新たなる希望
絶望の中にこそ希望があります。
「・・・・・・以上が最前線で戦う指揮官としての意見だ」
延々と続いた死霊騎士の言葉が終わったとき、ジフ様は涙も涸れはてたのか虚ろな眼窩で床を眺めていた。
私はジフ様の背骨を撫でながら、兵士長のおやっさんが言っていた言葉を思い出す。
『実際に戦った奴の言葉は、絶対に聞いておけ! これができないと死ぬぞ!』
初めて生前のことを思い出せた! これで私は死なない! ・・・・・・もしかして手遅れだろうか?
「死霊騎士様、最前線デナケレバイカガデショウカ?」
突然、顎割れ死体騎士が死霊騎士に提案する。
「湿原ヤ密林ナド障害物ガ多ク、騎士ヤ魔術師ガ戦エナイ場所ナラ、蛇骨兵モ有用デハナイカト?」
「確かにそのような場所なら、それなりに戦えるかもしれない。しかし、私達がこれから向かうのは、大陸中央部なのだ。城塞都市や穀倉地帯を奪い合う攻城戦と会戦が多くなることだろう。
むしろ蛇骨兵は、今のように材料の調達・・・・・・非武装の人間や動物を狩るのに適していると思える。あくまで個人的な意見だが」
顎割れ死体騎士の提案に顔を上げたジフ様は、死霊騎士の答えに再び頭蓋骨を垂れる。
役に立たない顎割れ死体騎士だ。さっさと私のようにジフ様を慰めないか。
「・・・・・・ジフ殿。そんなに落ち込まないでくれ。首席殿なら私と違う意見かもしれない。定時報告の件もある、水晶玉の遠話で相談してみてはどうだ?」
ジフ様は、死霊騎士の言葉にゆっくり立ち上がると、恋人にふられた先輩のような足取りで下への階段に向かう。
「ナントカナリマセンカ?」
「死体騎士殿の思いは理解できるが、大陸中央部では難しい。他の戦線ならまだしも・・・・・・わっ!?」
階段のところまで行っていたジフ様が戻ってきた。一瞬で死霊騎士の兜を掴みその頭蓋骨を覗き込む。
「死霊騎士ユウ・バジーナ様。その話、ゆっくりと全て一つ漏らさず御聞かせ願えますか?」
「首の骨が折れる! ジフ殿! 貴殿本当に死霊魔術師なのか?上でのことといい、今といいその身のこなしは魔術師の動きではないぞ!?」
「そんなことより話を御聞かせください」
「そんなことって!? いや! わかった話す・・・・・・東海つまり大陸東部の二つの半島に挟まれた内海で、人間達の艦隊が活発に動いているらしい。それで死霊王様が幽霊船を増やされたのだが、船員が不足しているんだ。海の上なら人間達も軽装だし、幽霊船だからいつも雨雲や嵐と共に移動している。蛇骨兵の能力を有効に発揮できるし火の雨や聖なる雨も怖くない。いい加減放してくれ!?」
「まだです。その幽霊船に私の蛇骨兵を乗せていただきたいのですが? どのようにすればよろしいでしょうか?」
「そこまでは私にもわからん。首席殿に聞いてく・・・・・・あ、待てよ・・・・・・いや! なんでもない!」
「いま何か思いつきましたね?御教えください御願いします」
「ジフ殿! これは御願いする態度ではないぞ!? 頚骨が砕ける!! なんという精気だ!!! これほどまでの逸材がなぜこんな辺境に?」
「もう一度だけ言います。御教えください御願いします」
「それはすでに脅迫だぞジフ殿!? 騎士は脅迫にびゅあグげ・・・・・・せ、船長が友人に、幽霊、船の船長が・・・・・・」
「何でも致しますので、その御友人を御紹介ください御願い致します」
「く、首を・・・・・・」
「ジフ様、ソレ以上ハ死霊騎士様ノ首ガッ」
ペキ
顎割れ死体騎士がジフ様を止めた瞬間、非常に軽い音と共に死霊騎士の首が折れた。
ちなみに床に落ちた死霊騎士の頭部は、非常に重い音を奏でた。
流石はジフ様、最強です。
死体兎&死体栗鼠達が勝利の踊りを踊り始めた。
ジフ様やっちゃいました。