフゥゥゥゥゥゥざぁぁぁぁぁぁまぁぁぁァァァァァァーーー!!!!】
とりあえず叫んでみた。
ジフ様を讃える光の波紋が私を中心にして街に拡がっていく。
「シャシャ」【五月蝿い】
左肩に繋がっているコメディが体を震わせ――壊した博物館の破片を払うためだ――ながら苦言を述べる。
うむ! やはり相棒の突っ込みはいいものだ!
しかしその苦言も、精気溢れる体と新たな仲間、そして懐かしき相棒との再会と、嬉しい事続きで超前向き思考になっている私にとっては御褒美でしかなかった。
「ジャジャシャジャ……」【バカが進んでる……】
そう! 馬鹿が進んでるんだ! 何事も万事順風満帆だ!
コメディの辛辣な酷評に感激していると博物館を壊したときに舞い上がった粉塵が徐々に収まってきた。
邪魔な煙が晴れた視界には、アンスター王国が誇る大型建築物が朝日に照らされ美しく輝き……
「殺せ!」【殺せ!】【癒しはどこ?】「コロセ!」「殺せ!」「ころしゅえ!」「ゴロセ!」
……もとい、赤黒く斑に染まり何十、何百という死者が走り回っていた。
えっと……?
予想だにしない光景に凍りつく。
【なんじゃこらぁぁぁぁぁぁ!? ……オオナタ】
私の心を下半身――亀の甲羅についている巨顔が代弁してくれる。
【我らの獲物はどこだ?】【死者の群がなぜ?】【コロセ! コロセ!】【先を越されたのか!】【眠いニャ~】
巨顔――ゼミノールと同じように私の体を構成する魔族の亡者も――少し違うのもあるが――似たり寄ったりの反応だ。
ただ、同じ情報でも受け取る者が違えば意味も異なる。
深い英知を秘めた賢蛇は、ただ一人……一匹? 全てを見通していた。
「シャジャジャ……シャシャジャジャー?」【アンデッド……ワイトが増えた?】
コメディは何か分かっているようだ。流石コメディ! 偉いぞ!
私が感心する間に、コメディは周囲を見回して……たまに『状況送れ』と研ぎ澄まされて精気を四方に放つ。
【何をしているのだね? ……コメディ】【蛇坊、どうした?】【ニンゲンカル】【朝日が眩しいニャ~】
「………………」
私達がそんな謎の行動の意味を問いかけてもコメディは沈黙したままで。
まさか……嫌われた? いや!? そんな訳が……
無視されて少し不安になってきた時だ。
遠近上下四方八方から問いの答えが届いたのは。
【こちら十三教会。貴族街は制圧済み】
【同じく第一、第二、第三教会制圧オワタ】
【ミット魔術学院は陥落。死霊魔術師マリエル様の頭部を救出】
【ノースイースト通りは勢力下なり】
【国土奪還戦争軍人墓地ヨリ。仲間増エタ】
【第二十四教会は人間に奪還された】
【魔族が人間に襲われてる! 援軍求む! 場所はサウスウエスト通り!】
【王城未だ陥落せず】
【ジフ様に栄光アレェェェェェェ……!】
【国軍統合司令部五つ星は九割制圧! 殺せ!】
【武装民間人多し油断は禁モギョ!?】
【逝った?】
【マック記念公園に人間を確認。これより襲撃す。ジフ様のために!】
街中から状況――人間達との戦況だ――が怒涛のように伝わってくる。
そう。コメディは、情報を、戦いに一番重要なもの――船長ガデム様曰く――を集めていたのだ。
答えたのは誰か?
勿論……死に損ないだ! 仲間が戦っているのだ! 人間達と!
それさえ分かれば十分だ。
私は、前後の状況や理由など考える前にまず動いた。
目指す場所は、サウスウエスト通り……南西に向かえばいいのだろう。援軍を欲しがっている。
【狩が始まっている! 遅れるな同志達よ!】【我ら”狩猟の平原”に】【時は来た! 天が泣き! 地が叫ぶ!】【人間めぇぇぇぇぇぇ!】【眠いニャ~……蛇を弄りたいニャ~】【魔族……我が末か?】
人狼の剥製が吠え、極彩色の羽扇が昂ぶり、宿木の槍が戦慄く。
この世の全ての死は、心を一つにした。
――『いざ戦場に参らん』――
異形の巨体がアンスターに滅亡を告げる最初の一歩を踏み出した……いや、踏み出そうとした。
【第二十四教会だ】【オウをコロせ】【憎き星を落とすぞ!】【カリダ! カリダ!】【敵はマック記念公園にあり!】
亡霊はバラバラな戦場を欲し、
「!? ジャ!」【!? まっ!】
賢蛇の悲鳴が満ちる中……
天地逆転?
世界が私を軸に回った。
~~~~~~~~
そして周りの建物の中で辛うじて生き残っていた人間達は見た。
栄光と繁栄の軌跡を刻む王立博物館より現れた絶望が……
狼、熊、蜥蜴、蟻など百魔の脚を四方に伸ばしつつ……
それに支えられる巨顔を生やした甲羅が転じ……
亀首の代わりに伸びる多腕巨人が身を屈め……
猫と猿の手を交差させながら……
蝙蝠と鳥の羽を羽ばたかせ……
三回転半宙返りを失敗してするのを。
人々の顔に驚きが刻まれ。
「「「「「ブッ!!」」」」」
仮初の笑いが戻った。
~~~~~~~~~
何をどうしたか分からないが、全身が出鱈目に動き奇跡的な曲芸を見せた後。
天辺――巨人の首に繋がっていた頭蓋骨は、三度天地を入れ替えて……最終的に石畳に突き刺さった。
ゴッゲハァァァァァァ!?
【王城より近衛らしき精鋭が出現。後退する】
【鉄の巨大兵を視認した】
【馬鹿が自滅した】
【コメディ無事?】
「シャシャシャ」【転職したい】
【敵総司令部制圧】
【マリエル様どうする?】
【コメディに聞けば?】
「コッケケ!」【ジフ様!】
【ニワちゃん達が馬鹿に接近】
【待つでぇぇぇぇぇぇす!】
【レミ嬢も確認】
【警戒せよ! 警戒せよ!】
延々と届く戦況速報を聞きながら。
ズゥゥゥゥンンン!!
逆さ状態だった私は、山を転がすような音を立てながら倒れた。
「シャー、ジャジャ、シャシャー」【オマエラ、バラバラに、動くな】
コメディの苦言が頭蓋骨に痛い。
集団を組織した場合は、上意下達を徹底するか、全員の意思統一が必要です。
意思を統一しているワイト――量産型大鉈は多大な戦果を上げ。
統一されていないオリジナルは……
馬鹿達以外の感染者……五十四万人